ある日の地下鉄名城線車内。
私はいつものように、座ったまま目を閉じて瞑想にふけっていた。
すると、カタンと何かの落ちる音が。
目を開けると、目の前の席にはうつらうつらしているオジサンが。
そして、その足元の通路には眼鏡が落ちていた。しかし、そのオジサンは気づいていない。
あんなところに落ちていると、誰かが踏んでしまうだろうなぁ と思っているうちに電車は次の駅に着いた。
ドアーが開くと何人かが乗り込んできた。
一人は、反対方向に歩いて行ったのでメガネは無事だった。
しかし、時間の問題だろう。
次の乗客はメガネのほうに歩いて来た。間違いなく踏みつぶしてしまうだろう。
そうするとどうなる? グシャッという音とともにオジサンは目覚めて驚くだろうか? そして、文句を言うのだろうか?
そう思った瞬間、私は思わずメガネを指さしながら「メガネが落ちていますよ」と声を出していた。
しかし、オジサンは気付かずにうつらうつらしている。もう一度、「メガネが落ちていますよ!」と声量を増やして呼びかけた。
その時、メガネのほうに歩いてきた乗客は私の声には気付かなかったようだが、メガネの数歩手前で止まると吊り革に掴まった。
メガネは無事だった。
ちょうどその時、やっとオジサンは寝ぼけ顔で落としたメガネに気付いて拾い上げると、何事もなかったかのようにふたたび居眠り始めた。
私の声で目覚めたはずなのに、無視された。
その間、車内では、オジサンの隣に座っている乗客も、私の隣に座っている乗客も、何事もなかったかのように微動だにせず静かなまま。
私だけが一人慌てふためいていただけだった。
(-。-)y-゜゜゜