■体験的に得られる宗教心
日本人はモノ至上主義で、白然から離れてしまった。たとえば、川で遊ぶこともなくなり自然を知らないまま育っている。自然から離れてしまった不幸は、至るところに出ているのではないだろうか。僕には祖母から教わった信仰心がある。「悪いことはするな、世間に背いたらお天道さまが許してくれない。罰が当る」など、よく言われたものだ。たとえ人に知られなくても悪いことをすれば、その報いは必ず受ける。だから、悪いことはしてはいけない。祖母はそう教えてくれたわけだが、祖母は白然そのものが神であり仏であるような、そういうゆるやかな信仰心をもっていただろうし、僕も受け継いでいるつもりだ。
しかし、これからは何を求めていけばいいのだろう。迷いや悩みや不安に明解に答えてくれるものはそうはないからだ。最近は、ちょっとした仏教ブームのようで、仏教に関する本や宗教書がよく読まれているようだ。仏教は気持ちがいいとか、癒されるとかが要因だろうが、読む動機はなんでもいい。
もっと、宗教とか日本人の精神性とか生きる意味とかに関心をもってほしいと思う。宗教には信じる形と体験的に知るものがあると思う。僕は座禅をするが、座禅は体験的に宗教を知ることができる方法だ。座禅を始めた頃、「とにかく座れ。結跏趺座(けつかふざ)の姿は安楽の法門だ」と教えられた。だが、足が痛くて結跏趺座ができず、半跏しかできなかった。機会を求めて坐禅をやり、それで禅的な境地、悟りの境地に達したわけではない。そんな簡単なことではない。
だがそれでも、道元について少しは語れるようになり、新しい道元像も小説上に展開できるようになってきた。僕白身はもっと本格的に宗教とかかわりたいと思っている。それも修行だと思えば苦にならない。僕はこれまで道元に関する著書が三冊ある。道元も資料を調べれば調べるほどわからなくなってくるが、不思議なもので、何度も考えているうち、なんとなくわかるような気持ちがしてくる。多分、それは全然わかってないことだろう。
道元と向き合い、その信仰と人間の生き方を見ていきたいと思っている。それも宗教という狭い枠からではなく、現代に生きる自分の目から見た道元を描きたいと思っている。もちろん、そのためには宗門に入ってしか得られない哲理や体験的な視点はあるとは思うが、僕自身はいまの環境のなかでそれをやろうと思っている。小説を書くということはそういうことであり、人生そのものでもある。つまり、現実の世界で生きていくしかないということである。仏教でいえば、煩悩即菩提の生き方だ。
(中略)
■現代社会に必要なゆるやかな宗教心
最近、社会では嘆かわしい犯罪が多発している。中学生がビルから幼児を投げ落としたり、些細なことで、刃物で人を傷つける。僕らの時代では考えられないことだ。しかし、これを突き詰めてゆくと、やはり大人の問題にゆきつく。子どもは親の背中を見て育ち、大人の真似をするが、その大人社会の現状は悲惨だ。いじめが横行し、実績のある人が窓際に追い込まれ、リストラに遭っている。経済的に遣い込まれ、犯罪に走る大人も少なくない。そんな環境で子どもがうまく育つはずがない。大人がもっと学ばなければならないと思う。
そのためにはもっと自然に接するべきだ。生命の営みに触れるべきだ。確かに、都会生活は便利である。ものが溢れ、欲しいものがいつでも手に入る。ボタンひとつで快適な空間ができる。しかし、物質的に豊かで便利な社会は、そのまま幸福につながっていない。逆に心の貧しさをもたらしている。
僕の知人に北海道の屈斜路湖で、一万羽の白鳥の世話をしている人がいる。白鳥は水中にある藻を餌にしているのだが、絶対量が不足していた。しかも、このあたりは野良犬やキツネが生息し、弱った白鳥が襲われ命を落とす。そういう悲惨な状況を見るに見かねてボランティアで餌をやり、たくさんの白鳥の命を救ってきた。
とある日、その人の息子さんが婚約者とドライブの途中で事故に遭い、婚約者を死なせてしまった。息子さんは生死の境をさまよい、奥さんは看病に疲れガンを発症して亡くなってしまった。知人は一人ぼっちになり、死を決心する。その時、知人の白殺を思いとどまらせたのは毎年、餌をやり続けていた白鳥だったという。
餌をやらなければ死んでしまう、野良犬やキツネに襲われる。世話をしなければ、白鳥が生きてゆけないと餌をやり続けたというのだ。春に飛来して羽を休め、秋が終わる頃に南の空に飛んでゆく。白鳥が飛び立った後、寂しさに襲われ、死にたいと気持ちが頭をもたげてきたことはあったというが、春になると必ず白鳥が戻ってくる。その繰り返しだったが、数年の後、死にたい気持ちを忘れてしまったというのである。
白然にはこういう大きな力がある。仏教の慈しみを教える生命の紡ぎがある。そういう意味では、いま一番大切なのは、宗教心を甦らせることであり、スローフード、スロー宗教だと思う。そして、穏やかな信心、穏やかな慈悲の気持ちをもち、一人一人が白分らしく生きることだと思う。(談)
■信仰の発見 「日本人はなぜ手を合わせるのか」 水曜社
いのちの営みから生まれる穏やかな宗教心 立松和平(作家)より抜粋紹介
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