プロの音楽家に必要なものとは何か。
2011 年度からポップスコンテンポラリー学科の講師として就任した宮崎隆睦先生と、管弦打楽器学科専任講師の中村均一先生。同じサクソフォーンという楽器の奏者ながら、それぞれ異なるフィールドを中心に活躍しているお二人に語っていただいた。
(聞き手:ポップスコンテンポラリー学科科長 坂本浩志)
-まずはじめに、お二人がプロになられた経緯を簡単に教えていただけますか?
宮崎「実は僕、クラシックの分野でプロの奏者になるにはどういうプロセスを経ればよいのかよく知らないんですよ。」
中村「いまクラシックの分野でプロとして活躍している人は、ほぼ100%が音楽大学や専門学校出身ですね。在学中にコンクールで賞をとったり、オーディションに合格するなどして、演奏活動に繋げていきます。でも、ジャズやポップスのプレイヤーの人は必ずしもそうではないんですよね?確か宮崎先生は、いきなり高校生の時に…。」
宮崎「ええ、確か高校1 年生のときでした。聴きに行ったライブでたまたまステージに上げられて『何か吹け』って突然言われて(笑)。とりあえず当時耳コピしていた曲を演奏したら意外に評判になっちゃって。それがきっかけで毎月、そのお店で出演させてもらうようになりました。でも、そのときは全くジャズという音楽を知らなかったので、ひた
すら曲を覚えていきましたね。」
中村「ということは、日本で音楽を専門に勉強された経験は…。」
宮崎「ないんです。日本では普通の大学を出ていますし。音楽を勉強し始めたのはアメリカに行ってからで、演奏の基礎トレーニングもそこから本格的にスタートしました。」
-クラシックとジャズ、それぞれのジャンルの共通点や相違点、また、管弦打楽器学科、ポップスコンテンポラリー学科で学生を指導するにあたって、大切にしたいポイントをお聞かせください。
中村「僕の担当している管弦打楽器学科の場合、基本の軸はやっぱりクラシック。クラシックは基礎という土台の上に、楽譜を隅々まで深く読みこむことで作曲家の意図を理解し、それを自分の解釈をふまえながら表現するんですね。その手段として、自らの演奏力を磨き上げていくというスタンス。逆に、ジャズの場合はアドリブが必須でしょう?僕もそういうスキルを身につけたいなと思い、一度宮崎先生の特別講座に出たことがあるんですよ。」
宮崎「あ!! そんなことありましたね!」
中村「そのとき、先生は一人ひとりにご自分の体を触らせて呼吸法を指導されていましたよね。僕はそのまっすぐさに感動しちゃって。こういう先生がいるって、とても素晴らしいことだと思いました。クラシックを中心に演奏する僕らにとってジャズは遠いイメージだったのに、先生のおかげですごく近くに感じられるようになったんですよ。」
宮崎「それはうれしい!僕が伝えたいのは『今日はうまく演奏出来たからそれでいい』というものじゃないんです。たとえ練習で千回うまく吹けていても、たった一回の本番で失敗することだってある。そういうプレッシャーの下で本番に臨まなければならないときに自分の気持ちをコントロールする方法とか、僕自身の経験を通して学生たちに伝えたいですね。特に、ポップスコンテンポラリー学科はプレイヤーとしての音楽職人を育てることがコンセプト。大事なことをまっすぐ、わかりやすく見せていければと思います。また、プレイヤーにとって、一つひとつの現場がチャンスをつかむ場所。あらゆる状況に対応できるように、やはり基礎をしっかりと身につけてもらいたいですね。実は僕、楽器を最初に習ったのはクラシックの先生だったんです。そこで、読譜力をはじめとして演奏に必要な基礎力が身についたと思っています。」
中村「そうですね。どんなジャンルを演奏をするのであっても、基礎がなければ始まらないですよね。それはクラシックも一緒です。」
宮崎「その点でいえば、充実した基礎トレーニングと並行して様々なジャンルの音楽を学べるSHOBI のカリキュラムは魅力ですよね。大切なのは、自分自身が楽しみながら学ぶことにあると思うんです。学生のみなさんにはさまざまな音楽とふれあって、演奏に必要なスキルをしっかり身につけていってほしいですね。何よりも、生の授業は自分に足りないものがどんどん見えてきます。僕自身も学生のみなさんに会えるのが今から楽しみです!」
-これから音楽の道を志す人たちに、これだけは大切にしてほしいということってありますか?
