1987年製作のポール・ヴァーホーヴェン監督作『ロボコップ』をリメイクした近未来SFアクション。爆破によりひん死の重傷を負った警官が最新技術によりロボコップとして生まれ変わる姿を描く。メガホンを取るのは『バス174』などのジョゼ・パヂーリャ。主演には、『デンジャラス・ラン』などにも出演したスウェーデン人俳優のジョエル・キナマンを抜てき。ゲイリー・オールドマンやマイケル・キートン、サミュエル・L・ジャクソンら実力派俳優が脇を固める。ブラックを基調とする新生ロボコップのデザインやさまざまなガジェットなど、クールな武器にも注目。
<感想>今回およそ四半紀ぶりに甦った「ロボコップ」は、意外といっていいほど予想を遥に上回る面白さでありました。いわゆるロボット・ヒーローものの定石を大きく打ち破り、アメリカ社会に対する痛烈な批判を圧倒的ヴァイオレンス描写で提示したオリジナル第1作は、それゆえ主人公マーフィの殉職を鵜呑みにして街を去っていく妻子の、その後はおざなりになったままである。
オリジナルのマーフィは生前の記憶を失ったままロボコップとして甦るも、次第にそれを取り戻していく。売りに出されているマイホームをマーフィが訪ね、在りし日の家族との思い出にふけるシーンは、暴力と諷刺に包まれたヴァーホーヴェン監督の演出の中で数少ないセンチメンタルで感慨深い描写であった。だが、そこを最後にマーフィは過去を振り切り、機械警官としての己を受け入れたかのようでもあり、もはやそれ以上の家族との関係性を描く必要もなくなった。
しかしである、今回のマーフィは死亡ではなく、瀕死の重傷を負い、あくまでも表向きの理由だが、その命を助けるべくオムニ社は、妻のクララの了承を得てサイボーグ手術を行い、彼は己の記憶を保持したままロボコップとして再生する。ここに、家族との交流を描こうというオリジナル脚本コンビも含むスタッフのこだわり感じられてならない。
と同時に、今回はオリジナルを意識しながら微妙にずらした設定が多々見受けられる。オリジナルのマーフィは犯罪者一味に虐殺されるが、今回は武器密売犯に通じる汚職刑事のワナにかかり重傷を負う。内部告発を恐れる汚職警官たちによる謀殺であり、オムニ社の設定もオリジナルでは既に警察を支配していたが、今回は自社のロボット技術を警察も含むアメリカ国家側に売り込もうと躍起となっている最中である。
ロボコップ手術の際も、オリジナルでは機械優先で残された生の左腕が切断されるが、今回は人間としてそのままにされる。ロボコップの開発者は旧作では目立たない存在だったが、新作では開発者のノートン博士のゲイリー・オールドマンは、オムニコープの社長セラーズ、マイケル・キートンと並び立つ、最重要キャラクターとなっている。
このセラーズ社長は、機略に長けた有能な経営者であり、良心がないことを除けば、間違ったことはなにもしていない。カジュアルな格好と率直な物言いはビル・ゲイツのような新世代の経営者を思わせる。ひとたび彼の誘惑に乗ってしまったノートン博士は、良心に反する要求に繰り返し応じるしかなく、ロボコップを裏切ることとなる。
そして、時代は大きく変わって、新作はヴァーホーヴェン監督のメディア諷刺を踏襲し、右派ホスト、サミュエル・L・ジャクソンの偏向したニュースショーから始まる。だが、この番組はFOXニュースの実在の人気番組「ジ・オライリー・ファクター」にそっくりであり、戯画どころか深刻な表現そのものなのだ。披露式典で凶悪犯人を逮捕してヒーローになり、ドラッグ工場に乗り込んで麻薬組織を壊滅させる。その活動によりロボットの導入に反対する世論は、賛成に傾いていく。
今作のジョゼ・パヂーリャ監督は、より複雑で深刻な現実の変化を受けて、カタルシスも分かりやすさもなく、主人公は、人間としての生活も愛する家族との触れ合いも失ったまま、取り敢えず結末に辿り着く。ラストは壮絶でロボコップもオムニ社の差し向けるED209などの刺客を相手に絶体絶命!・・・体に打撃を受け、しかしノートン博士の技術で新生銀色のロボコップが誕生する。さて、続編はあるのだろうか。
延命装置の開発で尊厳を傷つけられた人間の悲惨は、社会における自身の無用性にある。しかし、この映画ではオムニ社という企業が、延命者である主人公に有用性を与える。企業は儲かって自由競争の実績を上げ、それで人間たちは危険な警察活動から解放され、万々歳のはずだった。ところがである、神のごとき警察行動の実績を上げるために、人間感情を殺してしまおうというオムニ社側の手立てとして、医師側がドーパミンの注入量を2%まで下げたのに、主人公が自力でドーパミンを再生させた。
人間は生活のために、自身を労働力として売ることができる。だが、人間感情は自分を労働力として売る悲惨さを拒否する。となれば尊厳の本題は、人間よりも人間感情に行く着くのである。
