ストーリー(物語)を作る
心臓のエコー検査は、自分にとって全く未知の領域だったが、医学全般の基礎知識と診療経験から、2,3冊本を読んだあたりで理解が進んできて今は大まかに全体の理解が進んだようだ。
おかげで、どこがどのように大事なのかを踏まえてどう教えるかに進んできた。
今は、教える相手がその人なりに理解できるよう導いていくストーリーを作る事だ。
何も分からない略語が、教える人の頭の中で概念として固まり始めるためには、心に残るようなストーリーを作るのが大切だ。
心エコーのストーリー
具体例をあげておくと心筋梗塞という病気で説明する。心臓全体の下半分にしか病変は起こらない、とか心臓の中隔の上を冠状動脈3本のうち真ん中が栄養しているとか、さらに中隔と心筋は構造的にガッチリしているので、中隔が絡まない部分の壁を自由壁と言ってそこが破裂しやすい等‥のように、無味乾燥で羅列されている重要事項をストーリーで説明できる。
ここで「圧容積曲線」という重要概念でストーリーを完成させて心不全への理解へと進めるつもりなのだが、この概念が多くの人にとって鬼門のようだ。ベテランでも分かりませんとか言う。
ここで「圧容積曲線」という重要概念でストーリーを完成させて心不全への理解へと進めるつもりなのだが、この概念が多くの人にとって鬼門のようだ。ベテランでも分かりませんとか言う。
その反応は、20年くらい前、遺伝子の研究が進んでいろんなことが明らかになってきたころ、誰もが「遺伝子が分からない」と言っていた時代を想い出してしまった。
このように自分なりのストーリーを作って説明できる人は、それについて相当理解が進んでいると思う。
その目安は「まるで見てきたように説明できる」事ではないかと思っている。
ある偉い先生のこと
30数年前、自分が大学院生だった頃のボスは、その後文化勲章をもらっている偉い先生だった。
その先生が研究の打ち合わせをする時に話されるストーリーがとても面白くていつもワクワクして聞いていた。自分の視点よりも遥かに上の方で、まるで高い山の上から遠くの方を眺めて、あそこはこうなって、ここはこうなってという感じで研究の方向性を語っておられた。
たまには言った事が外れた事もあったが(これが科学の凄いところで、時間がたてば正しいか間違いか分かる事が多い)、おおむね当たりばかりだった。
全く未知の世界を、まるで見てきたかのように道案内をしてくれるのである。
厳しい研究室だったけど、誰もがボスの方針に納得して朝早くから夜遅くまで実験していた。
全く未知の世界を、まるで見てきたかのように道案内をしてくれるのである。
厳しい研究室だったけど、誰もがボスの方針に納得して朝早くから夜遅くまで実験していた。
ある病理の先生も、この見てきたように説明できる人だった。他所からわざわざ呼ばれてきた先生で、病理解剖の結果説明を、物語を語っているかのように、ここがこうだから、この時こうなってとか、それを聞いて誰もがウンウンとうなずいていた。
これまで牧師さんの場合も、心に残った話をブログで紹介してきた。聖書も、物語を通してキリスト教の教義を学ぶ素材であり、2000年前の話が見てきたように語られる。
これまで牧師さんの場合も、心に残った話をブログで紹介してきた。聖書も、物語を通してキリスト教の教義を学ぶ素材であり、2000年前の話が見てきたように語られる。
このストーリーを作るというテーマはビジネスでも重要視されているようだ。以下、最近読んだ雑誌から引用します。
週刊ダイヤモンド 2019年9月28日号 65ページ
週刊ダイヤモンド 2019年9月28日号 65ページ
ビジョンのない組織からは徐々にエネルギーが失われる。このビジョンをどのように人に伝えられるか、そこで求められるのは、「物語を伝える力」だ。
著作家の山口周氏は、人は与えられる「意味」の豊かさによって、放出するエネルギーの量が大きく変わると述べる。
いたずらに売り上げや生産性などの乾いた目標だけを掲げて叱咤するというリーダーは組織からモチベーションや創造性を引き出すことは出来ない。
著作家の山口周氏は、人は与えられる「意味」の豊かさによって、放出するエネルギーの量が大きく変わると述べる。
いたずらに売り上げや生産性などの乾いた目標だけを掲げて叱咤するというリーダーは組織からモチベーションや創造性を引き出すことは出来ない。
「意味」や「物語」をつくり、人に伝える事の出来る人物が今後は大きな価値を生み出すという。
どのような意味や物語を紡ぎだせば人の心を動かすかは、論理では答えを出すことができない。とはいえ直感だけでは説得力に欠ける。
どのような意味や物語を紡ぎだせば人の心を動かすかは、論理では答えを出すことができない。とはいえ直感だけでは説得力に欠ける。
「直感と論理をしなやかに使いこなすこと」が大切であると山口氏は言う。
引用終わり
引用終わり
ビジョンとは
それでは、ビジョンとはなにか。同じ雑誌の36ページと61ページに書いてある事をまとめると、「現状」に対して「あるべき姿」がビジョンである。
それを書き出して現状と理想のギャップを問題としてとらえて分析する。これをギャップ分析と呼ぶ。
日本人は問題を解く事には長けているが、問題を自ら提起することはほとんどやってこなかった。その理由はビジョン、即ち「あるべき状態の欠如」にある。
日本人は問題を解く事には長けているが、問題を自ら提起することはほとんどやってこなかった。その理由はビジョン、即ち「あるべき状態の欠如」にある。
以下、自分の意見を書く。
ここで整理すると、ビジネスでは、なぜ「あるべき状態の欠如」となるのだろうか。
それは日本の会社の組織では上意下達の意思決定システムがはびこっているからなのだろう。
上司がやれと言わない限り、部下は出来るだけ先延ばしにしたりするので、あるべき状態が放置されやすいのではないだろうか。
その背景には、自分の守備範囲だけを守って目立たないように生きていく処世術があるのだと思う。
誰もが気がついていることでも、上司がガミガミ言わない限り、お互いのために何もしないのが問題なのだろう。
誰もが気がついていることでも、上司がガミガミ言わない限り、お互いのために何もしないのが問題なのだろう。
一方、私のかかわっている心エコーの教育は、当たり前だけど、新人はどこまでが大事でどこからがあまり必要ないのか全く分からないこと、また医学用語のラテン語や英語の知識に乏しいので、自己研鑽するにしてもあるべき状態が分からないのだ。
まるで見てきたように知らない世界を案内してくれる道案内人が、今の自分の役割なのである。
まるで見てきたように知らない世界を案内してくれる道案内人が、今の自分の役割なのである。
一緒に手取り足取り本を読んでくれる人がいないと、低レベルのまま完結してしまうのだ。ただし、一つ気をつけて欲しいのは、自分は経験した事はないが、詐欺師も「まるで見てきたかのように嘘をつく」のだそうだ。
あくまでも自分の直感を大事にして騙されないようにしてほしい。