中村「今の時代ってほんとに何でもありますよね。なのに、CD も買わない、コンサートにも行かないという人が増えています。情報やモノが簡単に手に入るぶん、逆に手放してあきらめてしまうのも早い気がするんですよ。すごくもったいないことなのに。『音楽家になる』という気持ちすらあっさり捨ててしまいそうで。」
宮崎「そうですよね!少しでもプロになりたいのなら『僕なんて』ってあきらめた時点でダメ。僕は上京してきたときもアルバイトを続けながら音楽をやっていました。確かに、音楽で食っていけるのか不安がなかったわけじゃないですけど…。」
中村「音楽っていうのは仕事じゃなくて、生き方ですもんね。」
宮崎「そう、音楽って思っている以上にさまざまなかかわり方ができるんです。だから、プロのプレイヤーになれないからといって、自分の音楽まで閉ざさないでほしいですよね。」
中村「やっぱり、自分の才能を信じるのは自分自身しかいないんだ、っていう気持ちを持ってもらいたい。才能は人に決めてもらうものじゃないから。」
宮崎「あと、一番持っておいてほしいのは感受性かな。いろいろな物事に対して受けた自分の感覚を大切にしてほしい。レッスンでも何が分からないのか、感じたことをきちんと尋ねてほしいですね。そして、ミュージシャンは日常生活のすべてが音楽に現れます。それを意識して普段から生活することを心がけてもらえるとうれしいですね。」
-ありがとうございました。
中村 均一(なかむら きんいち・左)
鳥取県生まれ。東京藝術大学を卒業。1982 年にアルモ・サクソフォーン・クァルテットを結成。第21 回民音コンクール室内楽に於いてサクソフォーンとして初めて第一位受賞。以来全国的に演奏活動を行う。日本各地のオーケストラのサクソフォーン奏者としても活躍。尚美ミュージックカレッジ専門学校専任講師。日本大学芸術学部非常勤講師。ビュッフェ・クランポン社専属アーティスト。
宮崎 隆睦(みやざき たかひろ・右)
13 歳のときにサクソフォーンを始め、16 歳で地元のジャズクラブ等で音楽活動を開始。甲南大学卒業後、1992 年9月に渡米しバークリー音楽院に入学。3 年間の在学中にナタリー・コール、ナット・アダレイと共演。帰国後、織田裕二や古内東子のツアーに参加。 1998 年T-SQUARE に加入。2000 年の脱退後はソロ活動のほか、T-SQUARE 加入前に結成したバンド「Back Bay Gang」での活動も行う。2008 年からはバークリー音楽院にゆかりのあるメンバーで結成した「木原健太郎with ベリーメリーオーケストラ(現ベリーメリーオーケストラ)」名義でCD もリリース。現在は演奏家としての活動のほか、講師としても活躍、後進の育成に取り組んでいる。
2011 年度からポップスコンテンポラリー学科の講師として就任した宮崎隆睦先生と、管弦打楽器学科専任講師の中村均一先生。同じサクソフォーンという楽器の奏者ながら、それぞれ異なるフィールドを中心に活躍しているお二人に語っていただいた。
(聞き手:ポップスコンテンポラリー学科科長 坂本浩志)
-まずはじめに、お二人がプロになられた経緯を簡単に教えていただけますか?
宮崎「実は僕、クラシックの分野でプロの奏者になるにはどういうプロセスを経ればよいのかよく知らないんですよ。」
中村「いまクラシックの分野でプロとして活躍している人は、ほぼ100%が音楽大学や専門学校出身ですね。在学中にコンクールで賞をとったり、オーディションに合格するなどして、演奏活動に繋げていきます。でも、ジャズやポップスのプレイヤーの人は必ずしもそうではないんですよね?確か宮崎先生は、いきなり高校生の時に…。」
宮崎「ええ、確か高校1 年生のときでした。聴きに行ったライブでたまたまステージに上げられて『何か吹け』って突然言われて(笑)。とりあえず当時耳コピしていた曲を演奏したら意外に評判になっちゃって。それがきっかけで毎月、そのお店で出演させてもらうようになりました。でも、そのときは全くジャズという音楽を知らなかったので、ひた
すら曲を覚えていきましたね。」
中村「ということは、日本で音楽を専門に勉強された経験は…。」
宮崎「ないんです。日本では普通の大学を出ていますし。音楽を勉強し始めたのはアメリカに行ってからで、演奏の基礎トレーニングもそこから本格的にスタートしました。」
-クラシックとジャズ、それぞれのジャンルの共通点や相違点、また、管弦打楽器学科、ポップスコンテンポラリー学科で学生を指導するにあたって、大切にしたいポイントをお聞かせください。
中村「僕の担当している管弦打楽器学科の場合、基本の軸はやっぱりクラシック。クラシックは基礎という土台の上に、楽譜を隅々まで深く読みこむことで作曲家の意図を理解し、それを自分の解釈をふまえながら表現するんですね。その手段として、自らの演奏力を磨き上げていくというスタンス。逆に、ジャズの場合はアドリブが必須でしょう?僕もそういうスキルを身につけたいなと思い、一度宮崎先生の特別講座に出たことがあるんですよ。」
