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トランプ旋風は日本で起きるか?――「慰安婦は職業」と言えないなら・・・・・・。
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アメリカでは来月1日に、秋の大統領選に向けた各党の公認選びで、最初の党員集会がアイオワ州で行われる。共和党の候補者討論会も、14日で6回目を数えた。
アイオワ州では実業家のドナルド・トランプ氏とテッド・クルーズ上院議員が接戦を繰り広げているが、全国的にはトランプ人気がいっこうに衰えない。
政治専門ウェブサイト「リアル・クリア・ポリティクス」が算出した支持率の推移によれば、トランプ氏は昨年の7月20日に、元フロリダ州知事のジェブ・ブッシュ氏を抜き去って以来、全米の共和党支持層からほぼ常にトップの支持を得続けている。その間に首位を明け渡したのは、物腰柔らかな黒人脳神経外科医のベン・カーソン氏が急浮上した11月の3日間だけだった。
報じられている通り、トランプ氏はこれまで幾多の「問題発言」を繰り返して、メディアからの批判に遭ってきたが、これだけ支持が堅調なところを見れば、メディアの批判が逆に広告として作用したことが見て取れる。トランプ氏の持論は「ニューヨーク・タイムズ紙に広告を出せば莫大な金がかかるが、記事を書いてもらえばタダだ」というものだが、まさにそれを選挙でも実践した格好だろう。テレビでも人気を博したセレブ実業家は、論争をつくることに長けている。
今回の討論会でも、同じだ。トランプ氏は、目下のライバルであるクルーズ氏がカナダで生まれたことを理由に、大統領になる資格があるのか疑問を投げかけている。もっとも、合衆国憲法は生まれながらのアメリカ人しか大統領になれないとしているが、クルーズ氏は国外生れとはいえ、アメリカ人の母親を持つため、生まれながらのアメリカ人ではある。
討論会では、トランプ氏が「もし万が一、公認候補になったら、民主党側が裁判を起こすかもしれないから、今のうちに考えておいた方がいい」と、クルーズ氏を突っついたが、まるでからかっている風だった。
論争するまでもないことだが、あえて誰も考えないような大問題を提起するのがトランプ流なのだろう。そうして、マスコミが何を言おうとも、人気を集めることができる。ある意味で、民主主義を極めてよく理解している。マスコミや弁護士といったインテリが何を言おうとも、結局のところ、「皆の衆」を動かした人が勝つのだ。
アメリカの民主主義といえば、アブラハム・リンカーン元大統領の「人民の人民による人民のための政治(government of the people, by the people, for the people)」という言葉が有名だが、上智大学の渡部昇一・名誉教授は「人民」ではなく「皆の衆」の方が実態に近いと述べた。まさにトランプはあけすけと率直に言いたいことを言って、「皆の衆」から人気を集めているのだ。エリートによる政治に飽き飽きしている「皆の衆」は、自分たちと同じような人(person like us)をトランプに見て、支持している。
トランプ氏の個別の発言については、様々な意見があるだろうが、実は日本の政治に必要なのは彼のような人物なのではないかとも思えてくる。マスコミが「言っていいことといけないこと」を決め、財務省が政治家を動かして増税を既成の事実にしていく。これに対して、日本人も声をあげなければいけない。
だが、トランプ流の要件とは「マスコミに勝つこと」、あるいは「マスコミの批判を柔の技で人気に変えてしまうこと」である。そうした政治家は、今の政界に現れているだろうか(石原慎太郎氏は引退してしまった)。
慰安婦は「職業だった」と、本当のことを言えば謝罪に追い込まれるようであれば、トランプ旋風が日本で起きる日は、まだ当分、先なのかもしれない。
15日の産経新聞1面には、コラムの「産経抄」で、在日韓国人の劇作家である故・つかこうへい氏のエピソードが載っていた。
つかさんは、日本軍・官憲による(慰安婦の)「強制連行」に関しては「していないと思う」とみていたが、一方でこうも指摘した。「営業行為の側面が大きくても、人間の尊厳の問題なのだから、元慰安婦には何らかの誠意を見せ続けるべきだ」。合理性だけでは割り切れない人情の機微か。
取材後の雑談で、つかさんはこんなことも笑顔で語っていた。「うちのオヤジは『日本に連れて来られた』と言っていたけど、本当は食い詰めて自分で渡ってきたんだろう」。あっけらかんと本当のことを語り合える日が来るのを願う。
(産経新聞 1面 産経抄 2016/01/16)
そういう日が来ないものかと、私も思う。