でかい相撲取り
先週、連休明けの火曜日、朝7時5分発の飛行機に乗るため空港に向かった。博多で学会があり演題を発表するためだ。
その学会は、自分の専門の学会で、専門医の資格を維持するために参加しなければならない。さらに演題の筆頭者だとポイントが追加されるので発表する事にした。
いつものように朝早く起きて、6時ごろのモノレールに乗り空港に向かった。
閑散とした空港に着き、人がまばらな手荷物検査場を通って、ゲートに着いた。飛行機まではバスで送迎しますと書いてある。これはプロペラ機ということだ。
何度か乗ったことがあるが、定員は30数名だったと思うが、小さくて座席が狭く快適なフライトとはいえない。
自分が一番と思っていたが、ゲートの待合に先客が座っていた。
後ろ姿だけだが、でっかい身体の相撲取りである。でかい背中の上にスイカのような丸い頭がのっている感じだ。
飛行機の狭い座席で、あんな大きな人の横に座るのは誰でも遠慮したいと思うだろう。
細身のスーツ
自分の横に相撲取りが座ったら困るなあ、と思いながら、トイレに行き、新調したスーツの見栄えを確認した。
学会なのでオシャレにしていかないといけない。知り合いに会ったとき恥ずかしい思いをするからだ。
前回書いたようにLLからLサイズになったのでウエスト周辺がすっきりしている。
自分で言うのもなんだけど、カッコいい!!!
トイレから待合に戻ると、でっかい相撲取りの横に小さな付き人風の若い相撲取りが座っていた。やっぱり、この人は凄くでかいのだ。
満席
そして搭乗の時間となる。30から40人程度の乗客が一斉に立ち上がり、搭乗口に並ぶ。
受付の職員がマイクで、「当機は満席です。機体が小さいので大きな手荷物は別に収納します」とアナウンスしていた。
でっかい相撲取りも立ち上がって列の後ろの方に向かった。遠慮して最後に搭乗するつもりなのだろう。
顔を見たら、どこかで見た顔だった。まわりの乗客から「いつのじょう、だ!」というささやき声が聞こえてきた。
どおりで、でかいわけだ。後でネットで調べると身長192センチ、体重200キロだそうだ。
狭いトイレ
機内に入り通路を歩きながら、搭乗券を取り出して自分の席を確認した。確か、10番前後だったな、と思いながら搭乗券を見たのだが、券が小さくて座席番号が見づらかった。
寝ぼけマナコで確認すると、8Bであり、席を見つけてドカンと座り込んだ。
ふっと目をあげると2つ前の席に、その売り出し中の巨体力士が2席分を占領して座っていた。
確かにこの小さな座席だと2席を使わないと絶対に座れないだろう。
ちょっと離れた席に座った付き人風の小さな力士は、普通のお客さんの隣だ。
それでも窮屈そうに見えた。やっぱり小さくても相撲取りの横には座らないほうがいいのかもしれないな。
低気圧で雨が降っている中を離陸した。
しばらくしてトイレに行く。さっきは自分の姿を見ただけで、今度はホントに用事を済ませに行った。
トイレも恐ろしく狭かった。自分の身体でも中にやっと入る事が出来て、さらにしゃがむのも苦しいくらいだった。
何という狭さだろうと思いながらも、トイレから出て席に戻る。
例の相撲取りは座高も高いようで、座っていて天井までの空間が10センチ程度しかないようだった。もう少し身長が高かったら、頭を横にしながら座らざるを得なかったのだろう。
自分は普通サイズよりもちょっと小さいけど、このサイズで良かったとつくづく感じた。
すると、後ろの方から通路を通って、身長が相撲取りと同じくらい背の高い若いサラリーマン風の人がトイレに行った。
おそらく、あの人はトイレに座ることが出来ないと思う。
入ってから、すぐにトイレから出てきた。きっと座らないまま、立ち小便だけだったのだろう。それでも、凄く苦労したはずである。もし大便だったとすれば、しゃがめないので我慢せざるを得ないと思う。
12A
自分は、トイレもすませて落ち着いた。手持ちぶさたになり、暇を持て余して何となく搭乗券を見てみた。
すると驚いた。搭乗券が機械からプリントアウトされた時には気がつかなかったが、帰りの座席も書いてあった。それが8Bなのだ。そして行きの座席を見ると12Aになっている。
自分は12Aに座るべきだったのに、8Bに座っている。
ということは、8Bに座るべき人が、飛行機に乗っていなかったのだ。
