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NPO法人POSSE(ポッセ) blog

【解説】「自分の都合で離職する若者」が多いって本当?〈1〉 ~第三のバックラッシュを防げ!~

5月28日、内閣府の「雇用戦略対話ワーキンググループ(若者雇用)」の最終会合が開かれました。若者の雇用不安を「早期に自分の都合で勤め先を辞め」ると報じる向きもあるようですが、果たして若者は本当に自分の都合で職場を辞めているのでしょうか? 早期離職の内実について、数回にわけて解説します。


第一回 第三のバックラッシュを防げ!



ワーキンググループには、『「若者論」を疑え!』の著者、後藤和智さんが初めて報告しました。その主張は簡潔かつ重要で、次のようなものです[1]。2000年代、若年就労言説をめぐって二度のバックラッシュがありました。2004~2005年の「ニート」言説、2009年の「大手志向の選り好み」言説です。つまり、企業の雇用慣行の変化や労働市場の変化を度外視し、往々にして若者バッシングを孕みながら、若者雇用の問題は若者の主観の問題として論じられてきたということです。2000年代に二度、若年者の雇用不安が取りざたされ、そのたびに若者に責任が押し付けられてきた構図を的確に示していると思います。

これを受けて、法政大学の上西充子さんは、「これからの議論を三度目のバックラッシュにしてはならない」と主張しました[2]。私も強く賛同します。

ところが、いま発表されている原案の基本方針には「自ら職業人生を切り拓ける骨太な若者への育ちを社会全体で支援」[3]とあります。まさしく、若者に問題を押し付け、若者を何とかすることで問題を解決するという視点そのものです。これは、日々相談を受けている私の感覚からすれば、「ブラック企業」に入っても辞めない耐性のある人間を育成する発想以外の何物でもないように思います。たくさん有意義な議論が出た会合のまとめだけに、残念でなりません。

中国にあるiPhoneの製造工場で、過労による飛び降り自殺が増加したという報道がありました。その騒ぎの後、その工場では「自殺しません」という念書を書かされるようになったそうです[4]。その工場での残業は月に100時間程度と言われています。それと同等かそれ以上に働いている若者に「私は辞めませんしうつ病にもなりません」と宣言させるのであれば、日本の雇用政策はその工場の労務管理と同程度の水準にあると言わざるをえません。

#1 ワーキンググループでの後藤和智さん提出資料(PDF) http://bit.ly/LaJaFb
#2 「この若者雇用戦略を第三のバックラッシュにしてはいけない@上西充子(法政大学)」  http://togetter.com/li/311531
#3 「若者雇用戦略(原案)」(PDF) http://bit.ly/JrjYce
#4 Foxconnの労働環境を示したニュース(英語) http://bit.ly/jI7Xsg

では、これからの若者雇用政策をめぐる議論をバックラッシュとしないために、どうすればいいのか。政策論として重要だと思うのは、早期離職の内実を探ることだと考えています。若者はなぜ3年で職場を去っているのか。これが、この先の雇用問題を考える上では重要です。この実態の認識によって、若者の根性を叩き直せばよいのか、自分に合う会社を見つけられない若者の能力を上げればよいのか、長期間働けないような「ブラック企業」を無くしていけばよいのか、という処方箋は変わってくるからです。

その点で、今回のNHKの報道は、悪意があるのか不用意なのかはわかりませんが、若者を叩き直す方向へとミスリードする、非常に問題のあるものだったと言えるでしょう。

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政府が若者雇用戦略の原案 (5月28日 19時14分)
http://bit.ly/K675Kx

内閣府の推計によりますと、おととしの春、大学や専門学校を卒業した人などのうち、52%は就職できなかったり就職しても早期に自分の都合で勤め先を辞めたりしています。
こうした事態に、政府は、若者の雇用状況を改善しようと、「若者雇用戦略」の原案を取りまとめました。
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この文言の最大の問題は、「自分の都合で」というところにあります。若者雇用のワーキンググループで示された推計値はあくまで早期離職者の全体の数であって、なぜ辞めたのかは全く言及されていません。なぜ今になっていきなりこの一言を付け加えたのかはわかりませんが、勝手な「読み込み」だと言ってよいでしょう。

しかし、この種の「読み込み」は、暗黙のうちに雇用政策を覆っているというのが実情ではないでしょうか。じじつ、当のワーキンググループでも、早期離職は基本的に若者の根性や自分に合った仕事を見つける能力の問題として、何の前提もなく語られていました。「早期離職=自分の都合で早期に辞めること」という等式が特定の悪意無しに成立してしまっているのだとすれば、事態はよりいっそう根深いといえます。

これほどまでにイメージを支配している「自分で辞める若者」という像。いったい、何に基づいて語られているのでしょうか。
(つづく)


NPO法人POSSE事務局長・川村遼平


(書誌情報)


後藤和智『「若者論」を疑え!』(宝島社新書、2008年)


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NPO法人POSSE(ポッセ)は、社会人や学生のボランティアが集まり、年間400件以上の労働相談を受け、解決のアドバイスをしているNPO法人です。また、そうした相談 から見えてきた問題について、例年500人・3000人規模の調査を実施しています。こうした活動を通じて、若者自身が社会のあり方にコミットすることを 目指します。

なお、NPO法人POSSE(ポッセ)では、調査活動や労働相談、セミナーの企画・運営など、キャンペーンを共に推進していくボランティアスタッフを募集しています。自分の興 味に合わせて能力を発揮できます。また、東日本大震災における被災地支援・復興支援ボランティアも募集致します。今回の震災復興に関心を持ち、取り組んで くださる方のご応募をお待ちしています。少しでも興味のある方は、下記の連絡先までご一報下さい。
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