潜入任務。それは奴の誕生日2日前に、バースデーパーティーも終わりに近付いた頃、指令が下った。選抜されたメンバーはオレを含め4人。目的地は真夜中の滝。滝にたどり着くまではいくつかの難所を越えなければならない。監視カメラ、赤外線センサー、柵越え等。単独潜入には慣れているオレだが今回の様にパーティーを組むチームワークは苦手だ。以前シロウトを参加させミッションインコンプリートした事がある。要するに見つかって任務失敗だ。完璧に痕跡を残さずコンプリートするのがオレのプライドだ。任務に入れば自分の身は自分で守らなければいけない。何が起こるかわからないスリル。これがスニーキングの醍醐味でもある。
車は作戦ポイントまで走る。今回の任務の内容を話合い、ルールを説明。途中鹿がはねられて死んでた。遭難した際には貴重な食料となるのだが、捕獲はあきらめた。この任務には失敗は許されない。見つかれば全員消されるか、社会的地位を失いブタ箱行きかどちらかだ。
作戦ポイントへ到着。少々歩く為、音のするキー類や財布等は置いて行く。靴も履き替え、ジッポも100円ライターに代え携帯も音無バイブ無しに。はぐれた際にはGPSで仲間の場所を確認し救出へ向かう。
侵入して第一関門は柵越えと赤外線センサー抜けだ。必ずと言って良い程ここでシロウトが音を立てる。なんとかよじ登り、ホフクで地べたを這い突破する。壁に身体をつけながら慎重に進んで行く。真夜中の草むら。明かりをつけようものならすぐにバレてしまう。悪路に足をとられながら自らも闇となり暗闇を無言、無音で進む4人。先頭を行くオレはいつしか大佐と呼ばれ(普通大佐クラスになると司令室でふんぞり返ってるもんだが・・・(笑))黄金律の関係からソリッド(固体)、リキッド(液体)、オタコン(??)とそれぞれコードネームが付けられた。
吊り橋に差し掛かる。メンバーを抑止し慎重に進む。川の音しかしない静寂の森にギシギシと木製の吊り橋は容赦なく悲鳴を上げる。何十分歩いたか?わからないところで物陰に隠れしばしの休憩。木になっているみかんを拝借。無言でむさぼり皮や吸い殻は証拠を残さない様埋める。歩きはじめてしばらくすると廃村を通りかかる。なにかのうめき声や、なにかの気配を感じずにはいられなく気味が悪い。よくわからない機械や設備が乱雑に捨てられている。それらを横目にひたすら歩く。川の音がじょじょに大きくなり真夜中の月明かりに照らされた滝がぼんやりと見えてくる。目的地はすぐそこだ!しかし最大の難関もココだ。よくわからない赤い照明に照らされた施設の裏口。その手前の小屋には時間のおかしい時計と監視カメラ。帰路の確保の為、危なっかしいリキッドとオタコンをここに置いて「30分たってもオレたちが戻らない様なら先に帰れ」と言い残し合流場所の滝の裏へソリッドと向かう。監視カメラの死角に潜り込み、全裸で腰の辺りまで水の湧いてる洞窟に入り泳いで進む2人。妙に水が暖かい。温泉が近くで湧いてるみたいだ。なんとかたどり着いた先で見たものは驚くべき光景だった。
「ハメられた・・・」
二人は無言のまま疑心暗鬼で来た道を全裸で泳ぐ。後ろからついてくるソリッド。こいつもグルか?今こうして泳いでいる間にも背後に最大の注意を払い渾身の力で温水を掻く。なんとか入り口に戻り背中に寒気を感じながらも辺りを見回す。帰路を確保する為に置いて来た二人がいない!?まだ10分少々しか経っていないはずだ。後ろで「フッ」っと笑い声がした様な気がする。その刹那、
オレは全裸で来た道を駆け抜けた。2月になったばかりの冷たく張りつめた空気。月明かりはオレの裸を容赦なく照らす。何処に奴らが隠れて狙ってるかもわからない獣道をひたすら走る。あっけにとられたソリッドは手に何か銃のようなものを持つ仕草のまま全裸でオレを追いかけてくる。オレはパニくって「もう誰も、もう何も信用できない」とつぶやきながら廃村の辺りまで戻ってきた。疲れ果てたオレは物陰に隠れ、息と鼓動を殺し、追ってきた40歳手前の男をなんとかやり過ごした。とその時、
「動くな!!」
背中に何かを突き付けられながらも聞き覚えのある声に耳を疑う。ゆっくり振り向くとあと2日で誕生日を迎えようとするクウォーターの男(リキッド)の顔が。口元は静かに笑っていた。もう一人のハーフの男(オタコン)も近付いてきて笑っている。追って来た40歳手前のクウォーターの男(ソリッド)もメキシカンクウォーターなオレを発見するとニヤニヤ笑って近付いてくる。
「お前の求めてたエル・ドラードへ連れてってあげるよ、大・佐・殿!」
とオレは暗闇に突き落とされたのか?自分で足下がふらついたのか?
倒れこむ様な、落ちる様な感覚。いつ訪れるかわからない衝撃に備え身構える。
バシャーン!バシャーン!!バシャーン!!!
何故か心地の良い感じ。オレは死んだのか?天国にも温泉があるのか~?
いや、生きて温泉に入ってる。
いやぁ気持ち良い!危ない橋を渡ってたどり着いた露天風呂は最高だと異邦人4人でひそひそ話す。
疲れを癒し、4人は帰りも来た道をセンサーを避けながら帰る。最後のセンサー(最初のね)に気が緩んだオレらは引っかかり照明とアラートが鳴り響く施設を後に走って逃げる(笑)帰り道では野うさぎとさっきの鹿の死体を見て真剣に持って帰ろうかと悩むも断念。無事いつものスマル亭で天ぷらソバを食べてミッション・コンプリート!朝日がオレたちの帰還を歓迎してくれてる様に思えた。
ちょっと脚色したけどほとんど実話(笑)こんなスリリングな温泉行ってみるかい??
ハマるぜ!!