パピとママ映画のblog

最新劇場公開映画の鑑賞のレビューを中心に、DVD、WOWOWの映画の感想などネタバレ有りで記録しています。

2つ目の窓 ★★★

2014年09月17日 | は行の映画
『萌の朱雀』でカンヌ国際映画祭カメラドール、『殯(もがり)の森』で同映画祭グランプリを受賞した鬼才、河瀬直美が放つドラマ。奄美大島に暮らす16歳の少年少女と周囲の大人たちの姿を通じて、自然と人間との共存や命について描かれる。主演は、オーディションで抜てきされた村上淳の息子である村上虹郎と『あぜ道のダンディ』などの吉永淳。その脇を杉本哲太、松田美由紀、渡辺真起子ら実力派が固める。壮大で深淵なテーマをはらんだストーリーに加えて、奄美大島の自然を余すところなく捉えた映像も胸を打つ。
あらすじ:奄美大島で生活している16歳の界人(村上虹郎)と同級生の杏子(吉永淳)。ある日、島の人々の相談を受けるユタ神様として生きてきた杏子の母イサ(松田美由紀)が、難病で余命わずかなことがわかる。杏子を励ましながらも、神と呼ばれる者の命にも限りがあることに動揺する界人。そんな中、恋人のいる母・岬(渡辺真起子)が醸し出す女の性に嫌悪感を抱いた彼は、衝動的に幼少期に別れた父のいる東京へと向かう。久々に父子一緒の時間を過ごして島に戻った界人だが、岬の行方がわからなくなったという知らせが飛び込んでくる。

<感想>映画は奄美大島を舞台に、少年少女の恋、そして少女の母であり島のシャーマン的存在であるユタの死が描かれているため、次の世としてあの世をイメージする題名なのかと思えばそこまで単純ではないようである。
少年少女の成長の物語でもあるし、生命が生まれた海を一番と考えると陸が二番目という意味もあるようですね。
物語そのものは倫理的に組み立てられていて、分かり安かった。死にゆく母(松田美由紀)も、奄美の長老亀次郎(常田富士男)の「人は誰でも死ぬんじゃ」という台詞も、若い二人、界人と杏子を優しく見守り、命の繋がりの大切さを説いている。
そんな明快なメッセージを艶やかに見せているのは、木々や海を映し出すカメラだが、それだけだと、予定調和に終わりかねない世界に、唯一、違和感をもたらすのは、怪獣が吠えるような工作機械が、木々を噛み砕くショットであろう。

波も風もその媒介者であり、そして人間も。だから「セックスしようね」という話で、真理を本能的に体得しているのが主人公の少女である。少年はいつもタジタジで、つまりこれは、女による男への性教育映画なのだろう。
昔っから、河瀬直美作品の少年少女の瑞々しさときたら凄かったが、今回の主演二人にも目を見張ってしまった。実の父親で、しかも設定まで大きくかぶる村上淳との共演、という難役を演じたこれが俳優デビュー作となる界人役の村上虹郎もたいしたものだが、杏子役の吉永淳にいたっては、濡れた髪の毛の毛先の跳ね方までカンペキに見えた。

そして、何よりも河瀬監督の幼年ならぬ幻想の時代への視点のブレのなさ。奄美大島は、監督の母方のルーツの地である。自分のルーツを確認して再構築するというか、この先自分はどうやって命を繋げていくんだろうと言うことを考えているのではないかと。
界人が夏祭りの晩に、海辺で壮年の男の溺死体をみつける。その男の背中一面に彫られていた龍の刺青が、波に洗われユラユラと蠢く光景を何度も頭の中でリフレインする。物語が進むにつれ、界人の頭の中を占める刺青のイメージは、二人の男の存在から想起されていることが明らかになる。

一人は離婚して、今では東京で離れて暮らす実の父親。何故かというと、東京の父親の部屋には、刺青の図案らしきイラストがあちこちに貼られていて、どうやら、父親は刺青の彫師でもあるようだ。その父の背中にも手の込んだ彫り物の刺青があり、界人と父親が銭湯にいく場面でちらりと映される。
もう一つは界人がどこかで垣間見た、母親が情を交わした男の背中である。この男が海で溺死した男なのか、別れた父親なのか、または違う男なのかは説明がない。父の背中を知らずに育った子供の心もたなさ、捨てられた子供が、捨てた親をどう受け入れるのか。

そして、もう一人、親に捨てられる不安に怯える同級生の杏子だ。こちらの母子を引き裂くのは肉体の別れ、死である。杏子の母は余命を宣告され、娘の心は乱れる。自らの生を確かめるかのごとく、界人との肉体の交わりを求め、彼を困惑させる。10代のほとばしるような性と生を鎮めるかのように海に飛び込み、界人の身体にまとわりつく。
溺死の男の背中の筋彫り、そしてまだ女としての性の交わりなど、それに神話的な嵐など。沖縄をさらにミニマルな奄美の三味線の音に包まれて、生と死とともに、この映画の記憶さえ混濁としていく。
特に気になったのは、長老が若い二人に生と死を感じさせるためなのか、祝祭で使う山羊のに立ち会わせ、山羊の喉にカミソリの刃を当てて、肉体から生が抜けていく行程を見せるシーン、これは気分が悪くなってしまった。
甘口のラストは、ブルック・シールズよりも杏子の吉永淳の、ストレスフリーな泳ぎが素晴らしいく綺麗に映って見えた。
2014年劇場鑑賞作品・・・291 映画(アクション・アドベンチャー) ブログランキング