パピとママ映画のblog

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クラウド アトラス ★★★★

2013年03月18日 | アクション映画ーカ行
この作品は6つの時代を生き続ける人間の時空を超えた魂である。「マトリックス」「スピード・レーサー」などのラナ&アンディウォシャウスキー姉弟と、「ラン・ローラ・ラン」のトム・ティクヴァの共同監督による壮大なSF叙事詩である。

ここではまず、1:1849年の奴隷制を背景とした南太平洋の航海劇から、2:1936年スコットランドのゲイ・カップルによる愛と音楽の物語。そして3:1973年サンフランシスコの原子力発電所にまつわるサスペンス、4:2012年ロンドンの邪悪な老人ホームに送り込まれた男のブラックコメディ。5:2144年のネオ・ソウルにおける革命と闘争のドラマ、そして6:文明崩壊後のハワイを舞台にしたストレンジャーの来訪といった6つの時代が描かれていく。演出は1、5、6がウォシャウスキー姉弟、2,3,4がトム・ティクヴァといった分担。

賛否両論ともにあってしかるべきな、そんな問題作である。3時間近い長丁場の中で、飛んでもない大風呂敷が躊躇なくバンバン広げられていき、そのうちの幾つかは、クライマックスで見事に回収されてカタルシスを生むものの、幾つかは風呂敷を広げっぱなしで収束しないまま放り出されて終わってしまう。
1800年代から2300年代まで、500年の時空を超えて6つの物語が描かれ、それぞれの物語に登場する人物たちが輪廻や血脈によって繋がり、人生を因果応報していく。

というコンセプトをざっくり説明した時点で、こんな話が綺麗にまとまる方が奇跡だとご理解いただけるんじゃないだろうか。「人はなぜ生きるのか」というテーマのシンプリシティと、ウォシャウスキー姉弟らしい過剰なまでのギミックのギャップを、野心的な問題提起と取るのか、それとも単にテーマの散漫と破綻と取るかは、観る人の価値観しだいかもしれませんね。
この映画は、小さな決断が歴史に大きなインパクトを残すことについて描いた作品であります。とにかく疑問がどんどん湧いてくるような内容だった。この人たちは一体誰で、そして何が起きているんだってね。それぞれの人たちが、どうして繋がり合っているのか?、・・・それぞれが生き残るために戦っている。
彼らは、残酷さと優しさの間で選択技を選ばなくてはいけない人たちであり、その選択がその後の世界を変えてしまうと言うことが分かる。

さらに大きなポイントとして、これら6つの時代は編年体ではなく、それぞれをシャッフルさせながら映画的に繋いでいくという、時間軸を錯綜させた編集になっている。
初めのトム演じるダーモット・ホギンズ作家が、批評家から酷評されるシーンで、彼はその批評家をバルコニーから投げて死なせてしまう。それに、ヒュー・グラントが演じた人食い人種のコナ族の首領のメイクをしたのには、本当に驚いた。

中でもネオ・ソウルのエピソードが群を抜いて秀逸なのは、革命の女神に選ばれるクローン人間を演じた韓国人女優であるペ・ドゥナの存在感が大きい。
2144年近未来のネオ・ソウルに生きるクローン少女ソンミ451。彼女は労働者としてシステムされているのだが、ジム・スタージェス演じる、ヘジュ・チャンに出会うことで、“人間”の意志が芽生え革命家となっていく。殺される前に明かされるクローンの顛末は、同じクローンの身体のエキスを飲まされていたという残酷なものだった。そういえば、彼女は是枝監督の「空気人形」でのぞみという少女を演じていたのですね。

ペ・ドゥナが演じたクローン少女ソンミ451の旅は、1849年の権力のない白人の妻から、メキシコ人労働者(厚塗りの化粧と特殊メイクをしていて、太るための肉襦袢のようなスーツを着ていた。そして崩壊した地球上の女神にまで成長していくもので、物語の要となる役柄ですよね。アジア人だからというよりも、どこかミステリアスで近未来的な雰囲気と存在感が起用された理由なのではと思った。
さてこういった趣向からSF好きな私には、即座に思い出されるのは、やはり手塚治虫の「火の鳥」シリーズであり、発想としてはニンマリしてしまう部分も多々あるのですが、同時にそれゆえの不満も出てくるのしかたありませんね。
ちなみに私は突っ込みも含めて、本作を十二分に楽しみました。さらに本作を面白く、そして複雑にしているのが、俳優陣が「同じ魂を持つ複数の人物を演じ分ける」というコンセプトですよね。

主演のトム・ハンクスのような、彼さえいれば1本のハリウッド映画が成立してしまうクラスの大スターが、この作品の中で6役、6時代を行き来する、このような史上最大のアンサンブル劇に6役を演じ分けるということは、俳優としての本能に大いに火をつけたはずである。
それにトムを筆頭に、それぞれの時代を演じ分ける俳優たち。主要キャストはだいたい一人で4~6役を演じ分けており、巧妙な特殊メイクがあまりにもお見事すぎて、一体誰が誰を演じているのか分からないというのも、言われなければ全く気付かない役も多いのだ。ちなみにエンドロールのキャスト紹介のところで、一気に謎解きされるので、最後まで席を立たないようにお見逃しなくご覧ください。
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