「東京ラブストーリー」「最高の離婚」「カルテット」など数々のヒットドラマを手がけてきた坂元裕二のオリジナル脚本を菅田将暉と有村架純の主演で映画化。坂元脚本のドラマ「カルテット」の演出も手がけた、「罪の声」「映画 ビリギャル」の土井裕泰監督のメガホンにより、偶然な出会いからはじまった恋の5年間の行方が描かれる。
あらすじ:東京・京王線の明大前駅で終電を逃したことから偶然に出会った大学生の山音麦と八谷絹。好きな音楽や映画がほとんど同じだったことから、恋に落ちた麦と絹は、大学卒業後フリーターをしながら同棲をスタートさせる。日常でどんなことが起こっても、日々の現状維持を目標に2人は就職活動を続けるが……。
<感想>同じ価値観で結ばれた大学生の男女が、仕事と生活への向き合い方ですれ違っていく。男の麦は震災後にひたすら貧困化した日本社会の被害者だろう。芸術の才能がありながら安いギャラで使い捨てられ、就職活動に苦戦をしながら労働に忙殺されて感性が麻痺してしまうのだ。
それが大人になるということなのかもしれない。だが、ポケットに入れて置いた夢が、日々の洗濯で色あせて溶けて消えたのは、果たして彼だけの責任なのだろうか。
自分たちはみんなとは違うと、趣味の良さを特別視するのもいやらしいが、それよりも、この二人も趣味の延長のままでは生きられず、仕事をするようになってすれ違い、別れに至るという身もふたもない展開に不満。
花束みたいな、つまり地に足のついていない恋など、いずれは破綻するしかないのだろう。どうせかなわないのなら夢など見るだけ無駄。こんな保守的な映画を若い人たちが好むとしたら、絶望的に思うのだが。
恋という文字がタイトルあるからには、恋愛映画だのだが、そうでもない気がするのだ。恋人たちの恋焦がれるまなざし、高鳴る胸の鼓動、言葉にできないもどかしさ。息をつめて悶々としながら、そして突っ走っていく。
恋愛ものにつきもののそれらはどこにもないのだ。どこにでもいるような男と女の、いくらでも見かける恋愛模様。名脚本家があえてそれにチャレンジしたのだろう。
だが、日常と地続きの話を映画にする難しさを改めて知らされたと思った。日常を映画にしてきた小津安二郎や成瀬巳喜男の偉業の素晴らしさは、今や奇跡といっていいだろう。
膨大なるカルチャーネタへの言及も含めて、ある恋人たちの物語から、日本の5年間が見えて来るのだった。悲しかったのは、この二人の恋が薄れてゆき、別れるという最後には、残念でならない。まぁ、別れて初めてお互いの良さを知り、もう一度結ばれるというチャンスはあると信じて。
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