『日本経済「ひとり負け」』を読んで①
http://nakano-yuta.hr-party.jp/2010/03/post-73.html
高橋氏の良い点と気になる点
私が個人的に日本経済政策を勉強するときに参考にしている元財務省出身の高橋洋一氏。氏は竹中平蔵氏のブレーンとして構造改革や財政再建に関する優れた研 究をしているので何冊か読んでいました。アメリカのプリンストン大学に留学して、現在のFRBのバーナンキ議長や2008年のノーベル経済学賞受賞者・ ポール・クルーグマンの指導を受けていることから、アメリカでもトップクラスの経済学者についていたことが分かります。氏の著作は元々数学者なので分析が 鋭く、読み応えがあるのですのですが、唯一気になる点が2つありました。一つ目は、マンデル=フレミングモデルをあまりにも重要視し過ぎること。よって、 氏の提言には財政政策はほとんど聞きません。よって、理論通り、開放経済下では、財政政策は無効で、金融政策が有効という単純な定理を信じ込んでいる節が あります。
結局、高橋氏の提言は、金融政策と構造改革の2つがメインとなっています。しかし、理論的にはマンデル=フレミングモデルでも、金融と財政を同時に行えば GDPは増えるようになっていますので、金融政策だけが正しいとする論理には無理があります。二つ目は、彼の著作の中では、一見鳩山政権に対する評価が高 いという点です。理系の頭脳なので、鳩山氏はOR(オペレーションズ・リサーチ)に基づいた計算をしている。数学的観点から見れば、決して鳩山総理は変な ことを言っていないと書いていました。これはさすがに間違っていると思います。鳩山氏は計算しているのは事実だとしていても、基本的な政策の理解とお人よ しの性格が混乱を招いているということです。それを数学的に理論付けをしたところで意味はありません。もっとはっきり言えば、民主党政権に対する期待が大 きすぎたということです。
前書きを読むと氏の民主党政権に対する期待度が分か る
高橋氏は、どこかの政党に肩入れしている様子はありません。しかし、明らかに分かるのは政権交代によって日本経済が良い方向に変わると期待していたことで す。下記の文章がそれをあらわしています。
政権交代ということで民主党にはおおいに期待をいだいていたのですが、いまとなって は甘かったみたいです(同書3pより引用)。
氏はいったい何を期待していたのでしょうか。国民の中には民主党になったら経済的に無策であることを主張している人は結構いたのです。いまとなっては甘 かったというのは、そうとう甘い認識だと言わざるを得ません。頭は切れる人ですが、洞察力はないのでしょうか。昨夏に民主に投票してしまった方でさえ、昨 年の秋口には後悔をしている人が多数静岡にもいました。ということは、氏は、民主党の政治主導や事業仕分けのようなパフォーマンスの意図を見抜けなかった ということです。この書では、「ここまで言うか」くらい、民主党の政策を批判しています。最初から、この書のように書いて問題はなかったのに、総理がたま たま自分と同じ思考回路を持っているというだけで期待をするほど甘い御仁だとは思いもしませんでした。
早期の景気対策を
ただ、氏の主張している論点自体はボケていません(賛否両論があることは百も承知している)。デフレギャップを埋めるための政策としては、一環として金融 政策の重要性を強調し、インフレ目標値を導入することを主張していることや、政府紙幣を発行する点も触れています。さすがに埋蔵金の活用に関してはトーン が下がりましたが、それでも依然として鋭い分析は健在です。さらに、財務省の思惑を暴いている点は、他の経済書にはない視点なので勉強になります。
いずれにせよ、日本経済にとって民主党政権の経済運営では不況が長引くだけです。高橋氏はようやく民主の間違いに気づきました。人は誰でも間違いを犯しま すが、反省を通じて修正することができます。氏に限らず、国民全体で真に日本経済に良い政策は何かをどんどん追求し、建設的な意見を出し合う風土を作らな ければいけません。
巷間では悲観論が蔓延しています。まもなくシナにGDPが抜かれることやそのまま80位まで落ち込むことを信じている人もいるので困ったものです。日本の 潜在GDPが50兆近くあるということは、政策次第によってそれだけ成長の余地があるということです。政府が臆病で何もしていないだけです。私が何度も指 摘している大胆で迅速な景気対策を打つのは、一日も早くGDPギャップを埋めるための提言です。さもなければ、本当に「ひとり負け」状態が続くだけです。
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