『たまごの旅人』近藤史恵(実業之日本社 2021/8/5)
念願かなって、海外旅行の添乗員になった遥。アイスランドを皮切りに、スロベニア、パリ、西安で、
ツアー参加客それぞれの特別な瞬間に寄り添い、時に悩みながらも旅を続ける。
ところが2020年、予想外の事態が訪れる。
『たまごの旅人(アイスランド)』『ドラゴンの見る夢(クロアチア、スロベニア九日間)』
『パリ症候群(パリとイル・ド・フランス七日間の旅)』『北京の椅子(西安、北京六日間の旅)』『沖縄のキツネ』5話連作短編集。
・夢や目標って、いったいなんなのだろう P8
・はっきりものを言う人は、不快な気持ちを隠すこともしないのだ P24
・アイスランド人は『悪い天気なんてない』って言うんだ。
いつだっていい天気だ。
『悪いのはおまえの服装だ』ってね P27
・自分が当たり前だと思っていたことが、よその国では当たり前でないことを知らされる。
旅にはそんな瞬間が何度もある P33
・不安でいっぱいのとき、
「大丈夫」と言ってもらうと、
こんなにうれしいのだ P51
・旅行添乗員をはじめたとき、自分がたまごみたいだって思った(略)
旅行者って、そこに住んでいる人たちと、なにかが隔てられているでしょう。
近くにいるけど、違う世界にいるみたい(略)
まるでたまごの中から世界を見てるみたいだって。
しかも失敗ばかりして、ヒビが入って、傷だらけで(略)
でもさ、転がってヒビだらけになりながら、世界を見るのはわるくなかったよ P54
・誰かに喜んでもらうって、素敵なことだ P56
・夢なんて、そんなものかもしれない。
叶うときには叶うし、叶わないときには叶わないのだ P56
・主張したからと言って、すべてが思い通りになるわけでもないし、
フランス人は手強い P65
・添乗員にとっては、笑顔も仕事なのだ P82
・目をつぶっているのは、この社会と、社会を動かしている人なんじゃないかって(略)
少子化が大変だと言いつつ、母親だけに育児を担わせることをやめようとしない。
保育士の給料を上げることもしない。
若者が不安定な働き方と安い収入に耐えていることも、知らんふりを続けている P
・人と人にだって相性があるように、人と街にも相性がある。
だからこの街をそんなに好きになれなくたって仕方がない P129
・望んだものが、そのまま手に入ることなんて、たぶん簡単じゃない。
だが、望んでいなくても、素敵なことは転がり込んでくるかもしれないのだ P151
・「日本人は礼儀正しい」なんて言われることもあるけど、
いきなり人を怒鳴りつけるような人は他の国より多いと思う。
怒鳴りつける相手はたいてい、目下だと判断した人だ。
サービス業の従業員、若者、女性、外国人(略)
しかし、サービスは提供していても、使用人と主人という関係ではない P160
・言語は、まるで音楽だ。
そのリズムや響きだけがどこか馴染みがあるのに、意味は少しもわからない。
学習すると、少しずつ、音がことばに変わっていく P161
・人が好きだって言う人でも、
他人に優しくできない人もいるし、
自分を好きになってもらうのが好きな人だっているよね P177
・好きなことを仕事にするということは、好きなことの中に痛みや後悔が降り積もることなのだ。
好きなことを、好きなだけではいられないことなのだ P178
・大切なことに気づくのが遅くて、しくじってしまうことなんて、わたしにもある。
きっと性格やものの見方なんて、簡単には変えられない P197
・前の人に言えなくて、悔やんでいるありがとうを、
他の人に言ってみたらどうでしょう P198
・よその土地を訪れるということは、その土地のことが完全に他人事でなくなるということなのだ。
知っている人の話を聞くように耳を傾け、友達のことのように心配する。
住む人とは違うとしても、訪れる前とは確実になにかが変わる。
わたしは旅をすることで、自分がなにも知らないことを教わっている P227