コロナ禍の政府のバラまきを「やったー!」と感じてしまう人へ (後編)
2020.06.16https://the-liberty.com/article.php?item_id=17274
The Liberty Webより
コロナ禍で、政府や自治体がさまざまな「自粛」を要請。それに伴い、国民一人につき一律10万円を給付するなど、多くの補助金や助成金をバラまいている。
だが、政府が1000兆円を超える財政赤字を抱えていることが問題になっていることを考えれば、この先に起きるのは「増税」だろう。
コロナの被害を考えれば、インフルエンザ並みの対応でいいはず。個人や企業が、政府などの自粛要請を無批判に受け入れていると、そのうち、政府の補助なしでは生きられなくなる。
今回紹介するのは、さまざまな言論活動の中で、「自助の精神」や「自由の大切さ」を訴え続けた故・渡部昇一・上智大学名誉教授のインタビューの後編。
※2009年11月号本誌記事を再掲。内容や肩書きなどは当時のもの
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自助の精神を失った日本は"動物園"と化している
上智大学名誉教授
渡部 昇一
プロフィール(わたなべ・しょういち)1930年山形県生まれ。上智大学名誉教授。上智大学大学院博士課程修了後、西ドイツのミュンスター大、オックスフォード大学へ留学。1971年、上智大学教授。専門の英語学のほかに多岐にわたる分野で言論活動を行う。
【戦後、忘れ去られていたスマイルズの『自助論』や幸田露伴の『努力論』を再評価し、自助努力の大切さを啓蒙し続けてきたことでも知られる渡部昇一氏に、左傾化する現代日本において、なぜ「自助の精神」が大切なのかを聞いた。】
能力を「差別する」のがアメリカの国力の基
日本人は"お上に頼る思想"が強いですが、対照的にアメリカという国は欠点はあるものの、自助の精神が残っていて健全なところがたくさんあります
今、オバマ大統領が国民皆保険の実現を目指して医療保険改革を進めようとしていますが、それに反対する人がたくさんいます。アメリカ人は、基本的に「保険に入るかどうかは自分で判断すべきだ」という感覚が強いからです。つまり、「自助の精神を捨ててはいけない」という考えをベースに議論しているわけです。
またアメリカの懐が広いのは、自助の精神がある一方で、慈善活動が非常に盛んなところです。
たとえば、高校で少しスポーツが上手いとその才能だけで大学に進学でき、少し数学ができるとどこかの個人や団体が数学の才能だけで大学に進む奨学金を用意してくれる。とにかくお金持ちが多いので、さまざまな形の奨学金が存在します。
だから人々の間には、何か少しでも才能があれば、大学などしかるべき道に進めるという社会への信頼感とも言うべき共通認識があります。そのため、個人個人が自分の才能を信じ、磨くというカルチャーがあるのです。
もう一つ、アメリカの優れた点を挙げましょう。
アメリカ社会には多くのタブーが存在します。もっともやってはいけないものが人種差別、男女差別、年齢差別です。しかし逆に、「絶対に差別しなければいけないもの」がある。それは「能力」です。能力を差別しなかったら、徹底的に不公平だという批判にさらされます。
白人であろうと黒人であろうと、男であろうと女であろうと、若者であろうと老人であろうと、能力がある人を出世させないことは許されません。この「能力を差別する」ことが、アメリカの国力の基になっているんです。
ある種の差別や格差は力を生むということを忘れてはいけないのです。
自助努力しない人にトロを食べさせてはいけない
もちろん、セーフティーネットは必要です。セーフティーネットという言葉はサーカスの空中ブランコなどの下に、落ちても死なないように張るものからきていますが、これはブランコのすぐ下に張ってはいけません。やはり、地面の近くに張らないと観ている人がおもしろくない。
年末年始に、派遣村といって東京の日比谷公園に仕事のない人がたくさん集まって大騒ぎしました。そのとき厚生労働省は配慮して働き口を用意していたんですが、結局就職した人は10数名しかいなかったといいます。あの人たちの多くはもともと働く気がなかったんですね。
そういう人には、死なない程度には食べさせてあげても、立派に食べさせる必要はない。「おれたちだって、トロが食べたい」と訴えている人がいましたが、自助努力もせずにそんな生意気なことを言ってはいけません。
セーフティーネットに落ちてしまった人がその後、ネットの上で寝転んだままでいるか、立ち上がって再びがんばるかは当人の責任です。
日本人は今こそ自助の精神を尊ぶべき
また、明治維新の頃の日本人が一番強く感じていたのは、列強の植民地になってしまうという危機感でした。
『四書五経』に代表されるように今まで日本が手本にしていた支那が、アヘン戦争以来ボロボロになっていくのを目の当たりにして、国防を強化しないと国がなくなることに気づいたのです。しかし、「これから何をお手本にすればいいのか」と迷っていた時期でもありました。
その時期に出版されたのが、中村正直の『西国立志編』です。これは日本にとって極めて幸せなことでした。
正直は江戸の昌平坂学問所という幕府の学校始まって以来の秀才でした。彼はイギリスに留学したのですが、当時のイギリスは「世界の工業製品の半分をつくっている」と言われるほどの極盛期で、日本にはまだなかった鉄道や軍艦、大砲があふれていました。
正直は、同じ島国で国土面積も気候もそれほど変わらないイギリスと日本に、なぜここまで差があるのかと考えましたが、留学中にその理由を見つけることはできませんでした。
しかし帰り際、イギリス人の友人に「今もっとも読まれている本だ」と渡されたのが『セルフ・ヘルプ(自助論)』でした。帰国の船の中でそれを読んで「そうか!」と目から鱗が落ちた。イギリスの発展の秘密は、このセルフ・ヘルプの精神だと悟るわけです。
1870年、これを翻訳して『西国立志編』を出版するわけですが、この本を読んだたくさんの人々が志をたてて世に出、その後の富国強兵、殖産興業に尽力した結果、日本が急速に近代化していったわけです。
また、この自助の精神は日本だけに留まりませんでした。日本の発展はその後、世界中の有色人種の独立、解放をも生んだのです。もしあの時代に、自助の精神で日本人が奮い立たなかったら、世界はいまだに白人が支配する19世紀のままだったでしょう。有色人種は奴隷か、少し気が利く人は召使いです。
現代の日本では、国民自らが国に面倒を見てもらいたいからと言って増税を求めていますが、それは「動物園にしてくれ」と言っていることに等しい。人間の品位を失うことにつながる恐ろしい考えです。江戸時代に、「年貢を高くしてくれ」という農民がどこにいますか?
「こき使われてもいいから、国に生活を保障してもらいたい」と考える人は、極端に言えば、食べさせてくれるならその主体が日本でなくてもいい。中国や北朝鮮でもいいということです。だからそういう考え方は怖いんです。自分の生活を守る気がない人が、国を守れるわけがありません。
現代の日本人は今こそ、スマイルズ的な自ら助けようとする気概や努力などというものが、人間の基本的な尊ぶべき価値であるということを再認識すべきでしょう。(談)
コロナ禍の政府のバラまきを「やったー!」と感じてしまう人へ (前編) 2020.06.15
【関連書籍】
『渡部昇一 「天国での知的生活」と「自助論」を語る』
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