パピとママ映画のblog

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大いなる沈黙へ ★★★.5

2014年10月04日 | あ行の映画
カトリック教会の中でもとりわけ厳格な戒律で有名なグランド・シャルトルーズ修道院で、日々の務めに励む男子修道士たちの姿を追ったドキュメンタリー。人里離れた場所で自給自足の生活を送りながら毎日祈りをささげ、質素な生活の中で生涯を過ごす修道士たちの日常をカメラが捉える。メガホンを取るのは、ドイツ出身のフィリップ・グルーニング。構想から実に21年を経て実現した、中世から変わらぬ修道院のありのままの映像が心を揺さぶる。

あらすじ:1984年、ドイツのフィリップ・グルーニング監督は、フランスアルプス山脈にあるグランド・シャルトルーズ修道院に撮影を申し込む。その16年後ついに許可が下り、監督はおよそ半年の間修道院の一員としてほかの修道士同様に独房での生活を送る。りんとした沈黙の中、彼らはほとんど会話することもなく、礼拝、瞑想、祈りなどの日課を粛々と行う。

<感想>グランド・シャルトルーズ修道院は、フランスアルプス山脈にある。シャルトルーズの名前は、もしかしたらハーブリキュールで知られているかもしれない。中世に端を発する三十以上の房を持つ巨大なカルトジオ修道院であり、カトリック教会の中でもひときわ厳しい戒律を守る男子修道院である。
深山の雨の波紋が白い水面に黒く広がり重なって光る。服のボタンを縫う僧侶と各種のボタンの大写し。

時間を告げる鐘の音、神にささげられる聖歌の調べ、厚い布を裁ち、木材を加工する暗しの響き、・・・。彼らの「大いなる沈黙」は、すでにそこにある音と調和し、身をあずけることで守り通されている。
礼拝し鐘を慣らし、薪を割り猫に餌をやり、床屋に髪を刈ってもらい、雪の日にはそりで滑り、ころんで笑う僧たち。修道院の日々を照明なしで長期間撮影したこの3時間近い記録映画を、息をのむように観るのだが。

ですが、なにか特別なことが起きるわけではない。むしろ、彼らの生活はすべてが正確な反復で成り立っているのだから。そのリズムを決して乱すことのないカメラは、その反復の正確さそのものを、あたかも恩寵のように受け取っているのだ。
ともすれば眠気をもようするような映画でもあるのだが、静かな映像にしばしの間、スクリーンに釘付けになってしまう。
いくらでも観ていたくなるようでもある。映画に時間が自分の中に浸み込んでいくような感覚を味わうのは久しぶりのような気がする。まさに、これこそが映画なのである。
観客の想像力に映像と音響をゆだねることで、眼と耳をそばだたせ、フレームに思考の空間をひらこうとする。ナレーションや説明字幕によって補われることのない言葉を、映画作家は、そして観客は、みずからの感覚のうちに育んでいくのである。

「主よ、あなたは私を誘惑された。私はそれに身をゆだねた。」作中に何度も引かれる預言者エレミヤの言葉は、まるでこの修道院に導かれた映画作家自身のようにも聞こえてくるのだ。
冬ともなれば雪に閉ざされ、世間から隔絶された自給自足の場なれど、さすがにバナナやパソコンや、プラスチック製品が修道院内で作られているとは思えず、外部の経済と何等かのかたちで繋がっているはずで、個人的にはそのあり方をむしろ知りたいと思うのだけれど、修道院内の空気と時間を写し取ったという面においては、大変に優れた映画だと思います。
自然光だけによる撮影も見応えがあり、何よりも、本来取材を受け入れないはずの修道士たちに、これだけ肉薄したというだけでも素晴らしい。
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