日本人の信仰の形態は神仏習合である。和歌山県にある熊野大社の本宮の神様は、阿弥陀如来の権現様である。あるいは那智大社の本地は観世音菩薩、速玉神社は勢至菩薩だ。このように日本では古くからの神道と外来思想である仏教とがほどよく習合していた。
日本が仏教を受け入れるきっかけとなったのは、百済の聖明王が欽明天皇に仏像や経巻を送ったことによる、と言われている。このとき、外交を重視し、仏教の受け入れを主張した蘇我氏と、日本古来の神遣の危機を訴え、排仏を主張した物部氏とに分かれてしまう。欽明天皇は窮余の策として蘇我氏に仏像を与え、仏教を受け入れようと拭みた。聖徳太子がまだ摂政に就く前の若い頃、崇仏派の蘇我馬子は熱心に仏教を広めるが、その頃、巷で疫病が流行するようになった。排仏派の物部守屋は、その原因は仏教を受け入れたことにあると仏殿と仏像を焼いてしまう。しかし、疫病はおさまるどころかさらに流行し続け、多くの人が亡くなってしまった。人々は「仏像を焼いた崇り」と恐れを抱くようになる。
こうして仏教を巡る闘いは、豪族の問で激しくなり、国論を二分するに至る。仏教を崇拝していた用明天皇は在位二年で崩御し、これを機に物部守屋と蘇我馬子の争いは激化していく。そのときに聖徳太子は、蘇我馬子が敗れて仏教が排除されるのをおそれ、四天王の像を彫り、「いまもし我に勝ちを与えられれば、必ず護世四王のおん為に寺塔を建てよう」
と、お祈りを捧げる。馬子も同様に、「凡そ諸大王、天神王ら、我を助け衛り、勝ちを得させ給えば、諸天と天神王のおん為に、寺を建て、三宝を流通しよう」と祈った。
この争いで馬子が勝利をおさめ、聖徳太子は誓願どおり大阪に四天王寺を建立するが、このとき、崇仏派が他を圧倒して主流になったわけではなく、神道もきちんと残している。四天王寺は「天王寺さん」と呼ばれ、いまでも庶民のあつい信仰を集めている。
僕はこのときまことにうまいぐあいに、神仏習合思想ができたと思っている。お寺の根本に神社が祀られているのは、この考え方が日本人の根底にあるからだ。奈良の法隆寺なら春日明神、福井の永平寺なら白山神だが、そういう調和が日本人の信仰の底流にはある。ところが、賀茂真淵や本居宣長ら国学者たちの神仏分離の考え方から、幕末から明治時代にかけて「神仏分離令」が発令され、廃仏毀釈が起きて神道と仏教の関係が一変する。たとえば、筑波山は、神仏習合の代表的な霊山であった。筑波神社は残ってはいるが、廃仏駿釈運動で仏の方が消えてしまい、立ち直れないほどの状況になっている。
全国にはこうした霊山が多くある。つまり、「神仏分離令」と戦後の観光開発で霊山が荒らされ、日本の宗教地図はむちゃくちゃになってしまっているのだ。
続く
■信仰の発見 「日本人はなぜ手を合わせるのか」 水曜社
●いのちの営みから生まれる穏やかな宗教心 立松和平(作家)より抜粋紹介
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