『スイーツ文庫 保健室☆わくわく日記』（世良ふゆみ・著）
◇◆チョット読む◆◇
中学の頃、うまくいきかけていた男の子を親友の留美にとられた。失恋もショックだったし、留美に裏切られたことがショックだった。それからはすっかり恋愛下手になり、高校時代、クラスで一番人気があった剛《つよし》が告白してくれたときはすごく嬉しかったのに、翌日から目も合わせられなくなってしまった。短大時代、美樹にけしかけられ、合コンで知り合った亮《りょう》とつきあいはじめたものの、好きになればなるほど、傷つくのが怖くて心にブレーキをかけてしまう。それでも亮のやさしさに甘え、どうにかうまくやっていたものの、ふたりで旅行に行ったとき、最後の一線を許すことができなかった。深い関係になってから傷つくことが怖くて、拒否してしまったのだ。結局、亮の心は楓から離れていき、別れを迎えることになった。
あれからずっと彼氏もいないまま、去年一年は仕事に夢中のまま過ぎていった。楓の家は代々教員家系だ。両親は四年制大学の教育学部などへの進学を勧めたけれど、楓は養護教諭となって一日も早く現場に出たかった。なぜ養護教諭を目指すことにしたのかというと、中学生時代、親友の裏切りと大失恋から不登校気味になり、保健室登校をしていたことがあった楓は、当時の養護教諭に話を聞いてもらい、それが立ち直りのきっかけになり、その後の人生に大きく影響した。いわゆる「保健室の先生」は、当時楓の中学にいたスクールカウンセラーよりもずっとずっと信頼できたし、なんでも話せた。それ以来、楓は養護教諭になると決め、一日も早く現場に出たい楓は四年制大学ではなく短大を選んだのだ。
「それでは、新任の先生を紹介します」
マイクを通した副校長の声で、我に返った。始業式の朝礼で、楓を含んで四人が紹介されるのだ。四人のうち二人は転任してきたべテラン教師で、先に紹介され、挨拶《あいさつ》を済ませた。名前を呼ばれたら一歩前に出て短く一言挨拶するようにと言われているのだが、さすがにベテランは慣れたものだ。
「緊張しますね」
楓の横に立っていた今泉が囁《ささや》いた。楓と同じく新任の体育教師で、身長が一九〇センチもありやたらと大きい。
「では次は今泉吾郎先生。主に男子生徒の体育を担当します。今年大学を卒業したばかりのフレッシュな先生です」
今泉が先に紹介された。
「みんな、おはようございます！ どうした？ 声が小さいぞー」
いきなり熱血ぶりを示して、今泉は生徒たちから笑われている。
「最後に、養護教諭の松嶋先生です」
副校長に言われ、楓は今泉からマイクを受け取って一歩前に出てマイクの前に立った。
「みなさん、はじめまして……」
と、みんなを見回したとき、楓は真ん中あたりにいる男子生徒と目が合った。そして、心臓が大きくはねた。ジャニーズの男の子みたいなさらさらの長髪。褐色の肌に鳶《とび》色の瞳。日本人離れした彫りの深い、整った顔立ち。
あの子はいつかの……。楓は目を離せなくなったけれど、男子生徒のほうは楓に関心などないといった様子で、すぐに目を逸《そ》らした。
「ま、松嶋楓です。みなさんの健康管理を担当させていただきます。どうぞよろしくお願いします」
ドキドキしながら挨拶を終え、元の場所に戻る。
野々村陸《りく》。あの子がＴ大付属にいるとは……。いつかどこかで会えたらいいと心のどこかで願っていたけれど、まさかここにいるなんて。
※続きは「電子書店パピレス」の『ポケットマガジンＰＯＰ』でお楽しみください。毎週更新されます。
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◇◆スイーツ文庫公式サイトのご案内◆◇
http://www.e-sens.jp/sweets/
作品紹介、著者紹介などのページもあります。
作品応募、お問い合わせなどもサイトで受け付けています。
ぜひご覧くださいませ。
編集さぎょう担当
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中学の頃、うまくいきかけていた男の子を親友の留美にとられた。失恋もショックだったし、留美に裏切られたことがショックだった。それからはすっかり恋愛下手になり、高校時代、クラスで一番人気があった剛《つよし》が告白してくれたときはすごく嬉しかったのに、翌日から目も合わせられなくなってしまった。短大時代、美樹にけしかけられ、合コンで知り合った亮《りょう》とつきあいはじめたものの、好きになればなるほど、傷つくのが怖くて心にブレーキをかけてしまう。それでも亮のやさしさに甘え、どうにかうまくやっていたものの、ふたりで旅行に行ったとき、最後の一線を許すことができなかった。深い関係になってから傷つくことが怖くて、拒否してしまったのだ。結局、亮の心は楓から離れていき、別れを迎えることになった。
あれからずっと彼氏もいないまま、去年一年は仕事に夢中のまま過ぎていった。楓の家は代々教員家系だ。両親は四年制大学の教育学部などへの進学を勧めたけれど、楓は養護教諭となって一日も早く現場に出たかった。なぜ養護教諭を目指すことにしたのかというと、中学生時代、親友の裏切りと大失恋から不登校気味になり、保健室登校をしていたことがあった楓は、当時の養護教諭に話を聞いてもらい、それが立ち直りのきっかけになり、その後の人生に大きく影響した。いわゆる「保健室の先生」は、当時楓の中学にいたスクールカウンセラーよりもずっとずっと信頼できたし、なんでも話せた。それ以来、楓は養護教諭になると決め、一日も早く現場に出たい楓は四年制大学ではなく短大を選んだのだ。
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「緊張しますね」
楓の横に立っていた今泉が囁《ささや》いた。楓と同じく新任の体育教師で、身長が一九〇センチもありやたらと大きい。
「では次は今泉吾郎先生。主に男子生徒の体育を担当します。今年大学を卒業したばかりのフレッシュな先生です」
今泉が先に紹介された。
「みんな、おはようございます！ どうした？ 声が小さいぞー」
いきなり熱血ぶりを示して、今泉は生徒たちから笑われている。
「最後に、養護教諭の松嶋先生です」
副校長に言われ、楓は今泉からマイクを受け取って一歩前に出てマイクの前に立った。
「みなさん、はじめまして……」
と、みんなを見回したとき、楓は真ん中あたりにいる男子生徒と目が合った。そして、心臓が大きくはねた。ジャニーズの男の子みたいなさらさらの長髪。褐色の肌に鳶《とび》色の瞳。日本人離れした彫りの深い、整った顔立ち。
あの子はいつかの……。楓は目を離せなくなったけれど、男子生徒のほうは楓に関心などないといった様子で、すぐに目を逸《そ》らした。
「ま、松嶋楓です。みなさんの健康管理を担当させていただきます。どうぞよろしくお願いします」
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編集さぎょう担当
