一冊の著書により親友を失いヒトラーに加担してしまった一人の男の物語。
現代の“GOOD”、日本語のタイトルを「善き人」という映画は、無台劇の映画化。
監督:ヴィンセント・アモリン
出演:ヴィゴ・モーテンセン、ジェイソン・アイザックス、
ジョディ・ウィテカー、スティーヴン・マッキントッシュ、
マーク・ストロング、ジェマ・ジョーンズ、アナスタシア・ヒル
20世紀ベスト舞台劇100本の1本に選ばれたというこの作品の舞台は、ナチスが合法的な選挙で政権を掌握したベルリンである。
あらすじ:大学教授ジョンは、病身の母親の世話をし、少々エキセントリックな妻と子供たちのために、献身的に家事をこなす“善き人”すぎるのではないかというくらいだ。
そんなジョンの書いた小説がヒトラーの目にとまったことから、彼の人生は大きく動き始める。
ヒトラーが気にいったというジョンの書いた小説というのが、愛ゆえに難病の妻を死に至らしめる男の物語。小説はフィクションだから、この物語を美談だと受け取る読者がいても構わないと思う。しかし、ヒトラーには狙いがあったのですね。
それは理由さえあれば人の生きる権利を奪ってもかまわない、という考え方を正当化しようというものだったのです。ジョンは自分の小説がどんなことに利用されようとしているのか、書いた自分が政府の側に立つことで、どんな運命が待ち構えているのか、薄々想像しながら補う余裕なんてなかった。
むしろ政権のお気に入りになったことで、入党を決意したのだから。それまでの自分の生活を清算しようと考えるわけですね。母親を故郷へ連れ帰る。妻子と別居。元教え子のアンと再婚、・・・それはまるで“善き人”だった自分との決別をしたのです。
しかし、ジョンは手のひらを返したように“悪い人”になったわけではないといったら嘘になります。主人公のとった行動は決して共感できることではないと思います。時代の波にほんの少し上手く乗ってみただけだった。ユダヤ人の友人モーリスに誘われれば、約束を守って彼の家を訪ねることもした。
モーリスは、ナチのお偉いさんになったジョンに、国外脱出のためパリへの切符を手に入れてくれるように頼むのだが、ジョンは彼の頼みを聞き入れることができずに、自分を守ることを考えたのでしょうね。大事な親友を失くすことを知っていながら、断ってしまい、後で悔やんでも気が付いたときには絶望的なことになっている。
やがて“水晶の夜“、パリ駐在のドイツ人書記官がユダヤ人に殺されたことから、ドイツ本国でユダヤ人の商店やシナゴーグが襲撃され、多くのユダヤ人が逮捕され、連行されてしまう事件が起きる。
ジョンは、モーリスを探して街へ出るが、見つけられずそれっきりモーリスは行方が分からなくなってしまう。
第二次世界大戦が始まり、ジョンは親衛部隊の幹部に昇進していた。連行されたユダヤ人の膨大な記録文書があることを知ったジョンは、モーリスの消息を調べて収容所の一つに行きつくのである。そこでジョンが目にしたのは、あまりにもたくさんの「モーリス」たちだったのです。
歴史上まれにみる虐殺。組織的、計画的に殺されたのはユダヤ人、文化人、ゲイ、政治活動家、そして精神的身体障害者たち。彼らの生きる権利はなぜ奪われたのか?・・・彼らの生きる権利を奪う理由はあったのか。理由があったとしても、それは万人に納得のできるものだったのか。
どの時代のどこに生まれたら、もしも自分がジョンだったら、ナチスに逆らってでも行動できるだろうかと自問自答してしまう。いつもナチス政権下のヨーロッパの映画を見る度思い浮かべてしまう。自分がユダヤ人だったら、自分がドイツ人だったら。彼らはみな“悪い人”ではなかったはず。そんな人達が見過ごした、あるいは見て見ぬふりをした、その結果がホロコーストだったのですね。
クライマックスで見せるジョンが、ユダヤ人収容所へやってきてその悲惨な光景に打ちのめされるシーン。ヴィゴ・モーテンセンの顔色が変わる瞬間をカメラが捉える。一筋の涙が頬を伝う。見ている我々も自然に涙が流れて、胸が締め付けられる。
いつ見てもナチス時代のドイツを描いた作品に、心をかき乱され涙でしか現わすことができないもどかしさに、自分がこの平和な時代に生まれたことを感謝すると同時に、あの時起きたことは、もしかしてまた起こりうるのだという思いに襲われ、考え過ぎかもしれないが心臓が縮む思いがした。
2012年劇場鑑賞作品・・・40 映画(アクション・アドベンチャー) ブログランキング
