見出し画像

大・一万吉

震災の実情──「ももいろインフラーZ」と「新プロジェクトX」を参照して──

 南海トラフ地震、首都直下地震、北海道・三陸沖地震など、全国的に地震発生のリスクが高まっている現在、我々の生活を支えるインフラについて注目すべき時期であると言えよう。阪神・淡路大震災や東日本大震災など、これまでの震災の経験を振り返ってみると、一体日本はどのようにしてインフラを復旧させてきたのか。そうした内容を取り扱っているのが、2025年2月2日に TOKYO MX で放送された番組『ももいろインフラ―Z 第12回テーマ:災害からの復旧・復興…よりよいまちづくり・くにづくりのために…』(※1)だ。今回は当番組で取り扱った「くしの歯作戦」について、『新プロジェクトX~挑戦者たち~ 孤立集落へ 命の道をつなげ ~東日本大震災 6日間の闘い~』(2024年10月12日、NHK)(※2)からの情報を付け加えて述べたい。

 

〈「くしの歯作戦」とは〉

 2011年に発生した東日本大震災において、津波による被害が甚大であったのは誰もが知るところである。津波はあらゆる家屋を押し流し、辺り一面を瓦礫の山にしてみせた。こうした状況では、救命や救援を十分に行うことができない。まずは道の確保が必要だ。そこで実施された作戦が「くしの歯作戦」である。「くしの歯作戦」とは、「内陸部を南北に貫く東北自動車道と国道4号から、『くしの歯』のように沿岸部に伸びる何本もの国道を、救命・救援ルート確保に向けて切り開く作戦のこと」(※3)である。

 先ほど紹介した番組『ももいろインフラ―Z 第12回テーマ:災害からの復旧・復興…よりよいまちづくり・くにづくりのために…』では、この作戦が僅か7日間にて達成されたと紹介し、その背景には民間の建設企業の協力が大きく影響していたことを明かした。実は、この民間の建設企業の取り組みについては、当番組より先に放送されていた『新プロジェクトX~挑戦者たち~ 孤立集落へ 命の道をつなげ ~東日本大震災 6日間の闘い~』で取り扱われている。そこでは、東日本大震災の壮絶な実情が物語られていた。

 

〈建設業者の葛藤〉

 先ほど、私は「津波はあらゆる家屋を押し流し、辺り一面を瓦礫の山にしてみせた」と述べた。しかし、この「瓦礫の山」に含まれるのは「物」だけではない。そこには「人」の存在も含まれるのだ。それは「生きている者」かもしれないし、「生きていた者」かもしれない。そうした瓦礫の山を除去して「道」は開かれるのだ。当然、こうした瓦礫の除去は到底人の手のみでは行えない。それには途方もない時間を要し、救命・救援のためには、そうした悠長な時間はなかった。したがって、重機を用いた作業が行われることとなる。

 だが、その重機によって人を押しつぶしてしまうおそれがあった。何より、その存在が「生きている者」であれば、人を殺してしまうことになりかねない。そのため、作業は慎重に行われた。生存者がいないか呼びかける行動を絶え間なく行い、人の存在がないことを確認してから重機を使用して瓦礫を除去した。その作業は当然、大変な労力と時間を要した。

 しかし、そんな状況に置かれた建設業者らにも、僅かな希望があった。それは、各所に見えるはためく布類の存在である。これの意味するものは何か。それは遺体の存在だった。この布類は、それが掲げられている直下に遺体があることを示す旗だったのだ。道を切り開く作業を行う建設業者らにとっては、これは大きな助けとなった。そこに遺体があることが早期に察知できれば、そこを迂回するルートを考案できる。

 こうした旗を立てたのは、被災者の人々であった。彼らはその者が無事に家族の元へ帰れるように、彼がそこにいるという目印を立てたのだ。その旗を立てた時、その対象者が生きていたのか亡くなっていたのかはわからない。その旗を立てた者がどのような想いで立てたのかはわからないが、しかし、そのせめてもの行いが、確かに他者への助けとなって繋がったのだ。このように、道を切り開くという「啓開」作業においては、影で一般人の助力もあったということを認識すべきだろう。

 

〈ひとりひとりの力〉

 この事実は震災の衝撃的な実情を示すと共に、復旧に向けてはひとりひとりの尽力が求められるという事実を指し示している。「くしの歯作戦」からわかるように、行政機関だけでは復旧は実現しない。民間企業との連携をもって、復旧は実現されるのである。さらに、それら民間企業の支えとなるのは、一般人の協力であった。ひとりひとりの小さな尽力が、大きな連携となって多くの人々を助ける力となる。震災を生き抜くには、この行いが強く求められる。そして、いざという時にそうした力を発揮するには、日頃の準備が必要だ。備蓄や知識などが、我々自身はもちろん、他の多くの人々を救うこととなる。

 

〈脚注〉

※1 2025年2月9日現在、当番組は TVer 及び YouTube で配信されている。TVer は https://tver.jp/episodes/epkjyibacy,(参照:2025-02-09)を、YouTube は https://youtu.be/hqCc3j2ExQk?si=ayLqm2zdi53X3SkS,(参照:2025-02-09) を参照されたし。

※2  当番組は放送直後に NHK+にて視聴したが、現在は視聴できない。現在は NHKオンデマンド(https://www.nhk-ondemand.jp/goods/G2024141237SA000/)にて有料で視聴できる模様。

※3 国土交通省 東北地方整備局. 「くしの歯作戦 - 啓開 - 」. 東北地方整備局 震災伝承館. https://infra-archive311.thr.mlit.go.jp/s-kushinoha.html,(参照:2025-02-09)より引用。

名前:
コメント:

※文字化け等の原因になりますので顔文字の投稿はお控えください。

コメント利用規約に同意の上コメント投稿を行ってください。

 

  • Xでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

最新の画像もっと見る

最近の「社会」カテゴリーもっと見る

最近の記事
バックナンバー
2025年