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SWAN日記 ~杜の小径~

◆陰陽師SS◆黒猫物語 (後編)

☆ ☆ ☆ ☆ ☆

◆陰陽師SS◆黒猫物語 (後編)
〈2016年にヤプログにUPしたSSです〉

〜続き〜

ある日。
吉野の山奥でくろは一人の陰陽師に出会いました。
漆黒の狩衣を纏った陰陽師。
吉野に逃げた妖しを討ちに来た賀茂保憲でした。
周囲の物の怪達が闇夜に紛れて逃げて行くなか、くろは妖しを討つ保憲を見ていました。
人を見るのは久しいけれど、保憲が強い力を持っている事はくろにも判りました。
気付いた保憲は、闇夜に潜む黒猫に話しかけます。
「お前は逃げないのかい?」
くろはただ、保憲を見つめています。
この陰陽師には何かの繋がりを感じるのです。
「漆黒の猫又よ。お前、何やら強い念を持っているね。わたしの元に来るか?」
賀茂保憲も永年生きたくろの妖力を見抜き、話しかけます。
しばらくして「にゃあ」と鳴きながら、くろは暗闇から保憲の前に姿を現しました。
くろは『沙門』と名付けられ、賀茂保憲の式神となりました。
保憲も沙門の生い立ちを感じ取り、判っているようでしたが、それを口にする事はありませんでした。
保憲と契約も結んでいます。
数十年後、保憲がこの世を去る時には自分も消えゆくだろう。
でも。早良親王様に会える。
それは予感している沙門なのでした。

沙門が陰陽師の賀茂保憲の式神となり、数年後。
訪れた安倍晴明の屋敷で源博雅様に出会いました。
何だか懐かしさを感じる貴族。
それは早良親王様に印象が似ているからでした。
お優しくて、人々を和ませる。
笑顔が早良親王様に似ていました。
ゴロゴロと懐く沙門を膝に乗せ、博雅様は頭を撫でて可愛がります。
「ほう。沙門が人に懐くとは珍しいですね」
保憲の言葉に博雅は首を傾げる。
「そうなのですか?こんなに可愛く人懐こいのに…」
「博雅様。沙門は猫又ですよ」
「は?」
「長い尾が二又でございましょう?」
言われて沙門の尾を見れば、確かに二又。
「保憲様。博雅ですから」
晴明の言葉に保憲も笑って頷く。
「ああ。博雅様であるからなぁ」
そう。博雅様は一種の天然気質の持ち主なのです。
保憲や晴明の呪術とは違う癒しの力を持っていました。
笛の名手である博雅様の奏でる音色は闇を浄化する力をも持ち合わせています。
式神・物の怪・妖し・付喪神…異界の者達が心をゆるすのも博雅様の人柄ゆえ。
沙門は保憲と一緒に晴明の屋敷に訪れる度に、晴明の元で酒を交わしている博雅様に甘えるのが楽しみになっていました。
雨の夜などは濡れた毛並みを乾かすため、技とらしく晴明の白い狩衣に擦りつけてみたり。
だって保憲様や博雅様のお召し物が汚れては申し訳ないですから。晴明はどうでも良いのです。博雅様を独り占めしている漢なのですから沙門にとっては小さな嫌がらせみたいなモノ。
晴明と博雅様の二人は相思相愛の恋人同士ですが、わざとらしく博雅様に甘えて、晴明のムッとした顔も見て見ぬ振りをします。
普段は冷静沈着な陰陽師 安倍晴明とはいえ、こんな晴明の顔を見られるのも珍しいので沙門も楽しむことにしていました。
博雅様の事も大好きで、沙門は保憲の式神となって幸せに過ごしておりました。

〜数ヶ月後。
都で、ある問題が起こりました。
ある男により、早良親王様が怨霊となり目覚めたのです。
沙門は知っています。
早良親王様は怨霊になるような人では無い。
人々を想う心優しい人なのです。
沙門は保憲の肩に乗り、闇夜を見上げて鳴きました。
都を救う二つ星の宿命を持っていたのが晴明と博雅様とのことでした。
晴明の屋敷に保憲と青音もやって来ました。
青音は保憲の肩に乗る沙門をじっと見つめて呟きました。
「…くろ…?」
青音を見つめ驚いていた沙門も鳴き声を上げました。
「にゃああ」と青音の胸に飛び移りました。
『青音様だ』
青音の首に掛けられた鈴飾りがシャランと音を立てます。
この首飾りは早良親王様が青音様に贈ったもの。
「くろ。…良かった。生きていたのね。みけも元気でいるの?」
答えるように、沙門は青音の首筋に顔を埋めました。
「…そう…。」
沙門の言葉を受け止めた青音は静かに頷きました。
「沙門を知っているのですか?」
晴明の言葉に青音は頷きながら、
「はい。くろ、と呼ばれていた頃に。名付け親は早良親王様です」
保憲と晴明と博雅は顔を見合わせました。

