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誰も知らない、ものがたり。

短編小説「The Phantom City」 21

※この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。


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 コロニーへと向かう途中、閑散とした街並ですれ違う人は殆どいない。

 それほど人口が減ってしまったという事と同時に、残った人類は皆こぞってコロニーという安全と自由が保障された楽園へ自ら望んで移り住んでいる事を物語っていた。

 バイクを走らせながらカヲリは、そのコロニーが"意図的に”減らされた人類の完全なる管理を目的につくられた場所であるという、ケン達が述べていた憶測について、改めて考えてみた。

 いわゆる陰謀論として都市伝説的に語られる、それらの類いの話を聞いてカヲリがまず疑問に思うのは、何故そんなことをするのか?というその「目的」についてだ。

 「鳥かご」と揶揄されるコロニーに、何故人を閉じ込めておかなければならないのか?

 そのような事が頭の中を巡りだした時、ふとカヲリがまだ中学生の時に、女友だちとの間で交わされた何気ない会話を思い出した。

『——人類が急激に増えすぎて、地球が限界を迎えているらしいよ』

 なぜその話になったかは覚えていなかったが、中学生なりに社会の大人たちが抱えている漠然とした未来への不安感を感じ取っての会話だったのかと思う。

 当時、ニュースでも仕切りに騒がれたいた地球温暖化をはじめとする様々な環境問題。それらは、何よりも若者であった自分たちの未来に暗い影を落としている事を否応なく突きつけられているように思えたものだ。

 冗談半分、本気半分で話していたその事を、当時自分なりに気になってネットで検索してみると、意外にもそのような主張が数多く見られた。

 驚くことに、19世紀からそのような事が一部で取り沙汰され、本気で人口の抑制を論じている偉い学者などがいることを知ったのだった。

 旧世界と比べて人口が10分の1、あるいはもっと少なくなっている今では、もう環境問題についての懸念や話題を聞くことは、ほぼ無くなった。それよりも生きることに精一杯だった人類にそのような課題意識を持つ余裕がなくなっただけなのか?少なくとも、人口が激減したこの新世界では、人は労働からも解放され、生きるために必要な衣食住はおろか、好きな趣味に興じるためのものも全て無償で与えられながら、資源の不足や環境問題への不安とは無縁のような暮らしを営むことができている。

 しかし、そのために払われた犠牲は余りにも大きい。

 皆、生きていたいかどうかという意志に関係なく命を強制的に奪われる形となった多くの人々。残った人々もその殆どが、大切な家族や友人を失っていた。

 今コロニーで生きる人たちの中には勿論新しい絆が生まれて幸せを手に入れた人も多いだろう。けれども、その前に私たちは圧倒的に多くの大切な絆を失ってしまった。

 新世界で謳歌されている自由は、家族を失ってまで欲しい自由ではなかった。少なくともカヲリにとっては。

 コロニーに移り住んだ多くの人は、どう思っているのだろう。

 気がつけば、もうコロニーが視界に入る距離まで近づいていた。コロニーの巨大なドームの異様がどんどん大きくなってくる。

 あそこでケンが待っている。一ヶ月ぶりの再会が、この世界の真実に近づく一歩となるのだろうか。

 防護服のフルフェイスのヘルメット越しに見るコロニーの上には、秋の心地よさそうな青空が広がっていた。

 自分たちが、フィルターやドーム越しに直接空を観ることができた最後の日は、いつのことだったろう。

 カヲリはそこに浮かぶ雲を見て思った。

 自分の心が趣く方へ。風が吹くならその流れのままに進んでみよう、と。

 

・・・つづく


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主題歌 『The Phantom City』
作詞・作曲 : shishy  

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