宮崎「あ!! そんなことありましたね!」
中村「そのとき、先生は一人ひとりにご自分の体を触らせて呼吸法を指導されていましたよね。僕はそのまっすぐさに感動しちゃって。こういう先生がいるって、とても素晴らしいことだと思いました。クラシックを中心に演奏する僕らにとってジャズは遠いイメージだったのに、先生のおかげですごく近くに感じられるようになったんですよ。」
宮崎「それはうれしい!僕が伝えたいのは『今日はうまく演奏出来たからそれでいい』というものじゃないんです。たとえ練習で千回うまく吹けていても、たった一回の本番で失敗することだってある。そういうプレッシャーの下で本番に臨まなければならないときに自分の気持ちをコントロールする方法とか、僕自身の経験を通して学生たちに伝えたいですね。特に、ポップスコンテンポラリー学科はプレイヤーとしての音楽職人を育てることがコンセプト。大事なことをまっすぐ、わかりやすく見せていければと思います。また、プレイヤーにとって、一つひとつの現場がチャンスをつかむ場所。あらゆる状況に対応できるように、やはり基礎をしっかりと身につけてもらいたいですね。実は僕、楽器を最初に習ったのはクラシックの先生だったんです。そこで、読譜力をはじめとして演奏に必要な基礎力が身についたと思っています。」
中村「そうですね。どんなジャンルを演奏をするのであっても、基礎がなければ始まらないですよね。それはクラシックも一緒です。」
宮崎「その点でいえば、充実した基礎トレーニングと並行して様々なジャンルの音楽を学べるSHOBI のカリキュラムは魅力ですよね。大切なのは、自分自身が楽しみながら学ぶことにあると思うんです。学生のみなさんにはさまざまな音楽とふれあって、演奏に必要なスキルをしっかり身につけていってほしいですね。何よりも、生の授業は自分に足りないものがどんどん見えてきます。僕自身も学生のみなさんに会えるのが今から楽しみです!」
-これから音楽の道を志す人たちに、これだけは大切にしてほしいということってありますか?
中村「今の時代ってほんとに何でもありますよね。なのに、CD も買わない、コンサートにも行かないという人が増えています。情報やモノが簡単に手に入るぶん、逆に手放してあきらめてしまうのも早い気がするんですよ。すごくもったいないことなのに。『音楽家になる』という気持ちすらあっさり捨ててしまいそうで。」
宮崎「そうですよね!少しでもプロになりたいのなら『僕なんて』ってあきらめた時点でダメ。僕は上京してきたときもアルバイトを続けながら音楽をやっていました。確かに、音楽で食っていけるのか不安がなかったわけじゃないですけど…。」
中村「音楽っていうのは仕事じゃなくて、生き方ですもんね。」
宮崎「そう、音楽って思っている以上にさまざまなかかわり方ができるんです。だから、プロのプレイヤーになれないからといって、自分の音楽まで閉ざさないでほしいですよね。」
中村「やっぱり、自分の才能を信じるのは自分自身しかいないんだ、っていう気持ちを持ってもらいたい。才能は人に決めてもらうものじゃないから。」
宮崎「あと、一番持っておいてほしいのは感受性かな。いろいろな物事に対して受けた自分の感覚を大切にしてほしい。レッスンでも何が分からないのか、感じたことをきちんと尋ねてほしいですね。そして、ミュージシャンは日常生活のすべてが音楽に現れます。それを意識して普段から生活することを心がけてもらえるとうれしいですね。」
-ありがとうございました。
中村 均一(なかむら きんいち・左)
鳥取県生まれ。東京藝術大学を卒業。1982 年にアルモ・サクソフォーン・クァルテットを結成。第21 回民音コンクール室内楽に於いてサクソフォーンとして初めて第一位受賞。以来全国的に演奏活動を行う。日本各地のオーケストラのサクソフォーン奏者としても活躍。尚美ミュージックカレッジ専門学校専任講師。日本大学芸術学部非常勤講師。ビュッフェ・クランポン社専属アーティスト。
宮崎 隆睦(みやざき たかひろ・右)
13 歳のときにサクソフォーンを始め、16 歳で地元のジャズクラブ等で音楽活動を開始。甲南大学卒業後、1992 年9月に渡米しバークリー音楽院に入学。3 年間の在学中にナタリー・コール、ナット・アダレイと共演。帰国後、織田裕二や古内東子のツアーに参加。 1998 年T-SQUARE に加入。2000 年の脱退後はソロ活動のほか、T-SQUARE 加入前に結成したバンド「Back Bay Gang」での活動も行う。2008 年からはバークリー音楽院にゆかりのあるメンバーで結成した「木原健太郎with ベリーメリーオーケストラ(現ベリーメリーオーケストラ)」名義でCD もリリース。現在は演奏家としての活動のほか、講師としても活躍、後進の育成に取り組んでいる。