ファンタジーノベル「ひまわり先生、事件です」

小さな街は宇宙にリンク、広い空間は故里の臍の緒に繋がっていた。生きることは時空を翔る冒険だ。知識は地球を駆巡る魔法の杖だ

第6章連載≪9≫「ひまわり先生、大事件です。自然の猛威が襲います…」

2015年12月27日 | ファンタジーノベル


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★登場人物の紹介★龍編★
龍は、アマノ電気店の息子、父は考古学好きで、恐竜の化石を日本で発見したくて、よく息子に多摩川の上流をつれ歩いていた。だから息子を「龍」と名付けた。そもそも、恐竜の発掘が、父と母の馴れ初めで、大学時代の発掘のアルバイトで、縄文弥生遺跡を発掘したことから知り合っていた。龍はメカに詳しく、パソコンを組み立てる程のパソコン好き。彼の2階の部屋は捨てられたオンボロ家電が転がっていた。自分で修理して、部品を交換して使えるようにしたものがあふれていた。

 もう一つ忘れていけないのは、龍は数学の天才でした。数学のオリンピックの、「国際数学競技会 IMC」の参加を控えていた。未だ日本に「フィールズ賞受賞者」がいないので、期待されていた。10年後の彼は、インドの高原に聳えるアメリカ系のソフト開発の情報リサーチ部のスタッフの一員として働いていた。インドの街角で、悟と偶然再会する。その時ちょうど、遊樹の誘拐事件を聞く。その時、龍が悟にこういった。「何故、世界から餓死する人が亡くならないのかー」「どうして地球から戦争がなくならないのかー」「何故、世界から子供の誘拐や虐殺がなくならないのかー」…、それらの難問を解決するのが経済学であり、政治学であり、犯罪学の使命ではないのかな。「だから、悟よ、知識は人類の魔法の杖でなければならないんだ」。人類は恐竜から猿人類へ、ネアンデルタール人から人間にまで進化できるのかーな。でも、歴史の進歩って何なのか、人間の脳はそこまで進化できるのかな…。

 彼は近頃、人間の脳生理学に関心を持っていたー。人間の未来社会がどうなるのか。人間は社会という殻の中で生きるように順応してきている。人類は、猿から人間に進化した時に、社会と集団とタブーとルールを作ったが、社会環境の中でしかもはや生きられなくなった。だから、社会制度とシステムの進化は、人間の脳と感覚と内臓に依拠していると考えている。そこで、人工知能を持ったコンピュータとマイクロマシンに興味を持っていた…


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ひまわり先生の子どもたち…、君子、悟、美佳、太一、徹たちの6年2組の新聞班は、誘拐された勇樹を捜すために、10年後にもう一度、小学校の桜の古木の下に帰ってきた。5人は固く手をつなぎ、桜の満開の下で、今この時の再会に、それぞれの顔を見合いながら感涙した。時の経過と共にお互いか失ったものに哀しみ、世界を彷徨い探し続けた末に見つけた心の糧がここにあったことを頷いた。多摩川小学校には、町に住む茜や龍や緑や源太たちの仲間がいた。

小さな街は、宇宙にリンクしていた、そして、広い世界の先は、生まれた街の臍の緒に繋がっていた。生きることは、いつも時空を翔る冒険だ。知識は、地球を駆巡る魔法の杖だ。見つけたものは、地球を闊歩した巨大恐竜の足跡とグーテンベルクと戯れる蝶だった…

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関東地方に降った大雨は、煤煙で煤けた大空を透き通ったシーツのように洗い流し、台風の強風は、散水バケツを庭の隅に吹き飛ばし、木をなぎ倒して、多摩川町の路上をゴミだらけに荒らして通過した。地震の被災地もまた、台風に襲われ、北陸から東北地方は、災害のダブルパンチで、相当なダメージを与えたようだ。学区内の街も相当荒れ果てているので、ひまわり先生も心配そうに、「昨日の台風は凄かったね。多摩川町も台風の影響を受けて、商店街の看板が飛ばされたり、庭の植木鉢が大水で流されたようね。みんなの中で、被害にあった人はいませんでしたか。私も帰り道に傘を飛ばされて、ずぶ濡れになりました…」。大地震の後の、さらに嵐の襲来とあっって、今朝のひまわり先生の話題には、容赦のない自然に対する人間の弱さという、やや哲学っぽい表現が多かった。

「…人間の肉体は弱くて、凶暴な自然に対しては脆くて、無力なものね。まったく、本当に。ロケットは、宇宙空間に飛び、数千メートルの深海を潜水にすることができるというのに。その上、人間はとうとう、遺伝子操作によって神の領域を超越したのに。でも、自然の猛威には手も足も出ませんね。無力なものね。まったく、本当に。さて、今日はいい天気で、気持ちがいいですね。今日から救援活動をいたしましょう…」。
 すると突然、龍が手を挙げて、「先生、僕は昨日、父の仕事の手伝いをしました。都会に住む人は、自然の脅威を忘れています。お蔭で昨日は、停電になった家から、急いで懐中電灯を届けてくれとか、災害情報を聞く携帯用ラジオは売っていないかと、電話が鳴りっぱなしでした…」と、言った。

