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リチャード・ジュエル★★★・5

2020年02月13日 | アクション映画ーラ行

「アメリカン・スナイパー」の巨匠クリント・イーストウッドが、1996年のアトランタ爆破テロ事件の真実を描いたサスペンスドラマ。主人公リチャード・ジュエルを「アイ,トーニャ 史上最大のスキャンダル」のポール・ウォルター・ハウザー、母ボビを「ミザリー」のキャシー・ベイツ、弁護士ブライアントを「スリー・ビルボード」のサム・ロックウェルがそれぞれ演じる。

あらすじ:96年、五輪開催中のアトランタで、警備員のリチャード・ジュエルが、公園で不審なバッグを発見する。その中身は、無数の釘が仕込まれたパイプ爆弾だった。多くの人々の命を救い一時は英雄視されるジュエルだったが、その裏でFBIはジュエルを第一容疑者として捜査を開始。それを現地の新聞社とテレビ局が実名報道したことで、ジュエルを取り巻く状況は一転。FBIは徹底的な捜査を行い、メディアによる連日の加熱報道で、ジュエルの人格は全国民の前で貶められていく。そんな状況に異を唱えるべく、ジュエルと旧知の弁護士ブライアントが立ち上がる。ジュエルの母ボビも息子の無実を訴え続けるが……。

<感想>1996年に起きた米アトランタ爆破事件の実話である。主人公の警備員のリチャード・ジュエルは、英雄的行動により人々の命を救ったにもかかわらず、容疑者にされてしまった“世界一不幸な男”と、彼を救うために立ちあがった“世界一無謀な弁護士”による実話を描き出す。

メガホンをとったのは、「アメリカン・スナイパー」「ハドソン川の奇跡」「15時17分、パリ行き」「運び屋」など、実話映画で世に問いかけ続けてきたクリント・イーストウッド監督。御年89歳だが、恐るべき時代感覚と言わざるを得ない。

印象的だったのは、「あなたにも起こり得る事件?」という設問の回答だった。実際に、誰にでも起こり得る誤認逮捕されることが、さまざまな人々が自分事化して強く没入できる作品である、と思いますね。

主演は「アイ,トーニャ 史上最大のスキャンダル」「ブラック・クランズマン」で独特の存在感を放ったポール・ウォルター・ハウザー。心優しい一方、尊敬を集めたいという下心が透けるリチャードの内面や言動を、絶妙なコントロールで表現しきっている。

当初、リチャード役はジョナ・ヒルが演じる予定だった(ちなみにワトソン役はレオナルド・ディカプリオ)が、諸々の事情で彼らはプロデューサーに専念し、代わりにウォルター・ハウザーが主演に抜擢。実母ボビをはじめ関係者が驚くほどの激似ぶりと好演を見せ、物語に“実直な真実”を付与した。

サム・ロックウェルが、言葉の端々にアツさがにじむ弁護士ワトソン役に。「スリー・ビルボード」「ジョジョ・ラビット」と合わせ、“サム・ロックウェル三部作”とも呼べる出色の芝居を見せている。

さらに「バカどもを打ち負かそう」など、セリフがとにかく良い。なぜワトソンがリチャードを信じるのか、なぜリチャードがワトソンを頼るのか、その理由に感涙もののドラマが隠れているので注視してもらいたい。

それに、見せ場がとにかく感動的な母親のボビ役のキャシー・ベイツ ですね。

物語に愛をもたらしたのは、「ミザリー」「タイタニック」「アバウト・シュミット」などのキャシー・ベイツ。それでもあの“演説”を目にした時、涙が止まらなかった。第77回ゴールデングローブ賞では、助演女優賞にノミネートされていた。残念ながら、「マリッジ・ストーリー」のローラ・ダーンが助演女優賞を獲得した。彼女キャシー・ベイツは、「ミザリー」でオスカーを受賞しており、演技の力量があるので、その内必ずオスカー受賞者になるでしょう。

物語でのFBIによる無根拠かつ強引な捜査はもちろんだが、リチャードを窮地に追い込むのは、むしろメディアによる報道である。“無実”にもかかわらず“犯人である”かのように報道され、“虚偽が世間で広く共有”され“事実”と化していく。

前日まで「英雄だ」と称揚していたテレビコメンテーターが、今日はあっさり「怪しいと思っていた」と手のひら返しする。その光景にリチャードたちは、絶望感にくずおれそうになってしまう。マスメディアとSNSによって、センセーショナルな出来事が虚偽だろうが事実だろうが関係なく、爆発的な速度で拡散されてしまう現代社会の負の側面と重なっていくのが目にみえて辛いです。

本作の良さは、物語展開の巧みさ、現代へ突き刺さるテーマ、キャストの熱演、スタッフの熱量による賜物だと思いますね。

 

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