一時間は、待たなかった
里山の頂上は
当たり前に、終点だからね
一、二時間の間隔のダイヤ
駅から出て、街外れの里山を
ぐるっと、回ってくる
そんな長めの路線は
ダイヤよりは
相当、早く着いた筈だ
平日の昼間なんて
乗り降りも、殆どない
道も、混んでない
もちろん、おまえと友だち
ふたりにとっては
犯人が、山中から
刀を振りかざして
突然、襲いかかって来る
或いは、入り混じって
崖に穿たれた
防空壕からは
亡くなった兵隊さん
その霊たちが
ぞろぞろ、這い出して来るとか
その程度の妄想は
していた事だろう
身を竦めたまま
ふたりで、交わす言葉もなく
俯いたまま、にもなれない
纏わりつく恐怖の
その正体を
思わず、探ってしまう
見なければ良いに
思わず、俯いたまま
上目遣いに
周囲を窺ったり、とか
息を潜めたままで
きっと、丸一日
いや、永遠に待ち続けている
そんな、錯覚に
囚われていた筈
ふたりとも
そんな時だった
山を上る道から
這い上がって来る
バスのエンジン音だった
真っ暗闇の中にいて
ほんの一筋の光
そのエンジン音は
確かな唸りとなって
やがて、バスだ❗️
殺風景な、山頂の駐車場に
バスは、姿を現した
どれだけ、ふたりは
救われた気持ちだったか
直ぐに、立ち上がって
バスを迎えただろう
当時は、もう
ワンマンカーはあった
でも、この辺地路線は
車掌さんが、乗っていた
バスは、止まり
車掌さんが、飛び降りて来る
笛を吹いて、誘導
終点の殺風景なバス停
二人が、その前に立っていた
ペンキの剥げたベンチ
その前に、バスを停める
車掌のお姉さんは
随分と無愛想
だいたい、このバス会社
地元の寡占企業だけど
かなり、評判が悪い
乗務員さんのガラが悪いと
まあ、それは
今は、良い
犯人からは
守って貰えるだろう
それにしても、お姉さん
子どもが、ふたりだけなのに
一瞥もしない
黙って、バスに戻った
自分たちふたりも
あとを追って
バスに乗った
お姉さんから
切符を買ったのだろう
でも、記憶にない
半世紀以上前だから
当たり前だけど
でも、その頃から
記憶になかったと思う
それ以前の恐怖
車掌のお姉さんと
運転手のお兄さんと
そのそっぽを向いた
よそよそしい態度
それで、記憶がない
多分ね
まあ、それでも良い
ふたり以外のひと
それも、おとながいる
何よりの救いだった
多分古いバスだから
二人掛けの椅子が
並んでいたのだと思う
ただ、冷たい車掌さんと
そっぽを向いた運転手さん
気まずいおまえたちふたり
後ろの方の座席に
座った記憶がある
車掌のお姉さんも
おまえたち以外いない車内
まだ、出発時間迄は
かなりあるからね
おまえたちからは、反対側
真ん中のドアの前あたり
その席に座った
車掌さんの定位置は
真ん中のドアの後ろ
そこに立つ場所があった
ふたりは、とにかく
ほっとしていた
生きた心地がしなかった
でも今は
いくら冷たくても
おとなが、ふたり一緒
ただ…
その時だった
運転手のお兄さんが
突然立ち上がり
振り向いて
車掌のお姉さんに
黙って歩み寄る
そっぽを向いたままのお姉さん
そして、な、なんと⁉️
お兄さんは、お姉さんを
押し倒そうとする
「…良いじゃねえかっ😎」
「やめてよっ💢
子どもが、見てるじゃないっ💥」
いやいや…😱😱
見てませんけど💦
とにかく、見ちゃいけない😓
ふたりは、俯き
縮こまっていました…