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パピとママ映画のblog

最新劇場公開映画の鑑賞のレビューを中心に、DVD、WOWOWの映画の感想などネタバレ有りで記録しています。

偽りの人生 ★★★

2013年10月24日 | あ行の映画
ビゴ・モーテンセンが一卵性双生児を1人2役で演じたサスペンスドラマ。第82回アカデミー外国語映画賞を受賞したアルゼンチン映画「瞳の奥の秘密」(2009)のプロデューサー陣が製作、同作のヒロインを演じたソレダ・ビジャミルも出演。
<感想>一見シンプルなようでありながら、妙にそそられる意味深な邦題が付けられている。「偽りの人生」=“真実の人生”をもとめて。自分のあるいは、他者の意志を尊重しつつ重ねた選択を経て、今現在の生活を、一切の不安や不満を覚えることなく自信を持って立っていられる人間がどれほどいるのであろうか。

本作の主人公であるアグスティンも、まさにそうした袋小路に陥った人物の一人である。誰からも信頼される医師として毎日を忙しく過ごしながら、輝かしいキャリアを誇る美しくエネルギッシュな妻と共に、ブエノスアイレスの高級マンションで暮らし、傍目には何不自由のない優雅な人生を送っているかのように見える。
しかしながら、その実情は、結婚から8年を経ても未だに子供に恵まれず、夫婦関係にはかげりが見え隠れしているのだ。養子縁組に躍起となる妻を横目に、父親になれる器ではないと自覚しているアグスティンは、眠れぬ夜をアルコールでまぎらしつつも、一人自室に引きこもってばかりいる。

そんなどん底であえいでいた時に、長らく音信不通であった双子の兄貴、ペドロが目の前に突然現れる。末期がんに冒されていて余命いくばくもないと、衝撃の告白をしたのにつづき、殺して楽にして欲しいと弟に懇願するのだ。
思いもよらぬ突然の頼みにひるみつつも、衝動的に風呂に入っている兄貴をバスタオルで窒息死させて殺してしまう。
それからは、その兄のペドロに成りすまし、久方ぶりに故郷へと足をふみいれるのだが、表向きの養蜂家としての肩書の陰で、腐れ縁の昔馴染みらと共に深刻な悪事にも手を染めていた兄の裏人生が、何も事情を知らずにいた弟に重苦しくのしかかってくる。

これは、うり二つの双子がある事情で入れ替わるという設定は、映画的には定番とは言え、これまでも何度か数多く挑んできたと思われる。
今回一人二役で、おなじ外見に正反対の内面を潜ませる特異なキャラクターを演じるのは、幼少のころ過ごしたと言う懐かしい国、アルゼンチンに錦を飾るビゴ・モーテンセン。

対照的な人生を送って来たこの双子の役に対しても、幼少期からの確執の末、アグスティンとペドロが対峙することになる緊迫感あふれるシーンでは、弟のアグスティンの鬱々とした精神状態を反映してか、序盤の清楚な医者とは違い、髭を伸ばし放題のペドロと同じく髭を生やしているため、髭ずら同士という兄弟対決と相成る。
おのずと演技的なハードルも上げられるのを楽しんでいるような、重病とはいえただ者ではないオーラをギラつかせる兄と、いくつになっても兄に頭が上がらない気弱な弟を、内向的な芝居で声色や眼光の微妙な加減で見事に演じ分けているのは、カメレオン俳優であるモーテンセンの真骨頂であると見た。

監督の思いでの地であるというアルゼンチン北部に位置するデルタ地帯が、因縁や宿命に否応なく絡めとられてしまう。物語の舞台として異様な説得力を放っているようでもある。
あらゆる秘密やよからぬ噂話が、ひっきりなしに行き交う船や水の流れに乗って、島全体につつぬけなるかのような剥き出しの無防備さと、行けども行けども霧、もやがかった見とうしの悪い眺めが続く、息の詰まる閉塞感。どうやらペドロは悪友たちと人を誘拐して身代金をふんだくるという悪どい仕事をしている。

劇中でも希望と絶望とが生々しく交錯する場所の名称として用いられている「エル・ドラド=黄金郷」を求め、ここではない何処かへの旅立ちをいつか夢見て、理想と現実との間で葛藤する人々のやるせない心情を、美しくもグロテスクなロケーションが物語っているようでもある。

安定した暮らしを手に入れてもなお、生きることに価値が見いだせずにいた弟のアグスティンが、刹那的だが気の向くままに生きてきた兄のペドロの人生を借りて、新たに生き直すことで、かけがえのない存在にも出会い、自らの殻を打ち破っていく。
人生、一度きりしか生きられないものである以上は、挫折や後悔、嫉妬や憧れをひたすら膨らませて作り上げた、ありもしない真実の人生に思いを馳せたまま、地道に歩んできたはずの“偽り”の人生を未練たっぷりに終えてゆく。
そんなふうに人生の最期を迎えるときに、人は振り返って思うものかなぁ。理解不能な生き方に憤りを感じた。
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