歓声が聞こえる。観客の期待が、膨らんでいる。突けば、破れそうだ。
ショーが、はじまる瞬間。震えるような、恐怖と快感。この気分に、飲み込まれないように、持っていかれないようにするのが難しい。
興奮のジャンキーになってしまわないことだ。
そうでなければ、
ショーというのは、非日常であることを忘れてしまう。
日常に、ショーの気分を持ち込めば、破滅する。
それを理解しなければ、
この世界では、成功はしても、継続することはできない。
曲がりなりにも、続けることができた、俺の実感だ。
毀誉褒貶が激しいこの世界で、
壊れることがなかったのは、運が良かったのもあるが、あまり溺れることのない性格のせいかもしれない。
(この性格は、冷たいと評されることも多々ある。いい面もあれば、悪い面もあるということだ。)
メンバーたちが、所定の位置につく。もちろん俺も。眉間に、力を集める。
俺は、イヤモニをつけて俯く。全ての集中を込めて、足でリズムを刻む。
幕が落ちる。観客の感情が弾ける。カクテル光線が交差する。
俺のギターが、しょっぱなに炸裂する。続いて、重いドラムのビート。ベースが重低音で、絡みついてくる。
ボーカルの歌声。観客を一発で、惹きつけた。
よし。
俺は思う。
今日の彼は、最初から、楽しめている。
ボーカルは、繊細ゆえに、気にしすぎることがある。
そこを、うまく寄り添ったり、盛り上げたりするのも、ギターの音色だったりするのだ。
ギターは、面白い。
エレキギターは、それこそ、俺の分身であり、相棒だ。
エフェクターは、曲や感情を表現するための、増幅装置だ。
それらを駆使しながら、鼓舞したり、感傷を呼び覚ましたりする。
自分が、前に出たり、後ろに下がったり、変幻自在になるのも、ギタリストの醍醐味だと思う。
自己顕示欲があり、内省的でもある自分に、ぴったりの立ち位置なのだろう。
俺のギターソロ。うねる音。観客のボルテージが上がる。
実は、俺は、ウィンクができない。
けれど
ギターで、ウィンクをする。
ハートを撃ち抜くのは、簡単だ。