…編者の飼い猫には、ごちそうさまをいう雌猫がいる。ただし、とくべつに旨いものを食べたときにかぎってだ。いつだったか、鯛の刺身を食べたあと、いきなりニャーニャー鳴き出した。一瞬、腹でも痛いのかと、こちらは血の気が引いたが、そうではない。もっとほしいというのでもない。つまり、おいしかった、ごちそうさま。ふつう、猫は食べる前に「旨そうだ」と喉を鳴らしたり、食べながら「うーん、旨い」とうなったりする。ところがこの猫は旨いものを食べ終えるとかならず「おいしかった、おいしかった」を連発する。これが可愛くて可愛くてたまらない。
そらそら、始まった。この調子であるから自戒の意も込めて--というのは、いささかこじつけか?--本書はいわゆる「猫=可愛い」のたぐいのものはほとんど割愛した。
(柳瀬尚紀『猫百話』「編者あとがき 思いがけないところにいる猫」より)
そらそら、始まった。この調子であるから自戒の意も込めて--というのは、いささかこじつけか?--本書はいわゆる「猫=可愛い」のたぐいのものはほとんど割愛した。
(柳瀬尚紀『猫百話』「編者あとがき 思いがけないところにいる猫」より)
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