『クラウド アトラス』などで国際的に活躍するぺ・ドゥナと、『冬の小鳥』などのキム・セロンが共演した社会派ドラマ。元エリートの女性警察官と一人の少女との交流を、家庭内暴力や性的マイノリティー、外国人の不法就労といった社会問題を織り交ぜて描く。『オアシス』などのイ・チャンドン監督がプロデュース、本作が初の長編作となったチョン・ジュリが監督を務め、第67回カンヌ国際映画祭「ある視点」部門、第15回東京フィルメックスコンペティション部門で上映されるや高い評価を受けた。
あらすじ:ソウルからとある港町の派出所所長として赴任した女性警察官ヨンナム(ぺ・ドゥナ)は、母親に捨てられ養父と義理の祖母から暴力を振るわれている少女ドヒ(キム・セロン)と出会う。何とかドヒを救い出そうと手立てを考えるヨンナムだったが、自身の過去が世間に知られ窮地に陥ってしまう。そんなヨンナムを助けるべく、ドヒはある決断を下すが……。
<感想>ショートボブへアのぺ・ドゥナが、警察官の制服に制帽を被っている。彼女が演じる田舎の女警察署長は、所長席に似合わないぺ・ドゥナの制服姿。女で若くても階級制度の韓国の警察制度では、大学卒の女官僚が生まれるのだろう。ソウルで起こした同性愛者の問題も、ゲイやニューハーフに比べてまだまだ韓国では、市民権や認知度が低いのだ。だから、蔑視どころか左遷されてしまい、警察署で、遅れて署長を出すタイミングもそうだし、それに、挙句の果てには家庭内暴力を受ける少女を守ろうとして、そのことが裏目に出て逮捕されてしまう。ぺ・ドゥナと初めて出会ったのは是枝裕和監督作の「空気人形」でした。
だからなのだろう、典型的な少女ドヒを演じたキム・セロンが、画面の中心を占めて圧倒しているのだ。いつの間にか背が伸びて大人びた少女のなっていたキム・セロン。彼女を初めて観たのは『冬の小鳥』の名演技でした。2000年生まれというから、現在では15歳の高校生である。そして「アジョシ」でも子役ながらメキメキと演技の幅を伸ばして、これからどんな女優になるのかが楽しみです。
田園風景の積み重ねのなかで、観客を睨みつけるようなカエルの狂暴さが凄いですよね。いきなり自転車の通り過ぎる瞬間につなぐなど、この監督は編集に独特の感覚を持っているようだ。
地方の村の閉鎖的な雰囲気、外国人労働者に対する差別、東南アジア諸国から出稼ぎにきた男たちは、殆どが不法滞在者であり、彼らを雇用している会社経営者は給料を搾取して、国に帰りたいという外国人労働者に対する暴力も見逃せない。ある意味、韓国のあまり良くない部分を描いているような感じがする。
後半では、少女のミステリアスな動きが中心となってくる。少女ドヒの場合は、親からの愛や関心を一度も得たことがないため、それがどんなことなのかも知らない子供なのだ。始めは長い髪のキム・セロンが、義父に追いかけられて逃げ惑う姿が映し出される。
ですから、この少女と出会うことになる女性警察官ヨンナムが、自分がどれだけ孤独であるかを理解しながら、少女を助けようと埋没していき運命のように受け入れていく。眠れないからといって、持ちこんだ酒を毎晩のように飲む。少女の家族のお婆さんと義理の父親も酒を飲む。だから、ある晩のこと、婆さんが酒を飲んで、少女を叱り赤いバイクで追い掛けて、海岸に転げ落ちて事故死ということに。そして、毎晩のように酒を飲んでは、少女を叩いて逃げる彼女を追い掛ける義父。飲酒が一つのテーマでもあるにも関わらず、その描写が上手くないのだ。
そして、ソウルから女性警察官ヨンナムを訪ねてくる同性愛者の女。酒を飲み絡んで、二人は別れ際にキスをする。それを少女の義父に見られてしまい、村中に女署長が同性愛者であることが知れ渡る。
あろうことか、義父は夏休みの間、娘のドヒを預かるという女署長に対して、少女性的虐待だと告発するのだ。ソウルから田舎の村に左遷され、粗面楚歌状態のぺ・ドゥナも、少女が風呂場で裸で一緒に入り、体を触られたと児童相談所の人に答えてしまう。ドヒは、それが、自分に対してこれから恐ろしい結果になるとは思ってもみなかったのだろう。
虐められる義父の元へと連れ戻されるドヒが考えた計画には、驚かされます。確かに、自分が安心して生きるには、誰と一緒に住むのがいいのか。身体が大人びて制服も小さくなり、女署長が新しく制服を新着してくれ、髪の毛も短くカットして、自分のためにしてくれる好意が本当に嬉しいのに、こんな結果になろうとは思ってもみなかったのだろう。
しかし、小さい怪物が潜んでいる少女の心の中には、恐ろしい計画が、それに気づいた女署長、お婆さんの事故死も、もしや彼女が殺したのではと疑ってしまう。少女が計画した夜のこと、義父が酒で酔いつぶれている傍で、服を脱いで裸になり横たわる。そして、警官宛にケータイ電話をかけてそのままにして、義父がさも自分をレイプしたように泣き叫び、自分で壁に体をぶつけて自傷行為というか、これも女署長の家でも、自分を可愛がらないと自傷行為をする場面が見られます。
駆け付けた警官により、義父は幼児性的暴行、虐待の嫌疑をかけられ逮捕される。韓国の中央と地方の格差、官僚組織などを背景にして、上手く組み立てられているドラマではあるものの、ヒロインの抱えている重大な問題を、観客に伏せておくことによって、引っ張っていくという作劇術は邪道なような気もしたのだが。