晴明と博雅と青音。そして保憲と沙門は宮中に向かいました。
京の空は暗黒に支配されていました。
帝の命が危ないのです。
早良親王を怨霊として甦らせたのは道尊という陰陽師の男で、帝の命が狙われていました。
晴明と博雅は帝の元に急ぎます。
後に続こうとする青音に保憲は沙門を預けました。
晴明と博雅、そして青音と沙門が早良親王を鎮める力になるであろう事は皆わかっておりました。
保憲は外で、妖しと化した武士達を鎮める為に動いています。
そんな時。
博雅は道尊に討たれてしまいます。
二つ星の片方が消えれば都を救うことは出来ません。
青音は晴明の力を借り、自分の命と引き換えに博雅の命の炎を戻しました。
晴明と博雅は帝を逃がし、早良親王と道尊の元に向かいました。
甦った早良親王の姿は青音とくろが知る優しい親王様の顔ではありませんでした。
博雅の中に宿った青音は首飾りの鈴を鳴らします。
博雅の身体に青音の姿が重なりました。
「お忘れですか?早良親王様」
シャラン、シャランと鈴の音が響き渡りました。
その音色を聞いた早良親王の顔から険が消えてゆきます。
「……青…音…?」
「…はい」
落ち着きを取り戻した早良親王は、博雅の腕に抱かれた沙門を見つめました。
「…くろ…?」
「にゃああ」
沙門は人懐こく鳴いて、親王様を見上げました。
「くろは早良親王様の言葉を信じ、ずっと待っていたのですよ」
青音様は早良親王様の兄である桓武天皇の言葉を親王様に伝えました。
『全て誤解であった』と。
桓武天皇は心を痛めていました…と。
「おお…っ、青音、くろ…っ」
早良親王は沙門を腕に抱き込み、もう片方の腕で青音を抱きしめました。
沙門の頭を撫でると、懐かしい親王様の手に沙門も頭を擦り付けてゴロゴロと鳴いています。
『親王様…っ、早良親王様だ!』
「ゆきましょう。早良親王様。上でみけも待っております」
青音は光射す空を見上げました。
「…ああ…」
博雅から青音の姿が抜け出ました。
沙門は博雅に抱かれています。
「…くろ。お前は生きている。陰陽師に仕えているのだね。役目を終えたら上がってくるのだよ」
早良親王様の言葉に沙門は「にゃあ」と鳴きました。
ゆっくりと早良親王様と青音様は天に昇ってゆき。
親王様の手には一匹の三毛猫…みけでした。
差し出した親王様の腕に、博雅も腕に抱いた沙門を掲げると二匹は懐かしむように顔を擦り合わせて鳴き合っています。
早良親王様と青音様とみけは天に昇ってゆきました。
都の空は澄み渡り、光が射しています。
晴明との戦いに敗れた道尊も自ら命を絶ち、また都には平和が戻りました。

〜そして、また今日も。
晴明の屋敷を訪れている博雅様を狙って、保憲と沙門が遊びに来ています。
博雅様に甘えて頭を撫でてもらいます。
早良親王様に似た博雅様を沙門は大好きでした。
博雅様がデレデレと沙門を可愛がるのを冷めた目で見る晴明を見るのも楽しい日常です。
時には晴明の屋敷でわざと爪研ぎをしてみたり。
時には博雅様の唇にクンクンと匂いを嗅ぐ振りをしてチュウをしてみたり。
晴明が発する殺気もスルーします。
プチッと切れた晴明が、沙門の前で博雅に接吻すれば、沙門は毛を逆立ててシャーッと怒り狂う始末。
「晴明、沙門をいじめるな」
「こいつ確信犯だろう!」
博雅の言葉に晴明も言います。
普段は冷静沈着な安倍晴明も博雅様が絡むとただの恋する漢でした。
「お前ら何してんだ」
と、呆れ顔で二人と一匹を面白がって見ている保憲の事も沙門は大好きでした。
沙門は「今」を楽しく生きています。
何十年先か、保憲が命を終える時に己も役目を終えて、早良親王様と青音様とみけに逢いにゆく。
大好きな早良親王様との約束だから。

今を楽しむべく、今日も沙門は晴明の前でワザとらしく博雅様にゴロゴロと甘えて見せるのでした。

◆おわり◆

〜お読みいただき有難うございました^_^

☆ ☆ ☆ ☆ ☆

コメント一覧

swan1789
千菊丸さま

こんにちは。白鳥いろは です。
コメント有難うございます。
遥か昔に書いた陰陽師 SS ですが、お気に入りの話でもあるので嬉しいです。
以前活動していたジャンルですが、沙門が好きだったのか良く物語に登場させていました^_^
i093120(千菊丸)
沙門、可愛いですね。
晴明様が、沙門相手に少し戸惑っていらっしゃる姿が想像出来てしまいました。
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