あとがき
殺人をテーマに小説を書こうとした時、
私は加害者の心理を想像することに苦労した。
人はどのようにして殺意を持つのか、
経験のない私には難しいことだった。
読者の方々にとって、この事件の真犯人は、意外な人物だったことだろう。
しかし私が書きたかったのは、犯人の予想がつかないことの面白さではない。
例え一瞬でも、殺したいほど誰かを憎んだことのある人は少なくないだろう。
人は思いもよらぬことで、殺意を抱くこともある。
しかし、それを行動に移さなければ、罪ではない。
そして、こんなにも悲しい結末も招くことはないのだ。
伊澤弘樹が相馬を殺し、島田が愛子を殺した時点で、
この物語にハッピーエンドはあり得ない。
人が殺されることで生まれるのは、悲しみと新しい憎しみしかないのである。
もし今、あなたが誰かを憎んでいるとしたら、どうかぐっと堪えてほしい。
こんなことが現実に起きないことを、私は心から願う。
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百代の過客―日記にみる日本人 (下) (朝日選書 (260)) | |
ドナルド・キーン | |
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