二人の関係は、場面が進むごとに、ドキュメンタリー的なスリリングさを増して行くのです。それは社会的問題を一篇の虚構に昇華しようと苦闘する新人監督の記録でもあるのだろう。
2015年劇場鑑賞作品・・・154映画(アクション・アドベンチャー) ブログランキング
あらすじ:ソウルからとある港町の派出所所長として赴任した女性警察官ヨンナム(ぺ・ドゥナ)は、母親に捨てられ養父と義理の祖母から暴力を振るわれている少女ドヒ(キム・セロン)と出会う。何とかドヒを救い出そうと手立てを考えるヨンナムだったが、自身の過去が世間に知られ窮地に陥ってしまう。そんなヨンナムを助けるべく、ドヒはある決断を下すが……。
<感想>ショートボブへアのぺ・ドゥナが、警察官の制服に制帽を被っている。彼女が演じる田舎の女警察署長は、所長席に似合わないぺ・ドゥナの制服姿。女で若くても階級制度の韓国の警察制度では、大学卒の女官僚が生まれるのだろう。ソウルで起こした同性愛者の問題も、ゲイやニューハーフに比べてまだまだ韓国では、市民権や認知度が低いのだ。だから、蔑視どころか左遷されてしまい、警察署で、遅れて署長を出すタイミングもそうだし、それに、挙句の果てには家庭内暴力を受ける少女を守ろうとして、そのことが裏目に出て逮捕されてしまう。ぺ・ドゥナと初めて出会ったのは是枝裕和監督作の「空気人形」でした。
だからなのだろう、典型的な少女ドヒを演じたキム・セロンが、画面の中心を占めて圧倒しているのだ。いつの間にか背が伸びて大人びた少女のなっていたキム・セロン。彼女を初めて観たのは『冬の小鳥』の名演技でした。2000年生まれというから、現在では15歳の高校生である。そして「アジョシ」でも子役ながらメキメキと演技の幅を伸ばして、これからどんな女優になるのかが楽しみです。
田園風景の積み重ねのなかで、観客を睨みつけるようなカエルの狂暴さが凄いですよね。いきなり自転車の通り過ぎる瞬間につなぐなど、この監督は編集に独特の感覚を持っているようだ。
地方の村の閉鎖的な雰囲気、外国人労働者に対する差別、東南アジア諸国から出稼ぎにきた男たちは、殆どが不法滞在者であり、彼らを雇用している会社経営者は給料を搾取して、国に帰りたいという外国人労働者に対する暴力も見逃せない。ある意味、韓国のあまり良くない部分を描いているような感じがする。
後半では、少女のミステリアスな動きが中心となってくる。少女ドヒの場合は、親からの愛や関心を一度も得たことがないため、それがどんなことなのかも知らない子供なのだ。始めは長い髪のキム・セロンが、義父に追いかけられて逃げ惑う姿が映し出される。
ですから、この少女と出会うことになる女性警察官ヨンナムが、自分がどれだけ孤独であるかを理解しながら、少女を助けようと埋没していき運命のように受け入れていく。眠れないからといって、持ちこんだ酒を毎晩のように飲む。少女の家族のお婆さんと義理の父親も酒を飲む。だから、ある晩のこと、婆さんが酒を飲んで、少女を叱り赤いバイクで追い掛けて、海岸に転げ落ちて事故死ということに。そして、毎晩のように酒を飲んでは、少女を叩いて逃げる彼女を追い掛ける義父。飲酒が一つのテーマでもあるにも関わらず、その描写が上手くないのだ。
そして、ソウルから女性警察官ヨンナムを訪ねてくる同性愛者の女。酒を飲み絡んで、二人は別れ際にキスをする。それを少女の義父に見られてしまい、村中に女署長が同性愛者であることが知れ渡る。
あろうことか、義父は夏休みの間、娘のドヒを預かるという女署長に対して、少女性的虐待だと告発するのだ。ソウルから田舎の村に左遷され、粗面楚歌状態のぺ・ドゥナも、少女が風呂場で裸で一緒に入り、体を触られたと児童相談所の人に答えてしまう。ドヒは、それが、自分に対してこれから恐ろしい結果になるとは思ってもみなかったのだろう。
虐められる義父の元へと連れ戻されるドヒが考えた計画には、驚かされます。確かに、自分が安心して生きるには、誰と一緒に住むのがいいのか。身体が大人びて制服も小さくなり、女署長が新しく制服を新着してくれ、髪の毛も短くカットして、自分のためにしてくれる好意が本当に嬉しいのに、こんな結果になろうとは思ってもみなかったのだろう。
しかし、小さい怪物が潜んでいる少女の心の中には、恐ろしい計画が、それに気づいた女署長、お婆さんの事故死も、もしや彼女が殺したのではと疑ってしまう。少女が計画した夜のこと、義父が酒で酔いつぶれている傍で、服を脱いで裸になり横たわる。そして、警官宛にケータイ電話をかけてそのままにして、義父がさも自分をレイプしたように泣き叫び、自分で壁に体をぶつけて自傷行為というか、これも女署長の家でも、自分を可愛がらないと自傷行為をする場面が見られます。
駆け付けた警官により、義父は幼児性的暴行、虐待の嫌疑をかけられ逮捕される。韓国の中央と地方の格差、官僚組織などを背景にして、上手く組み立てられているドラマではあるものの、ヒロインの抱えている重大な問題を、観客に伏せておくことによって、引っ張っていくという作劇術は邪道なような気もしたのだが。
二人の関係は、場面が進むごとに、ドキュメンタリー的なスリリングさを増して行くのです。それは社会的問題を一篇の虚構に昇華しようと苦闘する新人監督の記録でもあるのだろう。
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