燈子の部屋

さまざまなことをシリアスかつコミカルかつエッセイ風に(?)綴る独り言的日記サイトです

鬼門の家   其の壱「目撃」

2004-07-28 00:00:00 | 日々つれづれ
ある夏、我が家の飼い猫を巡る大家との諍いがきっかけとなり、両親は別居を決めた。
結婚当初から感じていた価値観の相違というものを、遂に清算することにしたのだ。
そういうわけで、母とわたしは埼玉の某市に移り住んだ。
女2人、しかも離婚でなく別居、という「家庭の事情」は、
面倒な説明の要らない人を好む大家さんには当然のことながら不人気で、
ようやく見つけた新築マンション(というよりアパートという感じだった)が
防犯に不安を覚える1階であろうと、洗濯機置場がベランダにあろうと、
朝日しか入らない北東向きであろうと(いわゆる鬼門ですな)、
白い壁紙に黒くて丸い染みがいくつもついていようと(いわゆるカビですな)、
贅沢なことは言っていられなかったのだった。
だが、実際に住んでみて、妥協するのが早過ぎたことを悔やむことになる。

ある夜、帰宅途中、マンションまであと10メートルのところまで来た時、
マンションのすぐ前の道路に一人の男が自転車を停めるところを見た。
その男はすたすたとベランダに向かって歩いていく。
ベランダの前は市営家庭菜園のため、遮るものは何もなく、
その男の行動は丸見えだった。

なんだ、あいつ?

と思う間もなくその男は乾してあった洗濯物から1つを盗った。

ええーーーっ?!

 
まさか下着ドロ?!

しかも、それって…


我が家の洗濯物!!


わたしは思わず大声を上げた。


「ぬぁにやってんですかあああーーーっ!」


こんな非常事態になぜ「ドロボー!」という単語ではなく長文の丁寧語なのか、
という疑問はさておき、驚いた男は慌てて自転車に跨ると猛然と漕ぎ出した。
わたしは必死で追い駆けたが、何しろ向こうは自転車で、
こちらは運動神経の中でも特に敏捷性に問題がある太めの女。
間もなく数百メートルで見失った。
息を切らしながら家に帰ると、盗まれていたのはなんと…


母の下着!



…なぜだ?(-_-;)



いや、そうじゃなくて、わたしはすこぶる頭に来た。
そして、わなわなと震える思いで警察に届け出た。
もちろん、警察官に気の毒そうに言われるまでもなく、
このテの事件で犯人が捕まることはまずないことぐらい、十分承知の上だ。
それでも、届けたいじゃないか。

だが、越して来て間もないのになんてこった!と憤る間もなく、
変事はこの後も続くのである。