正直、癌センターに行くのは嫌だった。胸の奥から感じた警鐘的なものだったのかもしれない。
癌センターにつき、血液検査をし精密検査を行った。母親の背中は何処か辛そうに見えたのは覚えている。
精密検査に入った母親を見届けた。
あの不思議な感覚は、何と説明していいか分からなかったが、僕自身ずっと緊張していたような感覚だった。
傍らの父親は無言だ。
弟は事の事態をそこまで理解してはいなかっただろうが、父親と僕の雰囲気を見て何かを感じ取り、おとなしくしていた。
精密検査が終わり、数十分後母親が呼ばれた。
そして家族で診察室に入ったのだ
何ともないでくれ、僕の人生の中で本気で祈った瞬間はこれ以上なかった。
母親の後ろに並ぶように僕ら三人は立った
先生はハッキリと言ったのだ。
膵癌の可能性があります。
ボーダーラインです。と。
聞いことはあった、膵癌は癌の王様だ。
沈黙の癌であり、気付いたときは既にそうとう進行していることが多々。
しかもボーダーライン。
治療できるか、できないかは分からない状態だ。
頭が真っ白というのは、この事をさすのかと思ったくらい、言葉の衝撃は重く、言葉が見つからなかった。
膵臓の回りには、様々な血管がある。
その中枢には門脈といものがあるのだ。
この門脈に癌が進行していたら最悪。
門脈は生命を維持するための血管であり、いわば血管の心臓ともいえる場所だ。
傷つけることができない。
ふと、過った。
母さん死ぬのか、と。
僕は母親の顔を窺うことができなかった。
ぼーっとしていた。
テレビから流れるコロナなんてちっぽけと思った。
帰りの車は、一言も話すことができなかった。
また書きますー。