劇中の近未来では、アメリカはイランに侵攻しているという過激な設定で、戦場ではオムニ社のロボット兵器が重要され、もはやロボット兵器は現実のものとなっている。完全自律型ロボットに殺傷の判断を委ねることを禁止すべきだというのは、いま現実に進行中の議論で、新作はそれを全面的に物語に取り込んでいると思う。
2014年劇場鑑賞作品・・・61 映画(アクション・アドベンチャー) ブログランキング
<感想>今回およそ四半紀ぶりに甦った「ロボコップ」は、意外といっていいほど予想を遥に上回る面白さでありました。いわゆるロボット・ヒーローものの定石を大きく打ち破り、アメリカ社会に対する痛烈な批判を圧倒的ヴァイオレンス描写で提示したオリジナル第1作は、それゆえ主人公マーフィの殉職を鵜呑みにして街を去っていく妻子の、その後はおざなりになったままである。
オリジナルのマーフィは生前の記憶を失ったままロボコップとして甦るも、次第にそれを取り戻していく。売りに出されているマイホームをマーフィが訪ね、在りし日の家族との思い出にふけるシーンは、暴力と諷刺に包まれたヴァーホーヴェン監督の演出の中で数少ないセンチメンタルで感慨深い描写であった。だが、そこを最後にマーフィは過去を振り切り、機械警官としての己を受け入れたかのようでもあり、もはやそれ以上の家族との関係性を描く必要もなくなった。
しかしである、今回のマーフィは死亡ではなく、瀕死の重傷を負い、あくまでも表向きの理由だが、その命を助けるべくオムニ社は、妻のクララの了承を得てサイボーグ手術を行い、彼は己の記憶を保持したままロボコップとして再生する。ここに、家族との交流を描こうというオリジナル脚本コンビも含むスタッフのこだわり感じられてならない。
と同時に、今回はオリジナルを意識しながら微妙にずらした設定が多々見受けられる。オリジナルのマーフィは犯罪者一味に虐殺されるが、今回は武器密売犯に通じる汚職刑事のワナにかかり重傷を負う。内部告発を恐れる汚職警官たちによる謀殺であり、オムニ社の設定もオリジナルでは既に警察を支配していたが、今回は自社のロボット技術を警察も含むアメリカ国家側に売り込もうと躍起となっている最中である。
ロボコップ手術の際も、オリジナルでは機械優先で残された生の左腕が切断されるが、今回は人間としてそのままにされる。ロボコップの開発者は旧作では目立たない存在だったが、新作では開発者のノートン博士のゲイリー・オールドマンは、オムニコープの社長セラーズ、マイケル・キートンと並び立つ、最重要キャラクターとなっている。
このセラーズ社長は、機略に長けた有能な経営者であり、良心がないことを除けば、間違ったことはなにもしていない。カジュアルな格好と率直な物言いはビル・ゲイツのような新世代の経営者を思わせる。ひとたび彼の誘惑に乗ってしまったノートン博士は、良心に反する要求に繰り返し応じるしかなく、ロボコップを裏切ることとなる。
そして、時代は大きく変わって、新作はヴァーホーヴェン監督のメディア諷刺を踏襲し、右派ホスト、サミュエル・L・ジャクソンの偏向したニュースショーから始まる。だが、この番組はFOXニュースの実在の人気番組「ジ・オライリー・ファクター」にそっくりであり、戯画どころか深刻な表現そのものなのだ。披露式典で凶悪犯人を逮捕してヒーローになり、ドラッグ工場に乗り込んで麻薬組織を壊滅させる。その活動によりロボットの導入に反対する世論は、賛成に傾いていく。
今作のジョゼ・パヂーリャ監督は、より複雑で深刻な現実の変化を受けて、カタルシスも分かりやすさもなく、主人公は、人間としての生活も愛する家族との触れ合いも失ったまま、取り敢えず結末に辿り着く。ラストは壮絶でロボコップもオムニ社の差し向けるED209などの刺客を相手に絶体絶命!・・・体に打撃を受け、しかしノートン博士の技術で新生銀色のロボコップが誕生する。さて、続編はあるのだろうか。
延命装置の開発で尊厳を傷つけられた人間の悲惨は、社会における自身の無用性にある。しかし、この映画ではオムニ社という企業が、延命者である主人公に有用性を与える。企業は儲かって自由競争の実績を上げ、それで人間たちは危険な警察活動から解放され、万々歳のはずだった。ところがである、神のごとき警察行動の実績を上げるために、人間感情を殺してしまおうというオムニ社側の手立てとして、医師側がドーパミンの注入量を2%まで下げたのに、主人公が自力でドーパミンを再生させた。
人間は生活のために、自身を労働力として売ることができる。だが、人間感情は自分を労働力として売る悲惨さを拒否する。となれば尊厳の本題は、人間よりも人間感情に行く着くのである。
劇中の近未来では、アメリカはイランに侵攻しているという過激な設定で、戦場ではオムニ社のロボット兵器が重要され、もはやロボット兵器は現実のものとなっている。完全自律型ロボットに殺傷の判断を委ねることを禁止すべきだというのは、いま現実に進行中の議論で、新作はそれを全面的に物語に取り込んでいると思う。
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