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NPO法人POSSE(ポッセ) blog

「ハケンと秋葉原殺傷事件~不安定な働き方を問う~」イベント報告

  イベントでは講師として、朝日新聞社労働グループ記者で編集委員の竹信三恵子さん、現代の若者に対する言説を鋭く批判した『「若者論」を疑え!』 著者の後藤和智さん、加藤容疑者が働いていた日研総業で労働組合を立ち上げた「NPOガテン系連帯」共同代表の池田一慶さんをお呼びして、派遣労働の不安定な働き方に潜む問題や「若者問題」や職場環境の問題などの多様な切り口から秋葉原事件の背景を考えました。
 
 竹信三恵子さんにはまず今回の事件と派遣という働き方の関係についてお話いただきました。現時点ではまだわからない点も多く派遣とこの事件の関係をきっちりと立証するのは難しいが、派遣という働き方が背景にあることは間違いないだろうとおっしゃっていました。また、働き方が悪化していることが社会に相当大きい影響をおよぼしていており、与党からもさまざまな問題点があるにせよ、日雇い派遣に関する法制案が出てきているように社会的に「労働」という観点の重要性がこの間で相当認識されるようになっていることなどを指摘していただきました。
 
後藤和智さんは若者問題をメディアが伝えるときにそこに自己責任の論理が入り込んでしまうことを指摘されました。そのようにして社会的に自己責任が煽られることで若者自身もそれを内面化してしまって、自分だけは生き残らなければならない、自分だけは他の人を蹴落とさなければならない、そういう風な状況ができていること、そのなかで本当に問題を解決しようと思ったらまともな生活を作るための労使抗争や、あるいは労働法の活用によって最低限の生活を保障してもらう、という枠組みが重要だというお話をいただきました。

 池田一慶さんは実際に派遣の現場で労働運動をされている経験から、派遣労働の不安定さ、派遣に対する差別の存在、についてのお話をされました。特に強調されたのは解雇に関する派遣社員の待遇です。正社員だと解雇の場合でも整理解雇の4要件というのがあり、まず、人員の削減が必要なのかどうか。本当に必要なのかどうかを検討しなければならない。それから人員整理に整理解雇を選択する必要性はあるのか、また人については妥当なのか、本当に要らないのか、避けられないのか、そして最後に解雇手続きの妥当性ということで労働者や労働組合と話あわなければならない。しかし派遣社員ではこれがなく、非常に不安定な生活と不安を抱える要因になっているということを指摘していただきました。

 講師のお三方にお話をいただいた後、休憩をはさんでPOSSE代表の今野を司会として座談会を行いました。今回の事件がなぜおきたのか、そこから学べることは何なのか、ということについて話し合われました。
 今回の事件がおこった背景として、派遣や非正規という働き方によって引き起こされる、三つの疎外感があげられました。

 一つ目は、労働市場における疎外です。かつての日本であれば、企業にはいってしまえばそれなりに安定する構造がありました。企業の規模や雇用形態によって、差別はあるが、大体の人は、企業に入れば、中流といわれるような安定した暮らしができた。もちろんその外部に位置していた人もいたのですが。
しかし、今起こっているのは、そのような安定すら崩れているということです。大卒であっても正社員にはなれず、派遣として職場を転々としながら働くことを余儀なくされる人が大勢いる。しかし、日本には、国家による職業訓練などの、企業の外で上昇するような仕組みがなく、また同一価値労働同一賃金の原則もない。その結果再チャレンジや転職を行っても、上昇することが絶対に不可能な人がでてくる。逆スパイラルともいわれる状況です。やればやるほど沈んでいく。この人たちの感じる疎外感や孤独感はとてもすごいものとなります。

 二つ目は、ネットなどのコミュニティにおける疎外感です。不安定な働き方をせざるを得ない人が、精神的なよりどころを見出そうとする場は、ネット上の様々な掲示板や、コミュニティとなっています。自分の近いところで人とのつながりを構築できない状況に置かれている人にとって、これらの場が果たしている役割は非常に大きい。しかし、そのコミュニティ内部においても、小さな差異によって排除される事態が起きています。正社員から、「勝手に派遣になったんだろ」などといわれ、また、「ゆとり」という言葉でくくられ排除されてしまう。こうして精神的な支えを失っていってしまうのです。

 三つ目に、労働の現場における疎外感です。そもそも職場を転々とする派遣にとって、現場で人とつながりを構築するのはとても難しい。さらには、どんなにその職場で働いていても、正社員と同じように、新しい仕事を与えられ、新しい技能を身につけることができない。雇用形態が違うだけで信頼関係を築くことすらできない状況があります。

 それでは、このような問題に対処するためにはどうすればよいのでしょうか。様々な議論がなされましたが、まずは、労働市場を規制するような法制度を労働組合などの力を通じてつくることがあげられました。さらに、今後は、小さな差異を排除しあうのではなく、それを超えてつながりを作るような新しい社会運動が必要とされること。また現場レベルでは、同じ職場で働く人と知り合いになり、自分たちの仕事にたいして誇りを持つようにエンパワーメントを行うこと、などがあげられ、すでにこのような動きが全国で起こり始めているということが紹介されました。

 今回のイベントを終えて、POSSEとしても今後も労働相談や文化などの取り組みを通じて仕事を通じて孤独感を感じたり不安に悩むことのないような社会を一歩一歩つくっていくことの大切さを改めて感じました。


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私たちPOSSEは、フリーターや学生など若者によるNPOです。
下北沢に事務所を置いて、若者の「働くこと」に関する問題に取り組むとともに
、若者が集まり交流し学ぶ場をつくります。
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