現代の“GOOD”、日本語のタイトルを「善き人」という映画は、無台劇の映画化。
監督:ヴィンセント・アモリン
出演:ヴィゴ・モーテンセン、ジェイソン・アイザックス、
ジョディ・ウィテカー、スティーヴン・マッキントッシュ、
マーク・ストロング、ジェマ・ジョーンズ、アナスタシア・ヒル
20世紀ベスト舞台劇100本の1本に選ばれたというこの作品の舞台は、ナチスが合法的な選挙で政権を掌握したベルリンである。
あらすじ:大学教授ジョンは、病身の母親の世話をし、少々エキセントリックな妻と子供たちのために、献身的に家事をこなす“善き人”すぎるのではないかというくらいだ。
そんなジョンの書いた小説がヒトラーの目にとまったことから、彼の人生は大きく動き始める。
ヒトラーが気にいったというジョンの書いた小説というのが、愛ゆえに難病の妻を死に至らしめる男の物語。小説はフィクションだから、この物語を美談だと受け取る読者がいても構わないと思う。しかし、ヒトラーには狙いがあったのですね。
それは理由さえあれば人の生きる権利を奪ってもかまわない、という考え方を正当化しようというものだったのです。ジョンは自分の小説がどんなことに利用されようとしているのか、書いた自分が政府の側に立つことで、どんな運命が待ち構えているのか、薄々想像しながら補う余裕なんてなかった。
むしろ政権のお気に入りになったことで、入党を決意したのだから。それまでの自分の生活を清算しようと考えるわけですね。母親を故郷へ連れ帰る。妻子と別居。元教え子のアンと再婚、・・・それはまるで“善き人”だった自分との決別をしたのです。
しかし、ジョンは手のひらを返したように“悪い人”になったわけではないといったら嘘になります。主人公のとった行動は決して共感できることではないと思います。時代の波にほんの少し上手く乗ってみただけだった。ユダヤ人の友人モーリスに誘われれば、約束を守って彼の家を訪ねることもした。
モーリスは、ナチのお偉いさんになったジョンに、国外脱出のためパリへの切符を手に入れてくれるように頼むのだが、ジョンは彼の頼みを聞き入れることができずに、自分を守ることを考えたのでしょうね。大事な親友を失くすことを知っていながら、断ってしまい、後で悔やんでも気が付いたときには絶望的なことになっている。
やがて“水晶の夜“、パリ駐在のドイツ人書記官がユダヤ人に殺されたことから、ドイツ本国でユダヤ人の商店やシナゴーグが襲撃され、多くのユダヤ人が逮捕され、連行されてしまう事件が起きる。
ジョンは、モーリスを探して街へ出るが、見つけられずそれっきりモーリスは行方が分からなくなってしまう。
第二次世界大戦が始まり、ジョンは親衛部隊の幹部に昇進していた。連行されたユダヤ人の膨大な記録文書があることを知ったジョンは、モーリスの消息を調べて収容所の一つに行きつくのである。そこでジョンが目にしたのは、あまりにもたくさんの「モーリス」たちだったのです。
歴史上まれにみる虐殺。組織的、計画的に殺されたのはユダヤ人、文化人、ゲイ、政治活動家、そして精神的身体障害者たち。彼らの生きる権利はなぜ奪われたのか?・・・彼らの生きる権利を奪う理由はあったのか。理由があったとしても、それは万人に納得のできるものだったのか。
どの時代のどこに生まれたら、もしも自分がジョンだったら、ナチスに逆らってでも行動できるだろうかと自問自答してしまう。いつもナチス政権下のヨーロッパの映画を見る度思い浮かべてしまう。自分がユダヤ人だったら、自分がドイツ人だったら。彼らはみな“悪い人”ではなかったはず。そんな人達が見過ごした、あるいは見て見ぬふりをした、その結果がホロコーストだったのですね。
クライマックスで見せるジョンが、ユダヤ人収容所へやってきてその悲惨な光景に打ちのめされるシーン。ヴィゴ・モーテンセンの顔色が変わる瞬間をカメラが捉える。一筋の涙が頬を伝う。見ている我々も自然に涙が流れて、胸が締め付けられる。
いつ見てもナチス時代のドイツを描いた作品に、心をかき乱され涙でしか現わすことができないもどかしさに、自分がこの平和な時代に生まれたことを感謝すると同時に、あの時起きたことは、もしかしてまた起こりうるのだという思いに襲われ、考え過ぎかもしれないが心臓が縮む思いがした。
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