※この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。
人が自分たちの知的労働生産の効率化の為に生み出したAIが、いつしか全体最適の目的に沿って人間社会を淘汰しはじめる。
まさか、そんなことが本当にあり得るのだろうか。
しかし、ユリや博士はその可能性に恐れ、苦悩していた。
「それが、ユリさんの仰る、AIの怖さなんですね・・・」
ケンが神妙な面持ちでユリに語りかける。
「・・・ええ。もし、それが事実だったとしたら、私たち人間の営みは、このまま行けば限り無く終焉に近づいていくのは明らかね」
ユリは努めて淡々と言葉を絞り出す。
「そんな、無茶苦茶です・・・」
到底受け入れる事が出来ない話に、カヲリは激しい憤りを感じていた。
「だとしたら、人口削減と管理を目論む人たちだって、ただでは済まないでしょう?一体何をしたいというの!?」
「そうだな。わしらが想定している最悪のシナリオというのは・・・」
ここで博士が割って入り、話をまとめてくれた。
行き過ぎた人口爆発を憂いた学者の論説に乗るように、世界を牛耳る裏の支配層の人間がその削減と管理を目論み、長期計画でロードマップを描いた。
そのロードマップを作成するにあたり、奴らは経済、金融、国際関係、国際紛争、気象、バイオテクノロジー、軍事産業、太陽や宇宙に関する事など、ありとあらゆる森羅万象のデータを元に、早い段階からスーパーコンピューター、さらには量子コンピューターによる緻密なシミュレーションによって起こりうる様々なリスクを洗い出し、逆にそれを利用していったに違いないと。
そのシミュレーションを元に人口削減と管理のための実施計画をAIの力を借りて策定した。起こるべくして起こる宇宙災害の発生時期に向けて、その前に全世界に流通させる食品添加物や環境ホルモン、人工的な手を加えたウィルスなどを人知れず拡散させていき、人口削減の土台を着々と整えて行っていたのだという。
そして、激減した人口をいよいよ、コロニーという名の鳥かごへとあらかた収容し終えたのが、今、現在の出来事ということだ。
しかし、博士が言うには、今の人類の出生率の低下が全く歯止めが掛かっておらず、人口再生産率からみて人類の終焉へのカウントダウンが始まっているという。
「これは明らかに行きすぎたコントロールじゃな。流石に、奴らもそこまでの事は望まんだろうて」
ユリもうなずき、付け加える。
「そう。あらゆる管理機能を仮想的にも、物理的にも備えたAIは、人間はこの星にはもう必要ないと、考えてしまったのかもしれない」
「・・・そんな」
カヲリ手で顔を覆う。
「でもね、まだ、私たちには、希望がある・・・」
ユリは言葉に少し力を込めていった。
「・・・それが、愛のAIですか?」
ケンは再び表で雪かきをしているマルコの姿を観た。
「そう。カヲリちゃんのお父さんと一緒に、私たちの手でその芽を生み出した、愛のAI」
そう言ってカヲリを観るユリの表情に少し柔らかさが戻った。
「お父さんと・・・」
カヲリの脳裏に幼き日の自分の頭を撫でる父親の姿が浮かぶ。
「ええ。愛のAIは、これまでのAIとは根本的な思考回路から異なる。それは、私たち人間でさえも、その文明化の流れの中で失いつつあったものであり、様々な”主義”や”イデオロギー”を越える、それまでのAIとはまったく異質なもの」
「それは一体、どのようなものなんですか?」
ケンの質問に、カヲリも頷きながらユリをみつめる。
ユリは頷き、ひと言つぶやいた。
「それは、”感謝”する情緒を持つAI・・・」
・・・つづく
主題歌 『Quiet World』
作詞・作曲 : shishy