アルバム「演歌名曲コレクション17〜最後と決めた女だから〜」全12曲後半の6曲はカバー曲です。7曲めは矢吹健さんが昭和43年に発表された「あなたのブルース」。Kiinaの歌唱はこちら↓
https://m.youtube.com/watch?v=N_ccPq64Iac
歌詞は歌ネットより。
https://www.uta-net.com/song/138430/
この曲は矢吹健さんのデビュー曲でした。初めてこの曲を聴いた時の衝撃を今でも覚えています。「こ、怖い…」。
でも嫌いではありませんでした。「あなたあなた」とひたすら連呼する矢吹さんの背後に、一途にひとりの男性だけを思い続ける女性の姿が見える気がして。私はまだ小学生でしたけど。
Kiinaは長良会長に「良い歌があるんだよ」と言われていて、どうしてもアルバムに入れたかったそうです。
この年の10月2日放送の歌謡コンサートで、偶然この曲の歌唱依頼がNHKからあったそうですが、この時もうレコーディングは済んでいたのでしょうか。
ダビングの山の中からこの日の歌謡コンサートの録画を探し出すのに小一時間、1枚のディスクに2011年と2012年の歌謡コンサート15回分のKiinaを詰め込んでいたので、10月2日にたどり着くのに更に小一時間かかりました(ついつい全部見ちゃったせいです)
この日は綾小路きみまろさんがゲストで出演されていて、Kiinaの「あなたのブルース」にイントロナレーションをつけてくださいました。
今改めて聴いてみると、きみまろさんのナレーションと、私のイメージする「あなたのブルース」はちょっとズレがあるかな?という気がしました。
きみまろさんは「失った恋」と捉えていらっしゃいましたが、私はこの歌にはストーリーがない、全編をひたすら「情念」だけで塗りこめた稀有な歌だと思っています。
女性の情念を歌った歌は沢山あります。例えば「天城越え」は不倫の歌ですし、「夜桜お七」は逢いに来てくれない相手に愛憎をぶつける歌。そこにストーリーがあります。
でも「あなたのブルース」は、どんな相手なのかどんな恋なのか、失った恋なのか、それ以前に相手に届いてもいない恋なのか、「あなた」について何ひとつ説明がありません。
描かれているのは「あなた」だけが世界の全てであるという「私」の心だけです。
そしてKiinaの歌唱は。
Kiinaは「レコーディングの時、入りこみ過ぎてちょっと苦労しました」とお話ししています。Kiinaは憑依する人ですから、ディレクターさんに「もう少し抑えて」と注意されたのでしょうか。
CDを聴いてみると、1番は少し感情をセーブして、その分を2番にぶつけていますね。
特に「ルルラ ルラ」から「押さえ切れずにはげしく 泣いて唄うは」の流れは、感情の嵐、まさに慟哭そのものです。
「あなたのブルース」は大変インパクトの強い曲でヒットもしましたので、沢山の歌手の方がカバーされていますが、色々聴いてみると、なるほどただ歌唱テクニックがあるだけでも、創唱者の矢吹さん並にハスキーボイスなだけでもこの歌は響いてこない、どこかに飛んでいっちゃった?ぐらいに気持ちが入りこまないと、この主人公の感情の深い部分までは表現出来ないのだろうと思いました。
Kiinaが会報の中で「こんな曲調のオリジナル曲が欲しい」とお話ししていましたが、「あなたのブルース」を何十回と繰り返し聴いていて、ふと「『枯葉』のMVの世界が近いと言えば近いのでは?」と思いつきました。
「あなたのブルース」のように感情を思い切りぶつけられる曲が、本当はKiinaは好きなのでしょうね。国フォのスペシャルコンサートで歌ってくれたほか、翌年のツアーコンサートでもセットリストに入っていました。
余談ですが。
「あなたのブルース」は、一面では「あなた」を思う「私」のブルースでもあります。
この「私」を矢吹さんとKiinaは「あたし」と歌っていて、カバーされた歌手の方は「あたし」派と「わたし」派に分かれるようですね。
それぞれイメージの中でどんな主人公として歌っているかによるのでしょうか。
矢吹健さん。2015年に亡くなられました。ご家族も次々に失くしておいでで寂しい晩年だったようですが、「あなたのブルース」は名曲としてこれからも何人もの歌手によって歌い継がれていくでしょう。