とにかく、晩年のしろは、艶やかだった真っ白な毛並みが、埃まみれに汚れて、誇り高いと言うよりは、埃、ごほごほっの犬に成り果てて、しまいましたから。
狼は、草原で、太古の人類とは、競い合っていた訳です。お友だちでは、ありませんでした。しかし、狼のご先祖たちは、人間の群れ、集落に近付きます。人間の集落から、生まれる食べ残しなどを漁ると、普通に狩りをしているより、余程簡単に、食べ物に、ありつけました。
もちろん、狼が、人間の食べ物を、掠め取ったこともあったでしょう。人間を、襲ったり。人間も、反撃して、敵対的な関係は、更に長く続いたのに、違いありません。
しかし、狼の中に、人間の集落に、どんどんと近づいて行く個体が、現れ始めます。人に、尻尾を、振ったりして。すると、人も、食べ物を、分けてあげたりする。やがて、お互いに、群れの動物ですから、更に、馴染んでいく。そして、狼に、人と一緒に暮らすような個体が現れます。そうして、犬になっていったようです。
草原の覇者だった狼、大ハーンと同族だった狼が、情けないしろのご先祖に、落ちぶれた訳です。
しかし、犬の最大の不思議は、その多様な犬種に有ります。狼は、絶滅した日本狼のような、大陸から途絶された、平地の少ない列島と言う特殊な環境で、独自に進化した種もいます。それでも、大陸の狼と、大きさが違うだけで、かたちが、そんなに違う訳では、ありません。大きさも、セントバーナードやグレートデンと、チワワ程の違いは、ありません。一つの種で、犬ほど多様な見た目や、大きさのある動物は、いません。直接的な先祖とされる狼と比べても、まったく異なった特徴です。
自分が見た公共放送のドキュメンタリーにあった実験的な研究の話です。ロシアの研究です。旧ソ連時代から続く、研究でした。種の進化と言うか、変化と言うか、そんな研究です。きつねでした。きつねは、警戒心の強い動物で、犬はもちろん、狼などと比べても、人とは、馴染まない動物とされているようです。
その研究者は、そのきつねを、巨大な犬舎のようなところに捕獲して、餌付けをしていきます。そして、繁殖させて、増やしていきます。新しい世代のきつねたちは、生まれた時から、人間に餌付けされ、飼われています。最早、野生とは言えません。
その実験は、延々と続きます。数世代が、経過します。すると、きつねに、毛色の違うものとか、尻尾が、犬のようにふさふさしていたりとか、大きさも少し違う個体が、現れ始めます。それが、更に、代を重ねると、顕著になっていきます。野生で生きる脅威から解放されたきつねが、独自に様々に、進化した。目立ち易い個体が、野生の自然界で、淘汰されるようなことがなくなったのだと言うような結論だったと思います。そして、その研究は、同じ世紀の中で、成されたもので、何百年もの期間を、要した訳ではありません。きつねでも、一つのロシアの特定の種を、掛け合わせたに過ぎません。それが、僅か、数世代で、犬のような多様な種類が、生まれ始めたのです。
さすがに、旧共産主義超大国らしい、やや意図の不気味さも感じる研究ですが、間違いなく地道な研究が、薬物などは使われることなく、行われているようでした。犬も、あんな風に、多様に進化してきたのでしょうか。いや、この研究は、犬と言う単一の種に、何故あのような多様な犬種が存在するのかを、実証的に解き明かしていく研究でもありました。だから、そのきつねたちと、同様な過程で、案外早く、犬は、多様な犬種が生まれたのでしょう。そんな風に、犬の進化の過程を、結論付けていたと思います。
しろが、毛の薄いピンクの地肌のお腹を、丸出しにして、バンザイポーズで、18禁の大股開きで、無防備に寝ている姿を見ると…
いや、犬は、人間にこころを売った草原の覇者、狼の無様に退化した、成れの果てなのだと、思えてきます。しろ!もっと、シャキッと、しろ‼︎あっ、駄洒落ですいません…