サンケイ・ビズ「吉田ドクトリン」を捨てる時
【ついき秀学のMirai Vision 】http://www.sankeibiz.jp/econome/news/101119/ecc1011190502000-n1.htm
アジア太平洋経済協力会議(APEC)期間中に行われた
菅直人首相と胡錦濤国家主席との会談でも、
尖閣問題は平行線に終わった
□幸福実現党党首
経済的な損得勘定で動く日本外交
9月7日に尖閣諸島で起きた漁船衝突事件を巡り、
菅政権は迷走を続けています。アジア太平洋経済
協力会議(APEC)期間中に行われた日中首脳
会談でも、尖閣問題は平行線に終わりました。
菅政権のような場当たり的な外交を続けていると、
下手をすれば本当に日本の領土を失いかねません。
船長を逮捕した当初は「国内法にのっとって粛々と
対応する」はずだったのが、レアアースの日本向け
輸出の禁止、観光客の訪日ツアー自粛勧告など、
中国が経済的な圧力をかけてくると、途端に腰砕け
になってしまいました。こうした経済的な利益を
“人質”にとった報復措置に屈して、中国人船長を
釈放し、「尖閣諸島は日本の領土ではない」と認め
たような結果となりました。
この菅政権の対応について、米倉弘昌経団連会長は
「事態を沈静化させようという努力の結果であり、
日中関係という“国益”を優先することが重要である」
と評価しました。結局、政権も財界も、明らかに経済の
レベルでの損得勘定を国益と考えているフシがあるのです。
しかし、この考え方は非常に危険です。
◆「半主権国家」の落とし穴
国際政治では、ハイポリティックスとローポリティックス
という考え方があります。伝統的には、ハイポリティックス
とは、国防や外交など、国の存亡や安全に直結する重要度の
高い分野を指し、後者は経済や文化などの分野を指します。
国がなくなってしまえば、経済的な繁栄も意味を成しません
から当然のことです。今回の漁船衝突事件なら、日中の経済
活動に支障が出たとしても、日本の領土を守るために「
船長の処分は国内法に基づいて行う」という筋を通すべき
でした。
ただ、こうした判断の根源には、「国防は米国に任せ、
日本は経済復興を最優先する」という「吉田ドクトリン」
があるとみられます。戦後、米国は日本に対し“刀狩り”
をして、軍隊を持つことを認めませんでしたが、1950年
に朝鮮戦争が勃発(ぼっぱつ)すると、再軍備を要求して
きました。これは、米国から押し付けられた「占領憲法」
を改正して軍備を整え、日本が一人前の独立国になるチャン
スだったのですが、当時の吉田茂首相は再軍備を拒否。
米軍基地を提供して米国に守ってもらいながら経済再建に
集中する道を選びました。吉田首相は「アメリカは番犬だ。
しかもエサ代(経費)は向こう持ちだ」と語ったといいます。
国民を守ることは政治家の最も大切な仕事であり、政府の
義務です。吉田首相は、その義務を他国に委ね、日本を
「半主権国家」に押しとどめたのです。
◆主権国家としての自覚を取り戻せ
明治維新後の日本は、「富国強兵」を大方針とし、
列強の一角に食い込みました。自分の国を自分で守る
ことができないなら、一人前の国ではないことを先人
たちはよく分かっていました。戦後の「吉田ドクトリン」
は「強兵」を捨てることで、経済大国への道を開いた
わけですが、一番大切な主権国家としての自覚を失っ
てしまいました。
現在、県知事選が行われている沖縄は、米軍基地
問題で揺れています。これも判断が右に左へとブレて、
いつまでも決着が着かないのも、尖閣問題と同じく、
「吉田ドクトリン」の呪縛(じゅばく)によって、
安全保障が最優先するという「外交の鉄則」が失われ
ていることがその原因です。
逆に、漁船衝突事件と米軍基地問題は、日本が本当の
「主権国家」へと脱皮する最後のチャンスかもしれません。
日本は今こそ、「吉田ドクトリン」を捨て去り、
「自分の国は自分で守る」という主権国家としての当然
のあり方に立ち戻るべきです。
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【プロフィル】ついき秀学
ついき・しゅうがく 1971年、大阪府生まれ。
東京大学法学部政治コースを卒業後、宗教法人幸福の
科学に入局。財務局長、専務理事などを歴任。
2009年、幸福実現党に入党。10年7月、
幸福実現党党首に就任。妻と2男の4人家族。趣味は
読書と散歩