いつにもない龍の饒舌に、ひまわり先生の軽い駄洒落が飛び出した、「風が吹くと桶屋が儲かると言うけれども、台風が来ると電気屋さんが儲かるのね…」。すると、どういう訳か、茜が龍に声援を送った。「見た、見た、見たわ。昨日の大雨の中を、龍君が車に乗って商店街のバス通りを勇ましく突っ走るのを。みんなが遊んでいる時なのに、龍君って大変ね!」と。みんなからブーイングが聴こえた、「スミレ、ちょっと褒め過ぎじゃーねえかー。次の学級委員長は龍で決まりだな…」。茜はミス多摩川と言われるほど愛くるしい美少女です。小学校4年生の時、母の弥生が娘を自慢したい余り、雑誌に写真を送って、商業雑誌の表紙に載ったことがある。その時は、≪フラワー弥生≫の店先には、茜を撮ったグラビア写真が、歳末大売出しのように、花屋のショーウィンドにベタベタと貼られ、茜の誕生花のスミレが店先で配られた。町中を巻き込んで大騒ぎをした。それ以来、秋葉茜はスミレちゃんと呼ばれている。「スミレ、お前達二人はなんか、怪しいぞ。エーそうか、うだったのか…」と、太一もみんなに便乗して茶化した。クラスの半分が爆笑して、半分の女の子が太一を睨んだ。小6年の女の子は、もうおとなの女性に近づいていて、十分にリリックである、言葉に喜び、言葉に傷つき、言葉に騙され、言葉が運命を左右する。先生 再び龍が言った、「使えなくなった中古の電化製品を修理して、災害地に送ったりしたらどうでしょうか?新しい電化製品を買ったお客さんが、まだ使えるものを処分してと、山積みにしてあります。先生、できるでしょう?…」、と質問した。さっきから何か言いたくてうずうずしていた君子が、教室の後ろの方から立上って、漸く私の出番よ、といった顔で手を挙げた。「先生、町内の幽霊屋敷に使い古されたテレビや冷蔵庫が捨てられています。家電リサイクル法が始まってからなお更、粗大ゴミの不法投棄が増えています。刑法何条とか、不法投棄をすると罰金いくらとか、看板が書いてあってもいっこうに減らないです…」と、尻切れトンボの発言をした。どうやら、龍の言いたい事は、不法投棄された廃家電も修理して救援物資として送ったらどうだと、いう提案のようだ。君子の父親は、地元の警察署の警官なので、街の犯罪には君子も敏感である。茜と同じように、君子も龍を応援しているようだ。龍が何かに反発するように、「…安くて壊れやすいものを大量に作って、大量に販売する時代は終わったんだ。メーカは地球を壊さない丈夫な電化製品を作り、消費者は高くても愛着の湧くいい物を買うほうがいいんだ。だから、旧いものも修理して最後の最後までぼろぼろになるまで使うんだよー。簡単に壊れて、安易にリサイクルすれば言いと考えるのも間違っているんだ…」と、言った。

 教室では、普段、算数の問題を黙々と解いている龍だが、高倉健のようにはにかみながらも、言うことはなかなかに、理窟っぽく、ピンと筋が通っている。それが近頃の龍の魅力になっている。スミレがまた龍の方に顔を向けながら、うっとりとまどろんだ瞳を光らせながら言った、「先生、龍君はどんな故障でもすぐ修理してしまうんです。ラジオでも、パソコンでもたちどころに部品を集めて図面を見ながら組み立ててしまいます。龍君はエジソンみたいです…」。スミレのほめ方はやや大袈裟だ、どうやら茜の片思いのようだ。今の父は、テレビや乾電池や電子レンジを売っている電気屋の店主だが、昔は、外国のプラント建設に何ヶ月も出張する、大手ゼネコンの設計エンジニアであった。今の龍は、父を超えてしまうほどの電気知識を見よう見真似で覚えてしまった。

 そろそろひまわり先生の出番である。「龍君凄いわ、先生もその通りだと思う。資源リサイクルの時代が来ているのにね、壊れたら捨てる…、新しい商品がコマーシャルされたら、つい買ってしまう。大量生産、大量消費の時代ではないわね…。古い物を捨てて新しいものを買い換えるライフスタイルが、生活感覚に染みつ付いてるのねー!それにしても龍君の提案は、多分、今のリサイクル法の中では、ちょっと無理があるか知れない。廃家電と中古家電の区別があって、難しい問題がありそうだわ?洗濯機や冷蔵庫などの家電は、お金を払って古い家電を処分してもらってのがリサイクル法。だから、…先生もちょっと調べてみる…」、とやや困惑したような説明をした。

 翌日の朝刊には、関西の大型家電量販店が、客から回収した家電リサイクル製品を、闇ルートを経由して大量に中国に輸出されたと大々的に報道された。そしてローカル版には、小さく、多摩川小学校と商店街が、地域ぐるみの救済支援物資を東北へ送ったことが掲載されていた。
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