パピとママ映画のblog

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ウインド・リバー★★★★

2018年07月30日 | アクション映画ーア行

 アメリカの辺境をテーマにした「ボーダーライン」「最後の追跡」の脚本で注目された俳優出身のテイラー・シェリダンがその“フロンティア3部作”の最終章と位置づけ、脚本に加えて自ら監督も務めて撮り上げた社会派クライム・サスペンス。主演は「アベンジャーズ」でも共演している「ハート・ロッカー」のジェレミー・レナーと「マーサ、あるいはマーシー・メイ」のエリザベス・オルセン。

あらすじ:アメリカ中西部ワイオミング州にあるネイティブアメリカンの保留地ウインド・リバー。ここで野生生物局の職員として活動している地元の白人ハンター、コリーはある日、雪の上で凍りついているネイティブアメリカンの少女の死体を発見する。彼女は亡くなったコリーの娘エミリーの親友ナタリーだった。やがてFBIから新米の女性捜査官ジェーンひとりだけがやって来る。検死の結果、ナタリーは生前にレイプされていることが判明する。犯人からの逃亡中に死亡したのは明らかだったが、直接の死因はマイナス30度にもなる冷気を吸い込んだことによる肺出血のため、FBIの増援を受けられないまま、ジェーンがひとりで捜査を続けることに。そこでこの土地に詳しいコリーに協力を要請、2人で事件の真相に迫っていくのだったが…。

<感想>アメリカ中西部の山岳地帯にあるネイティブ・アメリカンの保留地“ウインド・リバー”で、若い女性の死体が発見されたのを機に、その土地に根付く差別や暴力の実態が明らかになっていく。

事件の調査で訪れたFBIの新人捜査官にエリザベス・オルセン、彼女をサポートする土地に住みついた白人ハンターにジェレミー・レナーが扮し、クライム・サスペンスの衣の奥に現代のアメリカが抱える闇を浮き彫りにした重厚なドラマになっていた。

今回エリザベス扮するFBI新米の女性捜査官ジェーンは、精神的に強くてこれまで彼女が演じてきた役柄のイメージからはちょっとかけ離れた印象でした。「ボーダーライン」のエミリー・ブラントとは異なり、肉体的にタフでも存在感があるわけではない。

到着後に余りの寒さに驚く彼女。薄着でこれでは夜には零下30度になるのに、凍えてしまうのだ。優しいコリーが、母親に頼みスキーヤーの防護服を貸してもらう。自分の全く知らない環境に放り込まれ、おまけに雪山で悪戦苦闘する。でも、現場経験がないながらも知的であり、勘が鋭く根をあげない頑張り屋。

「ボーダーライン」のケイト(エミリー・ブラント)と似ているところは、ジェーンもまたストーリーの中で大きく成長することですね。男たちばかりの土地柄や、FBI捜査官という地位に、ネイティヴアメリカンの基地へ乗り込み、犯人は荒くれものであり拳銃を発砲して威嚇する。その弾丸がジェーンの腹に当たり吹っ飛ばされるも、ひるまずに敵に向かって射撃するという。

彼女の場合は、この事件を担当して生き延びたときが、大人になる瞬間であり、それに彼女は他人のために尽くそうとする。それはとても美しく、パワフルなことだと思う。

冒頭では、夜の月明かりでおぼろげに浮かび上がる荒涼とした雪原の光景。裸足の女性が必死に息を切らし泣きながら走る。いったい彼女は、何者から、そして何処へ逃げようとしているのか。

主人公である野生生物局の職員として活動している、地元の白人ハンター、コリーの娘エミリーは、16歳だった3年前に自宅から姿を消し、遠く離れた屋外において遺体で発見されている。映画のなかでは、そのことを写真でしか確認はできないが、冒頭での詩が、生前の彼女によるものと明かされる以上、その声も彼女であると推測できる。

だから、映像に伴うことのない彼女の声が、映画の始まりで映し出される女性が、娘の友達のナタリーの死体であると発見するとき、それは主人公コリーの目に、娘の死体と二重映しになったのだろう。

本作の物語は、レイプや暴行を受け、零下30度の雪原で裸足で逃げる中で、亡くなったナタリーの事件であり、冒頭で目撃した月夜の中を走る女性は彼女であったことを思い知ることになる。

コリーは家畜を狙うコヨーテやピューマといった肉食動物を銃で駆除する「狩人」である。自分の娘の身に起こった出来事を反復するがごとく、今回の事件では、そんな彼が「殺人事件」の捜査に加わるが、そもそも狩人と事件の真相の究明にあたる「探偵」の仕事には重要な共通点が見いだされる。

狩人もまた事件の現場に駆け付け、そこに残るさまざまな痕跡や、獲物である犯人の姿や動きを推測し、その特定や逮捕へと動くのであります。だから、コリーはその能力を遺憾なく発揮することで、優秀な探偵ともなる。

雪面に残る足跡から猛獣の所在を突き止めることにも似て、彼はいかにしてナタリーがその場所に至り、無残な死を遂げたかと推測し、獰猛な犯人を嗅ぎ当てるのだ。ナタリーの恋人も、雪原の奥で裸で発見され、コヨーテに食い散らかされていた。

コリーには、幼い息子がいるが、いつも連れて歩き目を離さない。だから、自分が危険なところへ行くときには、必ず祖父の家へ預けるのだ。ここではあらゆる存在が、「理想郷」を追われ、過酷なまでに広大で無表情な世界を前に打ちひしがれるのだ。男たちが言うには、結婚する女性もいないし、だから他人の女でもレイプするという非道なもの。

ナタリーが雪原に残した足跡は、ある意味で「凍った地獄」から「理想郷」に向けての逃走の痕跡でもあるが、コリーによる狩人の捜査に重大な手がかりをも提供することで、過酷な無表情な世界において、それでも生き延びようとする彼女の強靭なる意志を示す痕跡ともとれる。それは、彼女が裸足で逃げたので、足の指先は凍傷で紫色になっていた。

複数の男性の理不尽な暴力にさらされながらも、懸命に表明された女性の生き延びる意志が、雪原の足跡として残され、その痕跡を狩人が嗅ぎつけて解釈し、やがては彼女の悲劇的な物語が語られる。

物語の舞台となるアメリカ中西部ワイオミング州の、ウインド・リバーは、ネイティヴアメリカンの保留地であり、白人らの「開拓」のプロセスで自らの土地を奪われたあげくに、人を寄せ付けない荒涼とした地域へと先住民らは追いやられたが、そうした過去への悲劇は、現在においても払拭され得ないのだ。

犯罪や慢性的な無気力さに染まる若い先住民の男性は、自分たちの生きる世界が、彼らの怒りを駆り立て「敵対する」と形容し、また別の人物らによれば、そこは「雪と静寂」に包まれた「凍った地獄」とも言うべき世界なのだろう。

 

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