各地の映画祭で注目を集めるフィリピンの俊英ブリランテ・メンドーサ監督が、フィリピン・マニラのスラム街を舞台に、生活のために麻薬の販売も手掛ける雑貨店店主夫婦の過酷な日常と警察組織の腐敗ぶりをドキュメンタリー・タッチのリアルな描写で描き出した社会派ドラマ。主演は本作の演技でカンヌ国際映画祭で女優賞に輝いたジャクリン・ホセ。
あらすじ:マニラのスラム街で怠け者の夫と雑貨店を営むローサ。生活の苦しい夫婦は、家計を支えるために少量の麻薬も扱っていたが、ある時警察のガサ入れに遭い、逮捕されてしまう。そして警察署に連行されるや、多額の見逃し料を要求される夫婦だったが…。
<感想>フィリピンの鬼才、ブリランテ・メンドーサ監督の新作である。ヒロインのローサを演じたジャクリン・ホセは、第69回カンヌ国際映画祭で主演女優賞を獲得している。ある意味、女優の頂点に立った彼女がどういう演技者なのか、興味津々でもある。実際に本作を体験すると、予想以上に凄くて圧倒されっぱなしだった。
このリアリティは、一体何なのだ?と息を呑む。描かれているのは、マニラのスラム街で起きたある出来事である。貧困層がひしめきあって暮らす街で、ローサは夫と小さな雑貨屋を経営している。
店舗兼住居で、可愛い子供たちが食事もするし、あまり商売熱心ではない夫は、二階で覚醒剤を打っている。この店では、麻薬販売もしているのだ。だから売人も普通に出入りするわけ。
近所の少年が“アイス”という隠語を使い麻薬を求めて来る。善悪の感覚が麻痺するリアルな光景。その雨降る夜に、ローサらは警察に連行される。どうも誰かに密告されたらしいのだ。
警察署は、テナントの店が潰れたような貸しビルみたいなところ。警察へ着いたら着いたで、展開されるのか警官たちの賄賂要求である。警察はヤクの売人以上にヤクザであった。20万ペソと法外な金額を払うか、売人を売るか迫られ、ローサはあっさりと売人に電話をかける。
すぐに捕まった売人のバックから大量の麻薬と金が出て来て、喜ぶのは警官なのだ。正義に向かえるからではない。金と麻薬を山分けできるからだ。この場での臨場感や生々しさが尋常ではなく、観ていて辛くなる。
その後、また金(5万ペソ)を要求されたローサらは、面会に来た子供たちの助けを得る。疎遠な親戚に頭を下げる娘、テレビを売ろうと街を歩く長男、中年男に体を売る次男ぼう。しかし、長男は家を売ろうと提案するも、ローサは「家を売るのはいや、路上生活なんてまっぴらよ」と、強く主張する。その後も同じ場所で生活を続けるつもりであったのだ。おそらくは、これまでもずっとその場しのぎでやってきたのだろう。壮絶な世界だが異を唱える者はいない。
みんな必死に生きているのだから。仲間を売り、自分を守るしかない。一時釈放されたローサが、切羽詰まった状況にありながら、屋台で食べ物を買って食べ始める姿を見て泣けて来る。その後の暮らしはどうするのか、売人の報復をおそれないのだろうか、正義など、ぬるま湯に浸かったやつらの戯言なのだから。経済発展、グローバル化が進むフィリピンの裏側を覗き見したようであります。
2017年劇場鑑賞作品・・・239アクション・アドベンチャーランキング