玉縄城跡について
北条早雲が三浦半島制覇の足場として永正9年(1512)に築いた。天正18年(1590)の豊臣秀吉の小田原平定戦の際に、徳川勢に開城した。江戸に入部した家康は本多正信・水野忠守をこの城に入れたが、元和元年(1615)の一国一城令で廃城となった。清泉女学院のある丘陵一帯が城跡である。
観る者の“人生を変える”可能性を秘めている
なぜ、ここまで『ノマドランド』が評価されているのか? それは「世界の今」をビビッドに映し出しつつ、そこからさらに一歩進んで「生きる素晴らしさ」が普遍的な感動を与えるから。そして、テーマとしてはシリアスな面があるものの、じつはエンタメとしてよくできているからだ。
大企業の破綻によって住居を失った主人公のファーンが、小型キャンピングカーで各地を転々としながら、行く先々で季節労働を見つけては生活を続ける。彼女を中心に、現代のノマド(=遊牧民)と呼ばれる人たちを描く『ノマドランド』は、たしかに格差社会を象徴する作品だ。いわゆる“社会派”というムードが濃厚に漂う。ところがシーンとシーンがテンポよく切り替わるうえに、物語の基本はファーンの旅なので、次から次へと風景が移り変わっていく。なんとも心地よい感覚を味わえる作品なのだ。
大企業Amazonでの発送品の梱包や、レストランでの調理、国立公園での清掃など、ファーンの仕事はさまざま。厳寒の土地で夜を過ごし、病気や犯罪など命の危険を感じる瞬間もあったりするけれど、自分の生活を自由にコントロールするファーンや、ノマドの人たちの生き方が、作品を通して静かに伝わってくるのが本作の最大の魅力だろう。不要な物に溢れまくる現代の消費社会は、やっぱり人間としての本能とは違うのかも……と、自分の日常を見直してしまう。映画の名作によって「人生が変わった」なんて声を聞くこともあるが、『ノマドランド』はそんな可能性を秘めているかも。
オスカー女優F・マクドーマンド&素人起用が作品のパワーを押し上げる
ファーン役のフランシス・マクドーマンドは、すでに『ファーゴ』(1996年)、『スリー・ビルボード』(2017年)で2回のアカデミー賞主演女優賞を受賞。ハリウッドの地位は揺るがないので、恐れるものもないとばかりに、今回はノーメイクで演技に挑戦。実際にノマドの人たちと生活を共にしたり、Amazonで働いたりして役作りしただけあって、ファーンとの一体感は奇跡的だ。「演技」というレベルを超えている。ノマドの友人たちを、実際のノマドの人たち、つまり俳優以外の人たちが演じていることもリアリティを高める効果に貢献。是枝裕和監督の『誰も知らない』(2004年)や濱口竜介監督の『ハッピーアワー』(2015年)のように、演技初体験の人たちの起用が作品のパワーを押し上げる好例となっている。
『ザ・ライダー』もアメリカ中西部の風景が美しく、叙情的に映像に焼きつけられていたが、その美しさは『ノマドランド』でさらに進化した。スクリーンの映像であることを忘れ、風や光を肌で感じているような、大自然と共に生きる感覚を伝えるこの映像美。いくつかの部門でアカデミー賞が期待されるなか、撮影賞が最有力といわれているのも納得だ。
クロエ・ジャオ監督のセンスが光る、人生の格言の宝庫
この『ノマドランド』、原作(「ノマド 漂流する高齢労働者たち」)はあるものの、脚色を担当したのもクロエ・ジャオ。劇中にはいくつも名セリフ、詩の引用が織り込まれていて、観る人それぞれが大切な言葉を持って帰ることができるはず。
「ホームレスではなく、“ハウスレス”」
「友達とは、心の中に生きるもの」
「どんな美しいものも、いつかは衰える」
「この瞬間に死ねたら、幸せ」
「『さよなら』がない。だからノマドがいい。