血税1兆円をドブに捨てた「住基ネット」〜元祖マイナンバー、あれはいったい何だったのか?
【怒りのレポート】
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カードの普及率は、わずか20人に1人。大半の人が使い道さえ知らないまま、住基ネットがフェードアウトする。ここで責任のありかを明らかにしておかなければ、マイナンバーも同じ道をたどる。
何の役にも立たなかった
「私は'07年頃、総務省の住基ネット普及促進担当者に呼び出されたことがありました。一向に普及しない住基ネットについて、批判的な記事を書いたからです。
そこで先方が『頭ごなしに批判するのはどうかと思う』『住基ネットは国民の役に立つ』と言うので、『そんなにいい制度なら、当然あなたたちは全員、住基カードを持っているんでしょうね』と聞いたら、室長以下、その場にいた担当者が誰一人持っていなかった」
こう述懐するのは、行政とITの取材に長年携わってきた、ジャーナリストの佃均氏だ。
昨年12月22日、住民基本台帳ネットワーク(住基ネット)のカード更新手続きが、誰にも顧みられることなく終了した。
'02年8月の稼働開始から13年あまり。発行された住基カードは累計920万枚だが、紛失などを除く有効発行数は710万枚で、カードを持っているのは全国民のわずか5・5%にすぎない。発行済みの住基カードは、有効期限いっぱいは使えるが、随時マイナンバーカードに置き換えられてゆく。
ある総務官僚が言う。
「住基ネットに費やされた税金の額は、『公式発表』では、システム構築の初期費用に約400億円、毎年の運営維持費が約130億円。合算すると、13年間で2100億円ほどとされています。
しかし実際には、当時全国で約3000強あった各地方自治体でも、それぞれ1000万〜2000万円ほどの初期費用と、年間数百万円の維持費がかかっています。そうした費用を合計すれば、これまでに日本中で1兆円近い税金が、住基ネットに消えていったのです」
高市早苗総務大臣は、昨年末の会見で、住基ネットがもたらしていた経済効果を「年間510億円」と答えた。
だが、せいぜい身分証程度の使い道しかない住基カードが、それほどの経済効果を毎年コンスタントに生んでいたかどうかには疑問符が付く。またそもそも、13年間で計6630億円の経済効果が本当にあったとしても、これまでの1兆円の浪費を考えれば大赤字だ。
住基ネットは、ほとんどの国民にとって必要のない欠陥制度だった。それなのに、国民の血税は粛々と、この住基ネットという「ドブ」に放り込まれ続けていたのだ。いったい、なぜなのか。
中略
過去数十年、官僚たちは同じ野望に挑んでは失敗を繰り返してきた。その過程で、住基ネットという巨大なガラクタを生んだ。何度でも言うが、財源は血税なのだ。
責任は誰も取らない
そして、このままでは間違いなく、マイナンバーも住基ネットの轍を踏むことになるだろう。ある内閣府官僚が、こんなことを口にした。
「にわかには信じがたいかもしれませんが、実は近い将来、マイナンバーカードは廃止になる可能性が濃厚です。
国民のほぼ全員が携帯電話を持つようになった今、携帯のSIMカードに必要な情報を入れた方が、ICカードに情報を書き込むより安全で手軽ですから。
総務省では、すでにそのための実証実験も始まったと聞きます」
この年明けから鳴り物入りで配り始めたばかりのマイナンバーカードが、あと数年もすれば、すべてムダになるかもしれないというのだ。もっとも官僚たちにとっては、それで一向にかまわないのだろう。いくら税金を浪費しようと、誰一人クビにもならず、責任を取らされないことは、住基ネット失敗の前例が証明しているのだから。
元大蔵官僚で、経済学者の高橋洋一氏が言う。
「番号制そのものは、世界各国で導入されています。しかしマイナンバーのように、納税者番号や社会保障番号などのさまざまな分野を、一つの番号にいきなり集約するものは他に例がなく、懸念しています。例えば番号を交付したら、まずは社会保険に使い、それがうまくいったら年金、その次に納税というように、ゆっくり導入すればいい。
マイナンバーがもし失敗すれば、その費用面でのリスクは住基ネットよりはるかに大きくなってしまうでしょう」
すでに1兆円が浪費されている。官僚たちがこれから何をしようとしているのか、国民は目を光らせる必要がある。
「週刊現代」2016年1月31日号より