パピとママ映画のblog

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許されざる者 ★★★★

2013年09月20日 | アクション映画ーヤ行
クリント・イーストウッド監督・主演で第65回米アカデミー作品賞、監督賞ほか4部門を受賞した傑作西部劇「許されざる者」(1992)を、「フラガール」「悪人」の李相日監督のメガホンで日本映画としてリメイク。江戸幕府崩壊後の明治初期、北海道開拓時代の歴史の中で、かつて「人斬り十兵衛」と恐れられていた男が、再び戦いに身を投じていく姿を描く。幕府の命の下、幾多の志士を斬りまくり、恐れられた釜田十兵衛は、幕府崩壊後いつしか姿を消し、人里離れた場所で静かに暮らしていた。やがて月日は流れ、妻に先立たれた十兵衛は、貧困の末に再び刀を手にすることになる。主人公・十兵衛役で渡辺謙が主演し、柄本明、佐藤浩市らが共演。

<感想>さすがにオスカー受賞作のリメイク版となるだけあって、クリント・イーストウッド版オリジナルに、最大限の敬意を払った日本版だといっていい。
優れた物語は、時と場所を超えて何度でも生まれ変わる。映画でもそれは同じである。隠遁した元人殺しのアウトローが、家族を養うためにかつての仲間とともに、娼婦の顔を切り刻んだ悪党を殺して賞金を稼ごうとする。というストーリーはオリジナルを忠実になぞっており、19世紀後半のアメリカ西部から、同時代の日本、明治初期の北海道へと舞台を移し、イーストウッドが演じた主人公の元ガンマンは旧幕府軍の元剣士、渡辺謙に、ジーン・ハックマンが演じた悪徳保安官は、独裁者たる警察署長の佐藤浩市へとそれぞれ移し替えられ、他のキャラクターもオリジナルとほぼ同じ役割を担う者として物語に登場する。

十兵衛の旧幕府軍時代の友人馬場金吾を柄本明が飄々と演じつつ、アイヌと和人の混血青年の沢田五郎を柳楽優弥という軟弱者という賞金稼ぎの3人。そして女郎の小池栄子を始め、顔を切られたなつめを演じた忽那汐里の真に迫った演技がすこぶるよかった。

内容は明治13年の北海道。幼い二人の子供を抱え、畑を耕しながら貧しく暮らす十兵衛の元を、かつての戦友である金吾が訪れる。話のよると女郎の顔を切り刻んだ2人の男に懸けられた賞金が目的だ。幕末には見境なく殺生をし、“人斬り十兵衛”と恐れられたが、逃げ落ちた蝦夷で妻となる女と出会い、刃傷沙汰からは足を洗っていた。だがその妻も今は亡く、子供のため金吾に協力することに。
道中、五郎と名乗る拳銃使いの若者が加わり、三人は賞金首を目指す。だが、町では警察署長の大石が絶対的な権力を振るい、銃剣を持ち込んだものに厳しい制裁を与えていた。

女郎の顔を切った兄弟に懸賞金が掛けられたことを知り、早速町には賞金稼ぎの男たちが入り込んできた。1番乗りのリチャード・ハリスが演じたイギリスから来た賞金稼ぎ役には、国村隼さんが成金親父のような格好で現れ、署長の佐藤浩市が銃剣を持ち込んだ罰として、殴る蹴るのリンチを加え厳しい制裁を与えていた。
だから、1度目の3人も町へ着いたときには、十兵衛も刀を没収されボコボコに殴られ蹴られて追い出された。3人の内、金吾が脱落して2人で懸賞金のかかった兄弟を仕留めようとする。その場面は、弟は十兵衛が金吾の鉄砲で撃ち殺し、兄の方は、朝にトイレに入っているところを五郎が押し入って殺す。

そして、十兵衛が友人金吾を拷問死させた恨みを晴らすべく、クライマックスでの酒場での大石との決闘シーン。十兵衛は妻との約束で人斬りはしないと誓っていたので、刀を土の下に埋め込んでいた。その為、刀は刃がボロボロとなり使い物にならない。その刀を笑いものにされようと、大石に向かって金吾の仇だと錆びついたボロ刀を腹に差し込む。その気合たるや、十兵衛も深手を負いながらも、その場に居合わせた人たちも鉄砲や刀で切り刻み、最後は酒場に火の手があがり、雪降る北海道の夜を明々と照らす凄まじさには、美しいというよりも虚しさが残る。
物語の本筋はかなり原典に忠実に作られており、ゆえにそれで終始するのであれば、リメイクの意義はあまりなくなるのだが、五郎と顔を切られた女郎のなつめという、二人の若者の設定と描写を大きくすることでオリジナリティがだいぶ味付けされていたと感じた。

しかし、そんな日本版「許されざる者」には一つだけ決定的にオリジナルとな異なるものが存在する。それは作品の根底に横たわる「瞔罪」というテーマなのだ。西部劇のならず者に徹底したろくでなしのリアリティを与えていったイーストウッド版のドライな感触に対して、武士道や敗者の誇りといった日本独特の美学をバックグラウンドに持つ本作は、どこかウェットで、魂の救済を求める切なさが宿っているようにも見えた。
もちろん誰が、「許されざる者」なのかという問いが、イーストウッド版でも不変の最大のテーマであるのには変わりがないが、・・・。
雄大なロケーションや、原野に創り上げたオープンセットの町も見事で、名作のリメイクという難度の高いチャレンジとしては合格だと思う。オリジナルの持つスピリッとを継承しつつ、うまく邦画に変換できたと言えるでしょう。
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