「国防の気概」はあるか――
平成24年度『防衛白書』の問題点
[HRPニュースファイル353]転載
2012年8月2日 │
尖閣・沖縄情勢が緊迫化する中、閣議で平成24年度版『防衛白書』が了承
されました。(防衛省 平成24年度版『防衛白書』⇒
http://www.mod.go.jp/j/publication/wp/wp2012/w2012_00.html)
メディアは、中国共産党幹部の腐敗問題や政軍関係の複雑化など、中国の内政上の
懸念にまで踏み込んだ新しい防衛白書の内容を評価しています。
しかし、国難が迫る中、民主党政権の弱腰姿勢を反映して、従来の
「専守防衛、日米安保依存」という枠組みから大きな変化は見られず、
「国防の気概」を打ち出すには程遠い内容であると言わざるを得ません。
中国が侵略的な軍備を増強し、2020年をめどに地域の覇権国としての地位を確保
することを目指しているのは明らかです。
「台湾の軍事統一」を狙う中国の国家戦略や、軍事国家である中国の本質に
ついて、もっと斬り込むべきです。
また、同白書は、中国の政軍関係について「党の意思決定プロセスにおける
軍の関与は限定的であるとの指摘もある」と述べていますが、中国の政軍関係
が自由主義国のように「政治が軍を支配する」関係にあるように捉えるのも、
ほどほどにすべきです。
「危険な軍事国家は中国の方である」と指摘できなければ、「国防の気概」
は立たず、弱腰外交を見せつけるのみです。
実際、中国外務省は日本の防衛白書について「中国は防衛的な国防政策を遂行
しており、いかなる国家にも脅威にはならない」「他国の正常な軍の発展を
大げさに言う国には別の目的があるに違いない」と反論し、逆に「中国脅威論」
を利用した日本の軍国主義化を懸念して見せています。(8/1 日経)
中国は台湾の軍事統一を国家目標に据えて、着々と軍事力を増強しています。
米国防総省のレポート『中国の軍事力2012』によれば、既に中国の沿海部には
1000発の短距離弾道ミサイルが配備し、台湾を射程にとらえ、給油なしで台湾を
攻撃できる軍用機数は米軍に拮抗してさえいます。
また、台湾海軍の3倍以上の水上艦艇、10倍以上の潜水艦を配備して、台湾を
海から封鎖するための準備を整えています。
更には、1995年・1996年の台湾海峡危機の際に受けたような「米国の軍事介入」
を排除するため、米国やその同盟国の都市(もちろん日本にも)を標的にした
核弾道弾を実戦配備しています。
中国共産党は、戦後いかなる政治的混乱や経済危機があっても、優先して資源配分を
行い、核ミサイルの開発を続けて来ました。
「米国を威嚇できる」核ミサイルの開発を目指し、国民の飢餓を無視して一直線に
突き進んできたのが「軍事国家」たる中国の正体です。侵略的な軍備・性質を整え
ているのはどちらであるのか、既に明らかです。
加えて指摘すれば、アーミテージ氏が読売新聞に寄稿したように「日米安保に依存
していれば国防が成り立つ」とする考え方からも脱却しなければなりません。
「私は古くからの日本の友人として、集団的自衛権をどう扱うかを決める権限は、
ひとえに日本国民にあると主張してきた。だが、こういわなければ正直ではあるまい。
日本の憲法上の制約は今後、日米同盟にとって、さらに重大な問題になるだろう。
『最均衡』政策は、21世紀の挑戦に立ち向かうパートナー探しでもあるのだ」と氏は
述べています。(7/22 読売)
中国の軍事的台頭に対処するには、米国と日本が今まで以上に緊密な関係を
築かなければなりません。
NPO法人岡崎研究所の岡崎久彦氏は「これからの日米協力は、いかに中国の戦争
から台湾を守るか」にかかっていると指摘しています。その際、東シナ海が
「決戦海域」となる可能性があることも指摘しています。
(『Voice』2012年8月号「台湾を日米協力で死守せよ」)
防衛省は、このような中国の核ミサイル戦略、台湾統一戦略、その過程での海洋進出
にもっと白書の頁数を割くべきでした。
台湾統一作戦が実施される過程で、与那国・石垣・尖閣などが封鎖・上陸の危機
に瀕する可能性があることも明記すべきです。
更には、個々の事象を列挙するのみならず、「中国が台湾統一を放棄しない以上、
南西諸島に対する危機が遠ざかることは無い」という大きなビジョンを提示する
事こそ、国防の専門家集団たる防衛省の仕事ではないでしょうか。
「自分の国は自分で守る」――こうした主権国家として当たり前の主張すらできない
ところに、わが国の国防は根本的な問題を抱えています。
中国の国家戦略を放棄させるためには、憲法九条改正や、集団的自衛権の行使は言う
に及ばず、「中国の核がわが国の脅威となっている以上、わが国としても、世界の
平和と安定を守るため、独自の核武装の検討に入らざるを得ない」と言って、中国に
核放棄を迫るぐらいの強気の政治家が必要です。
(文責・HS政経塾一期生 彦川太志)
執筆者:彦川 太志 (4)
HS政経塾1期生、幸福実現党 神奈川第4区支部長
公式サイト: http://ameblo.jp/sekai-to-otomodach
。