北朝鮮は6日、初の水爆実験を同日午前10時(日本時間同10時半)に「安全かつ完璧に」実施し、成功したと「特別重大報道」で発表した。4回目の核実験で、金正恩第1書記の体制下では2回目。北東部の咸鏡北道(ハムギョンプクト)豊渓里(プンゲリ)の実験場で行ったとみられる。水爆実験が事実なら、北朝鮮の核の脅威がさらに深刻化する恐れがあるが「本当に水爆だったのか」との懐疑的な見方も出ている。一方、背景には、昨年12月に北朝鮮の美女楽団をめぐって起きた事件があるとの見方も浮上。今回の核実験に関する4つの疑問に迫った。

 《1》原因は美女楽団?

今回の北朝鮮による水爆実験の突然の発表について、中国政府筋からは、昨年末に中朝間で勃発した「美女楽団公演ドタキャン事件」を挙げる声も出ている。

 「金正恩ガールズ」とも呼ばれる北朝鮮の女性音楽グループ「牡丹峰(モランボン)楽団」は昨年12月10日、初の海外公演を行うため北京を訪れた。しかし同日、金第1書記が水爆保有について言及する発言をしたことを中国側が問題視。公演の観覧者を、政治局員から副部長クラスに格下げしたとされる。

 格下げの事実を伝え聞いた金第1書記は激怒、12日の公演をドタキャンする指令を出し、約100人の楽団全員を急きょ帰国させた。「水爆実験」を命じたのは直後の15日。中国政府筋は「中国指導部が観覧者格下げを見直さなかったことに(金第1書記が)激怒したのでは」と分析する。 「牡丹峰楽団」は2012年に結成。金第1書記が選考に加わるとされ、ミニスカートとハイヒール姿でダンスや歌を披露する姿が北朝鮮メディアに度々登場する。団長の玄松月さんについて、韓国紙「中央日報」は「金第1書記の初恋相手」と報じている。

 《2》本当に水爆か? 実験は成功したか?

 「特別重大報道」で成功を高らかにうたった水爆実験だが、米当局者をはじめ、懐疑的な見方も多い。アーネスト米大統領報道官は、昨年12月の記者会見で「我々の持つ情報の限りでは、(水爆保有は)非常に疑問」と述べていた。

 韓国の情報機関・国家情報院も爆発の規模が3年前より小さい6・0キロトンとし、「水爆の実験ではない可能性がある」と国会に報告。米韓の専門家は、核融合反応を部分的に使って威力を高めた「ブースト型原爆」の可能性を指摘した。

 長崎大学核兵器廃絶研究センターの鈴木達治郎センター長も「爆発時のマグニチュード(M)だけを見ると、『水爆なら、もっと大きくてもいいかな』と思います」。3年前の実験時がM4・9、気象庁が発表した今回の揺れがM5・0とほぼ変わらない点に着目した。ただ、鈴木氏は、水爆保有国がいずれも原爆開発から5~6年で水爆を完成させていることから「技術面からは、北朝鮮が水爆を保有している可能性は十分にある」としている。

 一方、北朝鮮情勢に詳しい軍事ジャーナリストの恵谷治氏は「威力から見て、水爆ではあり得ない」「前回の実験より威力は小さく、結果は失敗だったのでは」と分析。専門家は、今回使用されたのが水爆か原爆か判別するには、現地での放射性物質採取が必要で、検証は困難と指摘している。

 《3》なぜ今? 今後は?

 年明け早々の核実験は、過去の3回と異なり、事前通告なしに実施された。北朝鮮問題に詳しい聖学院大学の宮本悟特任教授は「タイミングに外交的な意味はなく、実験は国内に向けて『安保対策をしている』とアピールするためのものでしょう」。同国では、今年5月に36年ぶりとなる朝鮮労働党大会が開かれる予定だが、宮本氏は「実験成功の見込みがついたため、開催を決めたという考え方もできます」とした。

 今後、北朝鮮は経済制裁など国際社会の中での孤立が進むことが考えられるが「これまでも核兵器開発を進めると宣言している国ですし、事態が急に変化するということはない」と宮本氏。「拉致問題の解決を進める日本と、南北統一問題を抱える韓国の両国にとっては、大きく後退したといえますが…」と話した。 ただ、「東アジアの危機」から「世界的危機」に拡大する可能性との見方も。鈴木氏は「成功していれば爆弾の小型化が進み、より射程の長いミサイルへの搭載が可能になる。米国が最も危機感を抱いていると思います」とみている。

 《4》原爆と水爆の違いは?

 原爆がウランやプルトニウムの核分裂反応を利用するのに対し、水爆は重水素や三重水素(トリチウム)などを核融合反応させ、大量のエネルギーを放出させる爆弾で、太陽の中心部と同じ反応が起きる。放出エネルギーは、原爆よりも1000倍近いが、核融合させるためにも大きなエネルギーが必要となるため、原爆を起爆剤として用いる。 現在、水爆を保有しているのは、核拡散防止条約(NPT)に加盟する5大国(米、露、英、仏、中国)とされ、原爆保有を表明しているインド、パキスタンと、原爆を保有しているとみなされるイスラエルには、存在しないとみられる。米国が1954年に太平洋のビキニ環礁で実施した水爆実験では、付近で操業中の静岡県のマグロ漁船「第五福竜丸」の乗員23人が被爆したことで知られる。