暮れも、押し詰まって
学校が、お休みになると
隣町の小学校の先生だった
おとうさんも、休みになる
そうなると、餅つきをした
実家の狭い裏手
北側は、高さ2メートルはある
ブロック塀が遮る
あの辺りの平野には
冬になると
故郷の霊山
O山の颪が、吹いた
その為だったかも、知れない
母屋とブロック塀の間の
狭い裏路地で、餅つきをする
台所で、大釜で
餅米を炊いた
確か、それを
せいろに、移した
裏路地で、七輪にかけて
蒸したと思う
真冬のこと、凍えるけど
蒸し上がった米は、熱々
湯気が、凄い
それを、臼で搗く
おとうさんが、搗く
おとこ手は、ひとりだけ
搗く合間に、捏ねる
おかあさんが、捏ねる
おんな手は、二人だけどね
熱々を、捏ねる
この寒さなのに
きっと、火傷しちゃう
おとうさんは、杵だけど
おかあさんは、素手だよ
おとうさんは、思いっ切りで
おかあさんは、様子を見て
さっと、手を入れて
さっと、捏ねる
だって、すぐに
おとうさんの杵が
振り下ろされてきちゃう
早く、捏ねなきゃいけないし
きっと、熱々なんだろうけど
見ているおまえ
おかあさんの手は
上気していて、赤い
寒風の中でも
凄く、熱そうで
とにかく、心配だったな
でも、それだけじゃない
おとうさんの杵で
おかあさんの手が
今にも、打ち砕かれるって
目を、覆いたい気持ちだ
でも、怖いけど
目は、離せなかった
おかあさんが、心配だから
おんな手は、二人なのにね
おばあちゃんも、いるのに
おばあちゃんは
おかあさんに、あれこれ
うるさく言うだけ
おばあちゃんが、捏ねれば良い
そう思うけど
おばあちゃんは
なにしろ、おとうさんの
おかあさんだからね
いちばん、偉い
餅を、捏ねるのは
若いおかあさんが
やらなきゃいけない
でも、おまえは
凄く怖くて、嫌だった
でも、あの家は
出来たばかりで
結局、餅つきは
2回位しか、しなかったかな
そして、最後の時
小学校の最上級生の
お兄ちゃんが
少しだけ、搗いた
おとうさんと、おかあさんに
あれこれ、言われていたけど
ちょっと、嬉しそうだ
いつも、そうだ
お兄ちゃんは、やらせて貰う
おまえは小さいから、ダメ
まあ、小学校一年生だからね
仕方が、なかったよね
でも、終わると
のし餅にして
お正月には
お雑煮にするけど
その日は、そうじゃない
柔らかいままで
寒気に、凄い湯気の
ほかほかの出来立ての
お餅を、食べられる
やっぱり出来立ての、あんこ
あんころ餅、湯気
それと、きな粉
あべかわ餅、湯気
とにかく、ほかほか
湯気、湯気、熱々だ
おばあちゃんと
おかあさんが
いくらでも延びる
そんな餅を
ちぎって、ちぎって
作ってくれる
お酒が飲めない
甘いものの大好きな
おとうさん
そして、子どもたち
おまえもね
出来たてのお餅
ほかほか、湯気がいっぱい
頬張ると
噛み切るのが、大変
でも、飲み込んだら
喉が、詰まっちゃう
一生懸命に
噛んで、噛んで
でも、やがて
とろけたよな
あんころ餅、あべかわ餅
甘くて、甘くて
とろけた…
一年に、たった一回
あの餅つきの日
もう、あの時のみんなは
誰も、いないけどね
おまえしか…
学校が、お休みになると
隣町の小学校の先生だった
おとうさんも、休みになる
そうなると、餅つきをした
実家の狭い裏手
北側は、高さ2メートルはある
ブロック塀が遮る
あの辺りの平野には
冬になると
故郷の霊山
O山の颪が、吹いた
その為だったかも、知れない
母屋とブロック塀の間の
狭い裏路地で、餅つきをする
台所で、大釜で
餅米を炊いた
確か、それを
せいろに、移した
裏路地で、七輪にかけて
蒸したと思う
真冬のこと、凍えるけど
蒸し上がった米は、熱々
湯気が、凄い
それを、臼で搗く
おとうさんが、搗く
おとこ手は、ひとりだけ
搗く合間に、捏ねる
おかあさんが、捏ねる
おんな手は、二人だけどね
熱々を、捏ねる
この寒さなのに
きっと、火傷しちゃう
おとうさんは、杵だけど
おかあさんは、素手だよ
おとうさんは、思いっ切りで
おかあさんは、様子を見て
さっと、手を入れて
さっと、捏ねる
だって、すぐに
おとうさんの杵が
振り下ろされてきちゃう
早く、捏ねなきゃいけないし
きっと、熱々なんだろうけど
見ているおまえ
おかあさんの手は
上気していて、赤い
寒風の中でも
凄く、熱そうで
とにかく、心配だったな
でも、それだけじゃない
おとうさんの杵で
おかあさんの手が
今にも、打ち砕かれるって
目を、覆いたい気持ちだ
でも、怖いけど
目は、離せなかった
おかあさんが、心配だから
おんな手は、二人なのにね
おばあちゃんも、いるのに
おばあちゃんは
おかあさんに、あれこれ
うるさく言うだけ
おばあちゃんが、捏ねれば良い
そう思うけど
おばあちゃんは
なにしろ、おとうさんの
おかあさんだからね
いちばん、偉い
餅を、捏ねるのは
若いおかあさんが
やらなきゃいけない
でも、おまえは
凄く怖くて、嫌だった
でも、あの家は
出来たばかりで
結局、餅つきは
2回位しか、しなかったかな
そして、最後の時
小学校の最上級生の
お兄ちゃんが
少しだけ、搗いた
おとうさんと、おかあさんに
あれこれ、言われていたけど
ちょっと、嬉しそうだ
いつも、そうだ
お兄ちゃんは、やらせて貰う
おまえは小さいから、ダメ
まあ、小学校一年生だからね
仕方が、なかったよね
でも、終わると
のし餅にして
お正月には
お雑煮にするけど
その日は、そうじゃない
柔らかいままで
寒気に、凄い湯気の
ほかほかの出来立ての
お餅を、食べられる
やっぱり出来立ての、あんこ
あんころ餅、湯気
それと、きな粉
あべかわ餅、湯気
とにかく、ほかほか
湯気、湯気、熱々だ
おばあちゃんと
おかあさんが
いくらでも延びる
そんな餅を
ちぎって、ちぎって
作ってくれる
お酒が飲めない
甘いものの大好きな
おとうさん
そして、子どもたち
おまえもね
出来たてのお餅
ほかほか、湯気がいっぱい
頬張ると
噛み切るのが、大変
でも、飲み込んだら
喉が、詰まっちゃう
一生懸命に
噛んで、噛んで
でも、やがて
とろけたよな
あんころ餅、あべかわ餅
甘くて、甘くて
とろけた…
一年に、たった一回
あの餅つきの日
もう、あの時のみんなは
誰も、いないけどね
おまえしか…