満席のはずなのに、2つくらい座席が空いていて、案の定、自分の場所である12Aは誰も座っていなかった。
一瞬、キャビンアテンダントに言うべきかどうか迷ったけど、意味がないのでやめることにした。
そんな訳で偶然には偶然が重なってしまったようだ。
ただ、後ろの席に座っていたら、あのでかい相撲取りが座っている様子を観察することは出来なかった。そう考えるとラッキーだったのかもしれない。
それにしても、座席番号が書いてあるクーポンが見にくいのは何とかしてほしいが無理なのだろう。座席の分かりにくさは日航>>全日空だと思う。
そして、自分が誤解して真実を知らないまま、どんどん物事が進んで行ったことにあらためてビックリであった。
咳発作
今回の学会発表までは、色々なスケジュールが立て込んでしまって、最後の方は結構苦しい毎日だった。
別の学会の申し込みの締切りや講義の依頼、色々な頼まれ事などがあったうえに、連休初日の土曜、例の診療所の代診が重なった。すごく患者が多い日で、また風邪ひき患者も多く、何と半日で80人くらいを診察することになった。
もとより、締切りや学会発表自体がストレスであり、10日くらい前に風邪をひいた後、咳がひどくなっていたのだが、代診の後、次の日から完全に声がかれてしまった。
喋ろうとしても、おかしなガラガラ声でかすれた声しか出なくなってしまっていた。
もっと困ったのが、突然激しく咳き込むことである。電車の中でも咳が出はじめたら止まらなくなって、まわりの人が自分の方から顔をそむけていた。
飛行機の中でも、途中で一回か二回、咳が出始めて止まらなくなったが、何とか乗り切った。
幸い朝早い飛行機だったので、ほとんどの乗客は眠っていたし、例の大きな相撲取りも大きな頭が横に傾けて窓の上の方の壁が枕代わりになって、グーグーと眠っていた。
力士は、本場所が終わった後なので、大阪に用事があり(ひいき筋に呼ばれた?)、次の日の朝、博多にとんぼ返りしたのだろうか。
そして、咳発作は学会でも続いた。とても苦しくてひどい声だったが、何とか発表した。
門前払い
学会で発表した内容は、尿検査に関する自分の新しい仮説を提唱したものである。
尿潜血と蛋白は、本来別の検査である。しかし、潜血に含まれるヘモグロビンを蛋白測定で拾ってしまうことがある。
自分も知らなかったし、ほとんどの人がこの事実を知らないが、専門家中の専門家であるほんの一握りの人は知っている。
問題は、専門家の共通認識として、大量に出血した場合にのみ、蛋白が陽性になるという解釈なのだが、自分の仮説は潜血が+ーの方がより鋭敏に蛋白に影響するというものだ。
まったく新しい仮説を発表するので、どう証明していくのかが問題である。
この何ヶ月かずっと悩んでいて、発表の3日くらい前にようやく一定の結果を得て発表したのだ。
発表が終わると、2人の座長は、質疑応答をしないまま「出血は個人差が大きく病態に関係するので何とも言えないでしょう。潜血3+の時だけ蛋白は出ます」と言って、セッションを終わってしまった。
とてもガッカリしたけど、予想通りだった。
色々考えたが、、やはり自分の方が正しい、彼らは見たことも聞いたこともない話で発表内容をフォロー出来なかっただろう。
コメントすることが出来ないので門前払いにしてしまったのだろうと考えている。
オーバーだけど、昔の偉い人が「それでも地球が回っている」とつぶやいたように、自分も「それでも、自分の仮説が正しいのだ」と確信した。
前人未到の荒野
こうなると、自分にとって、これから、この仮説をどうやって発展させていくかが、とても重要になる。
このままで終わると、動脈硬化でガチガチになったような専門家の思うままであり、もっと誰でもが納得するような事実を示して論文にまとめてみたい。
今、自分は、誰も知らない未知の世界を見ているのである。
ここまで来るのに半年かかっている。これから、どのくらいかかるか分からないけど、わき目をふらずに数理統計学の基礎から勉強し直して、今、見えている現象を数式で説明できるようになりたい。
前人未到の荒野に新しい道を開いていくのだ。
悪夢のような発表から1週間たって、ようやく激しい咳発作からも解放されつつある。
一から出直おして、新しいスリムなボディを維持しながらくじけずに不屈の精神で頑張ります。