パピとママ映画のblog

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エレニの帰郷 ★★★★

2014年03月01日 | あ行の映画
『永遠と一日』などのギリシャの巨匠、テオ・アンゲロプロスの遺作となった、1953年から半世紀に及ぶ男女3人の愛を描く恋愛ドラマ。スターリンの死やベトナム戦争といった出来事を背景に、時代に翻弄(ほんろう)されるヒロインと、彼女が愛をささげる恋人、ヒロインを愛するイスラエル難民の関係を、映画監督であるヒロインの息子の視点でつづる。出演は『ハンター』などのウィレム・デフォー、『ふたりのベロニカ』などのイレーヌ・ジャコブなど。ギリシャからシベリア、さらに世界中を駆け巡るヒロインの激動の運命に圧倒される。
あらすじ:20世紀末、チネチッタ撮影所。映画監督のA(ウィレム・デフォー)は両親の人生を映画にしようとしていた。Aの母エレニ(イレーヌ・ジャコブ)は大学生の頃、秘密警察に逮捕され脱走。ギリシャ難民の町で恋人スピロス(ミシェル・ピッコリ)と再会する。しかし、スターリン死去による混乱で、再び逮捕された二人と、エレニの友人でイスラエル難民のヤコブ(ブルーノ・ガンツ)はシベリア送りになってしまう。
<感想>これは映画内の映画が語る父と母の過去とその映画を撮る監督の今を融合させつつ、いくつもの国境を越えてなお、帰りつくべき場所をを見いだせない人の主題を飽かずにみつめるという。歴史と記憶をめぐる監督の眼の深まりが感じられます。

ギリシャの風景なの海がまったく現れず、殆どの台詞が英語で語られるという。ローマ、旧ソ連、カザフスタンのテルミタウ、シベリアの流刑地、ベル珍、ハンガリーとオーストラリアの国境、ニューヨーク、カナダのトロント、という7カ国のいくつかの地点にまたがる展開なので、長時間になるのを2時間強という不思議なほど短かった。しかも、その間にめまぐるしく国から国へと、時代から時代へと行き来する。実際のこの映画にはこれまでにないスピード感がそなわっているようだ。

配役にも主演俳優にギリシャ人は一人もいないのだ。ただしある意味ではこれ以上ないほどの名優を揃えているといって過言ではないだろう。エレニ役は、42歳のイレーヌ・ジャコブ、いよいよもって素晴らしい演技だし、その運命的な恋人スピロスにはミシェル・ピッコリが、83歳にして特有のアクも抜けていて最高。それに、もう一人のエレニを愛する男のヤコブには、67歳のブルーノ・ガンツが、「永遠と一日」の時よりも老いた姿で愛すべきドイツ系ユダヤ人を演じている。
それぞれ2008年当時の年齢だというが、この作品がおよそ半世紀にわたって相前後しつつ展開していく物語の時間が、役者たちの年齢の差とともに、時おり不意に交錯し、1999年に設定されている今と過去とを繋げていく不思議に打たれるからなのである。

主人公の中年の映画監督、Aは、1953年にシベリアで生まれたエレニとスピロスの子供で、この役を53歳のウィレム・デフォーが演じている。そのAが3歳で生き別れた母親エレニと1974年にトロントで会い、抱き合うシーン。物語の上での21歳という年齢にはとうてい見えない。それどころか服装も髪形も1999年という今のままなので、40代の母親よりは年上に見えたりする。ウィレム・デフォーは、始めからずっと同じ髪形で同じ服、旅もせず“巨匠、テオ・アンゲロプロス歩き”にもかかわらず、ただせかせかと動き回るだけの、今を演じているのだ。出番は多いのに、奇妙に影が薄くとてもアンゲロプロスの分身には見えないし、そこがまた面白くもある。

物語はスターリンの死の1953年のソ連、ウォーターゲート事件の1974年のニューヨーク、東西の壁の崩壊した1985年のベルリン、といった史実をはさんで進行してゆくが、その度にメーキャップや衣装を変えるのはイレーヌ・ジャコブだけである。ブルーノ・ガンツには多少の変貌が見られるにしても、ミシェル・ピッコリはずっと83歳のままで、だからトロントのバーとベルリンのカフェが連続してしまうワンシーン・ワンショットに戦慄が走るのだ。若い時の場面では別の俳優さんの後姿しかない。
常に現れてくる国境というテーマ、人と人とを隔てるものという主題への答えとして、大きな愛を結末に置いていることにも胸を打たれます。エレニの手紙こそが旅をしているとも言えるでしょう。
母エレニを演じているイレーヌ・ジャコブの声が、それを読み上げるにつれて現出する過去の体験は、ケイタイに付きまとわれているAの日常と好対照をなしている。
つまりは、まさにエレニの「時の塵」を降り積もらせる歴史の中で、愛と郷愁を体現しつづける一人の女性の映画だからなのである。この生身の美しい女性の神話的な使命が最後には、おなじ名前を与えられている幼い孫のエレニに受け渡されることになる。
1999年大晦日のベルリン、ようやく息子のAの家へ辿り着き、二人だけで故郷ギリシャへ旅立とうとしているエレニとスピロスのところへ、ヤコブが訪れる。3人で街を歩き、地下鉄の構内での楽団の演奏にひかれ、ヤコブがエレニを誘って踊り始める。するとエレニは崩れ落ちる。ケイタイでAに連絡をしたスピロスは、孫のエレニが発見されたことを知り、それを聞いたエレニは立ち上がりスピロスと共に去る。残されたヤコブのブルーノ・ガンツが一人で踊るシーンが切ない。
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