拡大協議で米側からはボルトン大統領補佐官(右端)ら、北朝鮮側は金英哲朝鮮労働党副委員長(左から2人目)らが出席した=12日(ロイター)
2018.6.19 11:20http://www.sankei.com/world/news/180619/wor1806190017-n1.html
【緯度経度】 トランプ・ウオッチに反省を 古森義久
米朝首脳会談の評価をめぐりトランプ政権と米国の主要メディアがまたまた激突した。ニューヨーク・タイムズ、ワシントン・ポスト、CNNという反トランプの旗印を鮮明にしてきたメディアは「北朝鮮の非核化に『完全かつ検証可能で不可逆的な非核化(CVID)』を明記しなかった」「共同声明は全体に具体性に乏しい」さらには「独裁者と対等に会い、人権を論じなかった」といった非難を浴びせる。
トランプ大統領は「フェイクメディアのいつもの無根拠の攻撃」と一蹴し、北朝鮮との「共同声明に記した『完全な非核化』(CD)はCVIDを意味する」と反論する。マイク・ポンペオ国務長官も「検証(V)を含まない完全な非核化などあり得ない」と強調する。
同じ共和党でも穏健派のマルコ・ルビオ上院議員も「大手メディアがオバマ前大統領がキューバの残虐な独裁者ラウル・カストロ前国家評議会議長と会って握手したときは礼賛し、トランプ大統領が金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党委員長と握手すると『危険』『愚か』と酷評するのは偽善だ」と批判した。「大手メディアは1年前にはトランプ大統領が北に対して強硬すぎると非難し、いまはソフトすぎると非難する」とも指摘した。
メディアがトランプ政権の政策を論じ、激しく反対することは不健全ではない。だがそのトランプたたきがニュース報道まで色を染めるとなると危険が伴う。最近の「ボルトン外し」の日米での報道が典型例だといえそうだ。結果として大きな誤報となったからだ。
日本の多数のメディアは5月中旬から6月冒頭にかけて「トランプ大統領は国家安全保障問題担当のジョン・ボルトン大統領補佐官を遠ざけ、米朝首脳会談からも外すことを決めた」という趣旨の報道を流した。中にはその結果、「安倍官邸は真っ青」という解説まであった。
ボルトン氏は核拡散防止の専門家で2代目ブッシュ政権では国務次官としてリビアの完全非核化作業の中核となった。北朝鮮核問題でも厳重な経済制裁と軍事手段提示を唱える強硬派である。トランプ大統領に4月初め補佐官として起用されてから、北朝鮮非核化もリビア方式でと提唱してきた。北朝鮮は激しく反発し、ボルトン氏を「人間のクズ」とまでののしった。
「ボルトン外し」報道はこの経緯からトランプ大統領が不興を示して側近から遠ざけ、北朝鮮核問題でもボルトン氏を外し、シンガポールでの米朝首脳会談にも連れて行かない、という趣旨だった。ホワイトハウスはこれを全面否定した。
現実にはボルトン氏は米朝首脳会談で大統領のすぐ左隣に同席した。大統領は会談後の記者会見でもボルトン氏の名前を再三挙げて、これまでも、これからも対北交渉は同氏とポンペオ国務長官に任せるのだという言明を繰り返した。
米朝首脳会談の直前のカナダでの先進7カ国(G7)首脳会議(サミット)でも、ボルトン氏がトランプ大統領の最側近として背後に密着する写真が多数、流された。「ボルトン外し」はフェイクニュースだったといえよう。
その情報源をたどっていくとCNNの「トランプ大統領の北朝鮮への対応ではボルトン氏は脇へと外された」という断定調の報道だった。これほど明白な誤報を機に日本側でのトランプ政権ウオッチにも反省があってしかるべきだろう。(ワシントン駐在客員特派員)
.