ヒロコは居るのか居ないのか分からない存在感で、バーカウンターに座って白ワインを飲んでいた。
俺が隣に座るなり
「いやぁ、ただ生きるのも簡単じゃないね」
とつぶやく。
「まぁ生きてるだけで偉いんじゃない」
俺は適当に返した。
ヒロコは暗すぎず、明るすぎずの黒めのボブで、ロゴなどは一切入っていない無地の服を好む。
ヒロコが言うには、ロゴを入れる意味が分からない。服に勝手に意味を持たせるなということらしい。
俺はブランドロゴにお金を払っているので、あからさまなデザインでないと困る。
「明日から旅に出るんだ」
ヒロコが言う。
「美味しいもの食べて、買い物して、ゆっくりしてくるよ。」
ヒロコは至ってまともなのだ。
俺には妻と娘がいるが、俺の唯一の楽しみはガールズバーだ。
妻と娘を置いて行くガールズバーほど清々しいものはない。
俺とヒロコは違う人間だ。
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