ウクライナ問題――
日本の国際的なプレゼンスを増すチャンス
[HRPニュースファイル979]より
http://hrp-newsfile.jp/2014/1408/
文/HS政経塾3期生 たなべ雄治氏
◆外相級4者協議、具体的解決には至らず
ロシアとウクライナ暫定政権が初めて同席して行われた外相級4者協議ですが、
見解の相違を残したまま具体的プロセスにまでは踏み込めず、事態は
こう着しています。
ウクライナと欧米、ロシアの間で相互不信に陥っているようです。
欧米の立場では、ロシアがウクライナのEU傾斜を断固阻止し、旧ソ連圏の復活
を狙っているように見えているのでしょう。
一方のロシアからは、2004年に起こったウクライナのオレンジ革命で親EUの
ユシチェンコ大統領が誕生したのも、2月のヤヌコビッチ大統領が亡命した
のも、欧米の差し金に見えるでしょう。
そして、民主化の圧力でプーチン政権を崩壊させたいという欧米の意図を感じ、
危機感を抱いているのではない
でしょうか。
◆ウクライナ、ロシア、EUが経済的打撃を受けている
このままこう着状態が続くことで、少なくとも経済的には得をする国は
ありません。
ロシアではプーチン大統領の支持率が80%を超えていますが、同時に
経済に最も力を入れるべきと答えた人は60%を超えており、プーチン政権とて
経済を無視できません。
経済制裁は交易を滞らせ、誰にも恩恵を与えません。
一刻も早い事態の解決が望まれます。
◆民主化は、急がば回れ
今回の混乱の遠因として、EU圏の急速な拡張主義にも問題があるように
思われます。「民主化至上主義」とでも言うべき間違いを犯しているの
ではないでしょうか。
急激な民主化、押し付けの民主化が成功した事例はありません。イラクでも
アフガニスタンでも、「民主化は失敗した」と結論付けて良いほどの混乱
に陥っています。
民主化さえすれば事態は好転する、というのは幻想です。
なぜなら、民主化において真に難しいのは「普通選挙の実施」ではなく
「民主主義の定着」であり、それには長い時間をかけたプロセスが必要
だからです。定着させるためには、国民の民主主義に対する理解と、経済成長
が欠かせません。
経済成長が必要な理由は、政情を安定させるためです。ウクライナの政変も、
その背景には経済停滞に対する不満がありました。
親EU派は、EU化が進めば経済成長を実現でき、繁栄を享受できると考えて
いるようですが、果たしてそうでしょうか。そもそもEU自体が、経済は
ドイツ頼み、経済発展に成功しているとは言い難い状況です。
◆地域安定を考慮した現実的な妥協点
民主化を急ぐばかりが、方法ではありません。台湾やシンガポールを見ても、
国の発展過程において、時に民主制よりも強力なリーダーシップが必要で
あるというのは事実でしょう。安定の中で経済成長を進め、政治と経済を成熟
させていく必要があります。
ロシアも、民主化する段階ではないと考えているのではないでしょうか。
だとすると、ロシアが求めるのは急激な民主化に対する防波堤、政治的な
意味での緩衝国です。ウクライナという緩衝国が無くなった今、新たな緩衝国
のために、ウクライナ東部の自治権拡大を要求しているのでしょう。
このあたりが妥協点ではないでしょうか。地域安定を重視するならば、
ウクライナと欧米は、クリミアのロシア編入を認め、ウクライナの連邦制導入
を進めるべきです。
そしてロシアは、親EUのウクライナ暫定政権と次期大統領選挙の正当性を
認めるべきでしょう。
◆欧米、中露との板挟み。どう乗り切るか
ロシアとの経済関係が薄いアメリカは、強硬に経済制裁を主張しています。
尖閣問題などで日米関係が無視できない日本は、対ロ経済制裁をせざるを
得ないでしょう。
また対ロ制裁をしなければ、中国が図に乗って尖閣への圧力が強まる
可能性もあります。
しかし一方で、ロシアを追い詰め過ぎることで中国と手を組むような事態に
なれば、日本にとっては厳しい状況となります。
アメリカとの関係を維持するために表向きは制裁に加わりながらも、中露を
結び付けないために水面下でロシアに「日本は決して見捨てない」という
固い意思を伝えておくべきでしょう。
そして妥協点に向けて、仲介の労を取るべきです。この事態を逆手に取れば、
日本の国際的なプレゼンスを増すチャンスであるとも言えるでしょう。
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今ウクライナが困難な状況にあるのは、誠に同情に耐えないが、過去のことが色々あったにせよ、底力のある隣国ロシアに対して、弱っていたからと不遜で省みない態度を続けてきたツケに対する清算の時期のようなものにも見える。
つまり、政府が音頭をとるというか、指導者が命令一下で動かす体制もないと、国によっては暴動あるいは政変が起きるということでしょうね。