家から一番近いバス停は
直ぐ近くだったけど
何だか、降りる気にならない
思い返せば
途中のバス停で
ひとりで降りる
多分、車掌のお姉さんに
切符を渡す時
ひとりでは、嫌だった
今の子どもたちみたいに
耳年増ではない
世間知らずの小学生には
お姉さんとは
思わず、目を合わせる
それが、怖かったのか
「駅迄乗って行くね」
「うん…」
何にも言わない
友だちも、きっと
ふたりの方が良い
ふたりは
世の中は、不条理
そう思い知らされていた
普通の両親に守られて
世の中は、秩序正しい
そう勘違いしていた
確かに、おかしな事件は
いっぱいいるけど
とうさん、かあさんと
一緒に暮らす我が家では
あんまり、何も起きない
事件は、テレビと新聞の中
おまえには、関係ない
そう思っていた
でも、こうして
両親と離れて
友だちとふたりで
おとなに守られない
そんな世界に飛び出した時
その途端
そこは、ただ無秩序
ひたすら、不条理
そうは言っても、もちろん
この時が、始まり
ただの入り口
世の中には
いくらでも、ごろつき
理不尽な、暴力の支配
当たり前な、世の中
一見、秩序正しくても
一皮めくれば
ただ、混沌
混沌は、大口
必ず、呑み込まれた
いや、そんなのたまか
普段は、秩序で、条理
と思えるのは、上辺
二皮も、めくれば良い
いくらすまして、常識やでも
潜んでいるのは
ただ自愛で、ただ欲望
おまえは、親切ごかしは
確かにされた
でも、その裏では
おまえは、押し除けられ
蹴り飛ばされている
転がされて、気づくのは
無情、無常な混沌
もちろん、こんな
鬱陶しい雑言など
当時は、吐く訳はない
満員なバス、ひといきれ
でも、こんなのは
見た目だけの取り繕い
暑苦しいひといきれも
すました上辺の
見せかけだけの熱気
本当の奥底には
どろどろ燃えたぎる
腐臭のするいのち
サイコパス不良中学生は
人質を引き摺り回していた
運転手さんは
車掌さんを押し倒しそうとした
おまえたちなりの
おとな入り口
だったかも知れない
ふたりの山歩きで
ふたりは迷い込んだ
いのちの混沌、不条理
とにかく、少しでも
おとなになりたければ
自分で、這い出す、逃れる
バスはやがて
街の中心街に入る
バスの車窓に
行き交う人々
本当に、今日
あんなことが、起きたのか…